斎藤一に気を狂わされた女の話


 英霊との恋愛とか、しんど過ぎる以外の事って無いやん……?

 ――ってな思いから、一方的・片道通行でしかないであろう片思いを始める前に自主的に終わらせたつもりだった。
“だった”のだが…思いの外、彼への想いを募らせ過ぎていたようで、自分勝手に自分の都合で一方的に終わらせた実りもしていなかった恋情を捨て去るのはあまりにしんどい行為であった。
そのしんどさ故に、遂にはカルデアのメインマスターことぐだ子ちゃんへと弱音を吐き出してしまう流れとなり…。


「ぐだ子ちゃん…ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、お話聞いてもらっても良いでしょうか……?」
「えっ、どしたの?そんな藪から棒に改まっちゃって」
「実は…とある方にときめきを隠せないと言いますか…、ぶっちゃけ一目惚れにも等しい感情を抱いていたみたいなんですがね……」
「うんうん、其れで…?」
「ぐだ子ちゃん的な率直な意見を聞きたいんですけど…ぶっちゃけ、サーヴァントとの恋愛ってアリですか、ナシですか……?」
「あ、サーヴァントの誰かしらを好きになっちゃった、って事かな?うーん、私個人の意見としましては…アリ寄りのアリだと思ってるよ。だって、恋なんて誰が誰をどんな人を好きになったって自由だと思うし?そもそも、恋って意識しようと思って出来るものではないと思うから。自分でも気付かない、知らない内に落ちてるようなもんだしね。そういう意味合いで言えば、純粋に単純に考えて自由であって良いんじゃないかな、って私は思うなぁ〜」
「まさかの肯定派意見に驚きを隠せず動揺が凄まじいデス、先生…ッ」
「え、何。今の流れ、もしかして否定して欲しかった系だったの?」
「いっそ否定的な意見を言われた方がスッパリ諦め切れてたのにぃ〜……っ」
「え、や、ちょっと待って、まさかの諦めたくて相談持ち掛けてきたパターンだったの!?」
「だぁって、サーヴァントと恋愛なんてただただこっちがしんどくなるだけじゃん……ッッッ!!どうせ最後虚しくお別れの末路となるくらいなら、傷が浅い内に終わらせとく方が自分の為でもあるし、相手の為にもなるでしょ!?だから、一方通行の片思いを募らせ過ぎる前にスッパリと諦めて今抱えるこの感情とおさらばしようと思ってたのォ…ッ!!其れなのに…誰か一人でも肯定してくれる人見付けちゃったら、その意見に縋りたくなっちゃうじゃんか、どうしてくれるゥ〜ッッッ!!」
「思ってたよりもクソデカ感情拗らせてたし。しかも、其れ、ガチ恋ですやん??こら、アカンわ。ちょっと私一人だけでは心許ないから、一旦専門の人呼んでくる…!そんで、一回全部吐き出してみよ!!ねっ!?」


 そんなこんな、ぐだ子ちゃんの采配で緊急恋愛相談所が開かれる事となった。
メンバー等についてを含む詳細の説明は、敢えて此処では省かせて頂こう…。

 兎に角、その一件があって以降…改めて自覚させられたからなのか、何か変に意識しちゃうせいで、はじめちゃんから話しかけられそうな空気になったらあからさまに避けるようになってしまったのである。
 恋する乙女の典型的パターンな行動に、我ながら“草ァ…ッ”と思う。
おまけに、彼には何の罪も無いしで本当に申し訳ないと思っている。
 だが、躰が勝手に恐れて逃げ腰になってしまう為、しょうがないのだ。
最早、しょうがないで通すしかない現状である。
 一方で、何も知らない、避けられるような事をした覚えの無いはじめちゃんからしてみれば、私の取る行動は不可解なものでしかないだろう。

