目蓋の裏に焼き付いた光景


「貴様の瞳を見たい」
 そう言われて、不意に所謂顎クイなるものをされて。反射的に、「おあっ、」とのあられもない声が漏れた。相手がの神王・オジマンディアスであるのを踏まえ、今の反応は確実に不敬と怒りに触れ兼ねない――とは、理解しながらも、唐突にこのような扱いを受ければ、誰だって動揺するだろう。
 驚きに目を丸くさせた直後、あまりの顔の近さに堪え切れず、秒の早さで直ぐ様口許を押さえて隠すという謎ムーヴに出てしまった。当然、疑問を抱いた彼が、此れを指摘する為、至近距離に詰めたまま口を開く。
「何故、今口許を隠した? 答えよ。くに答えるならば、罪には問わん。口を開く事を許す。訳を述べよ」
 予想はしていたものの、そうも直球で問われると、下手に取り繕う余裕も無く。つい思ったままの台詞が口を突いて出た。
「その……っ、相対的に比べて、自分の息が臭いとか思われたくはなかったので……!」
「ふむ……。確かに、この距離であらば、互いの吐息が掛かる近さではあろうな。――が、そもが目的は、貴様の瞳を拝むが為の事である。恥じる姿は生娘のようでいが、余は顔を隠せと命じた覚えは無いぞ……? 口許とは言えど、許可無く隠す事を不敬とは思わなかったのか?」
「存じておりますとも、我が王たるファラオよ……っ。しかし、超絶イケメン顔に心の準備も無くいきなり迫られれば、誰しもがこうなる事必至ですんで……! な、何卒ご慈悲を……っ!」
「ふむ。不敬ではあるが、良い。今ばかりは特と許す」
「有難うございます!!」
 幸いな事に、今の彼は機嫌が良かったのか、怒りに触れる事無く許しを得れて内心ホッと息をく。取り敢えず、許しをくれた事についての感謝を口にしたが……しかし、現状に何も変化が訪れなかった事に不思議に思い、小首を傾げた。
「えーっと……、ところで、あの〜……まだ見られるおつもりなのです……?」
「美しいものが側にあらば、見たいと思うは必然であろう?」
「美しいのはファラオの方なのでは……??」
「無論。余は地上の王たる故、美しい事は周知の事よ。しかし、我がマスターたる貴様も、負けず劣らずの美しさを持ちし者ぞ。さぁ、包み隠さず、存分に見せるが良い。余が許す。貴様の内に秘めし輝きを見せるが良い……!」
「何やら盛大に色々と斜め上な方向で誇大解釈なさってるようで驚きを隠せないのですが!? あの、ファラオッ……控えめに言って、もう、限界が……っ!」
「ふふっ、……何、そう照れるでない。今ならば余の尊顔を拝む事を許す。良いぞ。存分に見つめ、その目に焼き付けるが良い」
「あ゛ッ、ちょ……マジでもう無理なんで……! 此れ以上は眩しくて堪えられませんて! ……あのっっっ、誰かァー!?」
 その後、彼に迫られたまま離してもらえない事に困り果てていたら、通りすがりの大英雄・アーラシュが救出してくれ、ぶっ倒れる寸での手前でファラオを引き剥がしてくれた。彼に気安く接しても不敬を買う事の無いのは、アーラシュを除いたら蒼銀の英雄王・アーサー・ペンドラゴンしか居ないだろう。
 この際、最早不敬だとか言ってられない。控えめに言って、心臓止まりかけて盛大に焦った。
 取り敢えず、そのままアーラシュが何とか引っ張って行ってくれたが、今後顔を会わせた時の事を考えると、恐ろしくてふるりと背筋が震えた。
 恐らく決定事項だが、暫くの内は、今しがた見た、蕩けた蜂蜜みたいに美しい瞳の色が、忘れたくても目蓋の裏に焼き付いて離れそうにも無い。
(全く、本当に、どうしてくれるんだ、あんっの馬鹿ファラオめ……っ)
 不敬であると知りつつも、羞恥のあまり罵らずには居られない。決して口には出来ない事だからこそ、口の中でこっそり、だが。

ボイス集動画で某台詞を聴いた時、思わず“乙女ゲーかな……??”と思ってしまったのは、きっと私だけじゃない筈……!ファラオことオジマンの喋り聴いてると、気付けば口角天井に突き刺さってるのどうしてだろうね(笑)。元気なファラオは健康に良いぞ……控えめに言って寿命延びそう。


執筆日:2023.04.25
公開日:2023.05.04
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