止まり木になりたい


 女子サーヴァントから誘われたお茶会を終えて部屋に戻ろうとカルデア内を歩いていたら、休憩室の長椅子で横になっている坂本さんを見付けた。
お休み中なのか、坂本さんはいつも被っている白い帽子をアイマスク代わりに顔の上に乗っけて横になっている。
きっとお疲れで眠ってるんだろうなぁ…って思って側まで近寄ってみたら、此方に気付いた様子の彼がちょっとだけ帽子を透かして顔を覗かせ、「やあ、マスター」と声をかけられた。
其れに対して、寝てる訳じゃなかったんだと思うと同時に、もしかしたら…と思って、軽く気遣う体で「私が近付く気配とかで起こしちゃいました?」と訊いた。


「いや…元々寝ていなかったし(そもそもサーヴァントだから休みはすれど本当に眠る訳ではないし)、純粋にただ躰を休めてただけだから心配しなくて大丈夫だよ。いつも色々気遣ってくれて有難う」
「えっ、い、いえいえ此方こそ飛んでもない…っ!いつもお世話になってるのは私の方ですから!」


 休んでいるところを邪魔してしまったのだから、邪険にされども感謝される謂れはないというつもりで慌てて手を振って返す。
その対応にユルく笑ってみせた彼の様子に「何処か元気がない…?」と内心思えて、其れとなく探る言葉を口にしてみた。


「坂本さん…もしかしてお疲れ気味です?」


 すると、きょとんとした後に苦笑いを浮かべた坂本さんは。


「流石は我等のマスターだ…此れでも、あからまさまには分からないように隠してたつもりなんだけどね。参ったよ、降参だ。素直に白状するよ…っ」


 ――と、返してきた。
直接的には触れないけど、きっと本当は抑止の力としての立場で悩んでいるんだろうなって察して、一端の小娘だけども彼の気持ちが少しでも和らいだら良いなとの思いで小さく微笑みを浮かべて言った。


「…少しだけでも良いですから、今の間だけゆっくり休んでてください、坂本さん。お竜さんが側に居なくて一人だと落ち着かないという事でしたら、私が側に付いてますから」


 そう言って、彼が横になる長椅子の端っこに失礼して、帽子で顔(というか主に目元)を隠してる彼の頭を持ち上げて膝の上に乗せる。
その拍子に帽子がずり落ちたので、其れを直してあげようとしたところで目の前で星が散ったみたいに呆気に取られてポカン…ッ、とする坂本さんと目が合った。
 瞬きを挟んだ後に首を傾げて「どうしました…?」と問い掛けかけ、直ぐ様現状の姿勢の方に思考が追い付き、咄嗟に慌てて謝罪した。


「あ…っ、す、すみません…!お疲れなんじゃないかと思って、少しでも楽になったら良いなぁ〜という感じのつもりでの事だったんですけど…っ、余計というか、明らかに差し出がましい事でしたよね!?はわわわ…っ、私ったら深く考えもせずにいつも行動しちゃって、本当御免なさいぃ〜っ!!」


 そんな私の調子に気が抜けたのか、漸く力の抜けたような笑みを見せてくれた。


「…あははっ。有難う、マスター。其れじゃあ、お言葉に甘えて少しの間膝借りるね…?」


 そう言って落ち着いた様子の彼は、そのまま静かに目を閉じて眠る体勢を取る。
まぁ、始めからそのつもりだったから良いけれども、まさか本当にこのままお休みになられるとは思いもしなかったので、暫くその場で放心し坂本さんの頭を眺めるのであった。


 ―その後、暫くしてからお散歩に出掛けていたお竜さんが帰ってきて、私の膝の上で休んでいる彼の姿を見て。


「何だか珍しい光景だな…?何方かと言うと、リョーマとマスターのポジション逆なんじゃないか?」


 …と、第一声にそんな感想を零すのだった。

 其れに対し、声には出さないけど内心笑ってる坂本さん…実はマスターに甘やかしてもらえて(マスターを独占出来る意味合いも含めて)嬉しそうだったとは、この時気付いたお竜さんだけが知るところなのである。

本人が直接言葉にして言う事は無いけれど、彼女の柔らかで優しい気遣いに心底癒されホッと安堵の溜め息を吐ける環境が整っている、彼女が側に居てくれるその事が自身の心の安らぎとなっている事に感謝している坂本さんなお話でした。


執筆日:2020.10.24
加筆修正日:2021.10.03
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