 ―故に私の居ぬところで、私と契約するサーヴァントであるおっきーにコソリと耳打ちするように問うのであった。


「ねぇ、沖田ちゃん…僕、最近君のマスターちゃんに避けられてるみたいなんだけど、何か知ってる…?」
「え?特に何も聞いてないですし、知りませんけども…斎藤さん、何かやらかしたんですか?」
「いや、其れがなぁんも覚えが無くって困ってんの。彼女のサーヴァントである沖田ちゃんなら何か知ってるかなぁ〜と思って訊いてみた訳なんだけど、当てが外れたかぁ…」
「うわ、理由も分からず避けられるような事したんですか、貴方…?最っ低ですね!」
「酷い言い掛かりじゃん…。マジで僕何にもしてないし、変な事言った覚えも無いんだけどなぁー…?」
「いっその事、本人に直接訊いてみては?その結果どうなるかは私は知りませんし、責任も取りませんけども」
「其れが出来てたら端から沖田ちゃんに相談持ち掛けてなんかないでしょォ…っ」
「其れもそうでした!まぁ、程々に頑張ってください!一応、応援はしますけども、個人的にはマスターが第一なので、マスターに何かあった時は遠慮無く斬りますからそのつもりで!」
「わぁ、沖田ちゃんってば相変わらず容赦無い上に僕に対しての信用無さ過ぎでしょ……ッ。一体、僕が何したって言うのさ…?」
「さぁ?特にコレといって思い付きませんが、避けるなりの理由が何かあるって事だと思うんで!下手こいてマスターの事を泣かせたりなんてした暁には覚悟しておいてくださいね!斬る用意ならいつだって出来てますから!」
「ハハッ、すんっっっごい笑顔で言ってくるじゃん……コッワァ。まぁ、触らぬ神に何ちゃらとは言いますから…?変に拗れない内にどうにかしときますわ。じゃないと、これから先の任務に影響が出ないとも限らない訳だし?話聞いてくれてありがとね、沖田ちゃん」
「いえいえ、此方こそどういたしまして〜!御礼は一仕合組むで手を打ちますから!」
「いや、其れは勘弁願うわ…だって、沖田ちゃんの剣面倒くさいし」
「えー!!其れ言ったら斎藤さんの方こそ面倒くさいですよーっ!?」
「まっ、何にせよ、話聞いてくれてありがとね。後はこっちでどうにかしとく」


 二人の間でそんな遣り取りがあっただなんて露知らず。

 ―後日、偶々彼が近くに居るタイミングでノッブの余計な一言が切っ掛けとなり、密かに彼を好き慕っていた気持ちがバラされる事となるのである。
 其れは、本当に偶然と言える場面であったように思える。
何処から聞き付けたのか、私が彼に惚れているとの噂を耳にしたらしい彼女が通りすがりに話しかけてきたのだ。


「のう、御主、小耳に挟んだ話なんじゃがな?どうも、あの壬生浪士の事を好いちょるって聞いたんじゃが、本当か?」
「ぅえ!?そっ、そそそその話、どっから…ッ!?」
「おんやぁ〜?その反応…さては御主、隠れキリシタンならぬ隠れ恋愛とやらのつもりじゃったなぁ!?いやぁ〜っ、気付かぬ知らぬは本人ばかりってヤツじゃのう…!」
「えっ、嘘、待って、ノッブ其れどういう事、待って頼む教えろください…ッ!!」
「必死か!いや、儂かて人より聞いた話じゃったからな?本当の話かどうか、ここ数日観察しておったのよ。そしたら、まぁ〜彼奴へ向ける御主の視線が熱い事熱い事…!見とるこっちが焦れったくなるくらいじゃったから、思わずちょっかい出してやろうかと画策したくらいじゃったわ!!うはははははぁっ!!」
「ヒッエ…!?勘弁してよ、マジで…!!こっちはこっちで必死で逃げ隠れしてるんだからさァ!!」


 高笑いを決め込む彼女の横で私は戦慄していた。
まさかのまさかで本人に気付かれてはいまいな、と怯えて。
其れに対し、ノッブは素朴な疑問とばかりにぶつけてきた。


「そもそもじゃが…何で御主、彼奴の事避けとるんじゃ?好きなら好きとさっさと告白すれば良かろう?」
「いや…、其れが出来たらこうも苦労してないし、無駄にクソデカ感情拗らせてないんだわ……ッ」
「面倒くさい奴じゃのう〜…っ。此処はドーンッ!と気持ち固めて当たって砕けろの意思でぶつかってみせんかい!!」
「砕けたら意味無いんすわ…ッッッ!!」
「何が砕けたら意味が無いんですー?」
「おや、噂をすればおっきー」


 そうこうすれば、ノッブとニコイチセットなおっきーがひょこりと顔を覗かせてきた。
今日も相変わらず美人で可愛くて華があるなぁ。
地味でブスな私とは大違いに。


「二人して何の話してたんですかぁ?」
此奴こやつに想い人が出来たという話を聞いてな!今しがた真意を確かめておったところよ!」
「えっ!?マスターにも遂に春が来ちゃったんですか!?わぁ〜っ、おめでとうございますぅ〜!!」


 いとも簡単に大っぴらに話を広めるノッブに、即食い付いた彼女はノリに乗って祝福の言葉を投げてきた。
そして、そのノリのまま核心を突く質問を投げ掛けてくるのである。


「其れで、マスターのハートを射止めたお相手の方はどんな方なんですか!?」
「御主の身内の者じゃが?」


 いとも容易くバラしたノッブに、私は再び戦慄した。
幾ら気を許した仲だろうと、今まで必死に隠していた事をそんな簡単にバラされては堪ったもんではない。
私は、ノッブの口許を押さえようかと考えたが、実行に移すより先におっきーから更なる追撃を食らうのであった。


「えっ…身内、って事は…新撰組のメンバーの内の誰かって事ですか!?マジですかマスター!?相手の性別は男ですか、女ですか、どっちです!?」
「ぅえ!?……や、まぁ、当然この流れ的にも異性、つまりは男性相手って事になりますよねぇ〜…。あ、勿論同姓もアリだと思ってるから、おっきーという可能性も無くは無いよ!」
「今そういうの要りませんから。という事はですよ…?今現界していて嘗て新撰組隊士だったサーヴァントで男性組なのって、土方さんと斎藤さんの内の何方かって事になりません……っ!?キャーッ!!マスターったらなかなかやりますねぇ!!で、で…?どっちなんですか?誰にも言いませんから教えてくださいよ〜!!」
「じゃ〜から儂さっきから言うとるじゃろ!新撰組の剣士と聞いて、御主以外のもう一人で天才的な剣の腕をしとると言わしめた男が此奴の想い人じゃと…っ、」
「ちょっ…!ノッブ、声がデカイ……!!」


 慌てて彼女の口を押さえに掛かった直後、背後からバサリッと何かが落ちる音がした。
刹那、私は音のした方を振り返って固まった。


「え゛…っ、須桜さん……はじめちゃん推しだったの………?俺は、てっきり、以蔵さん辺りかと勝手に思って……、」


 振り返った先に居たのは、ぐだ子ちゃんと双子の姉弟きょうだいであり、共にカルデアで働く人類最後のマスター同士のぐだ男君だった。
先程の物音は、ぐだ男君が持っていた資料の束を落とした音で…。
――問題は、その彼と共に居た英霊である訳で。


『アッ…』


 私と通路のド真ん中で堂々と井戸端会議を繰り広げていた二人が同時に察した顔となり、一瞬シン…ッと静まり返る場。
ギリギリの精神で以て何とか復活を果たした私は、一足早くこの場から脱しようとスイッチを切り替えた。


「―スマン、私急用思い出したから離脱するね。だから暫くは私の事探さないでね。という訳でアディオス、グッバイ皆」
「えっ、其れってどういう……、」
「マスター早まっちゃ駄目ですからァ…!!」
「ええい、止めてくれるなおっきー…ッ!!こうなったら地獄の果てだろうが逃げたもん勝ちよ!!」
「逃げるな、御主ィ!!其れでも乙女かァ!!」
「乙女だからだよ糞がァッッッ!!!!もうこうなったらヤケクソじゃい!!地の果てだろうが逃げおおせてみせる…ッ!!」
「えっ、え!?御免、待って、話の流れに追い付けないんだけど!!取り敢えず何かよく分かんないけど早まるのだけはやめよう!!?」
「知らん!!私は我が道を行くのだ!!此れにてさらばじゃアッッッ!!」


 意味分からん台詞を捨て吐き脱兎の如く走って逃走を謀った私は皆を置いて逃げ出した。
その後を、終始無言で私達の遣り取りを聞いていた彼が無言で以て追い駆けに来るのだった。
話を聞かれてしまった時点で詰み、“THE・END”だった訳である。

 ―一方で、私達二人が去った後に取り残された三人はというと…。


「…儂、もしかして要らん茶々入れてしもうたか?」
「もう〜どうすんですか?ノッブの馬鹿ァ〜!マスター走ってどっか行っちゃったじゃないですかぁ!おまけに、斎藤さん近くに居たし、今の聞いて追っ駆けて行っちゃいましたよ!?アレ、絶対迫りに行く感じでしたよ!?」
「あっちゃ〜、儂のせいで余計な火ィ燃え上がらせちゃった感じ…?」
「大炎上ですよ!もし、ウチのマスターが泣かされたらどうするんです?発破掛けたのはノッブなんですから、責任取ってくださいよね!!」
「いやぁ、是非も無いよネ!!」
「え……コレってハッピーエンドなの?というか今の止めなくて良かったの?須桜さん…アレ、腹切りする流れだったんでしょ?良いの??」
「うん…まぁ、大丈夫じゃろ!いざとなったら彼奴が止めるじゃろうて!!」
「投げ遣りィ…ッッッ!!」


 何とも愉快で楽しい仲間達であった。

 ――場面は移り変わって、咄嗟に(雑に)誤魔化した上で脱兎の如く逃げるも、まぁそう逃げ切れぬ内に即行捕まって壁ドンで迫られた私は洗いざらい白状させられていたのだった。


「何も逃げる事無いじゃない…?僕、結構傷付いたんだけど?」
「その件については非常に申し訳なかったと思いますけどもよ…!!言える訳ねぇだろ、そう簡単に好きとか嫌いとかァ!!立場的にも色々問題あるし、後々の事考えたらやっぱこのまま平行線的関係で居た方が良いだろうし!?何よりも、サーヴァントとの恋愛しんど過ぎるからやめとこうって思ってた自分がこうも易々と落ちてしまった事が悔しくて“何かなァッ!!”て流れになったんすよ!!そんな諸々考えまくった末での秘匿or回避行動ですよ!!此れで満足か、こん畜生ォーッッッ!!」
「いんや、全く以て不服だね〜。僕と恋愛したらしんどくなるからって、勝手に一人端から諦めて告る事も無く僕の事避けてたって…?――ハッ、ふざけんなよ。こっちがどんな想いでここ数日悶々してたか…時間はたっぷりあるんだ、これからじっくり躰に教え込んでやろうか?」
「冗談は顔だけにしてッッッ!!」
「いや、その返し地味に酷くない?普通に傷付くから。あ〜あ、僕ってばすっかり翻弄されちゃったわ………俺を振り回した責任、取ってくれるよな?嗚呼、そうそう…今更逃げようったって許さないからね〜!――つって、その逃がす隙すら与えんがな」


 束の間の口論を挟んだ後、強制的にも抱かれる流れと至った私は、結局“斎藤一の女”にされたのである。
いや、まぁ、結果的には喜ばしい事なのかもしれないが…其処までに至るまでの過程が酷過ぎて素直に喜べない。
最終的には、ぐだ男君よりマスター権を譲渡されて実質的に私のサーヴァントと化し、より一層圧の込もった寵愛を受けるのであった。

 ――Happy end……?

まんまタイトルの意味を回収したようなお話ですんませんっした。つーか、もっと良いタイトル無かったんかと思いつつも“コレしか思い浮かばへんかってん…”と言い訳さしてください(殴)。取り敢えず、FGOの斎藤一がしんど過ぎてやばいです…。強く生きよう(意味不)。


執筆日:2021.11.06
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