共に輝ける星に


 今宵は星がよく見えた。
 よく晴れた夜空に浮かぶ月と星々が煌々と照らす下で、共に並んで眺めている時だった。不意に、空を見上げたままの彼女が口を開く。
「ねぇ、アーラシュ」
「何だ?」
「……私って、星になれると思う?」
 思いもしなかった言葉を吐き出され、驚きに一瞬だけ息が詰まるのを感じた。だが、すぐに持ち直し、動揺したのを悟らせないようにしかつめらしい顔を作って彼女の方へ視線を向ける。
「滅多な事を言うもんじゃないぞ、マスター……っ」
「あははっ……御免。でも……この先、いつか何処かで死んでしまうのなら……せめて、誰かを照らし導く為の道標みたいに……そういう星になりたいって、思わずには居られないんだ。……だって、死んだら其処で何もかも終わりで、何にも残らないのは……寂し過ぎるでしょう?」
 随分と寂しげな声音で零された独白であった。
 何故、其れを自分相手なんかに吐き出したのか、その真意を推し量ろうと思えば出来なくは無かった。けれど、今其れをするのは、何だか無粋な気がして、すぐにその考えを止めた。
 代わりに、本心で抱いた想いを返事として返す事に決めた東方の大英雄は言う。
「だったら……その時は、俺も一緒に星になってやるさ。そしたら、その光絶えるその日まで寂しく思う暇なんざ無くなるだろう?」
 少し気障きざったらし過ぎただろうか。今しがた自分が吐き出した言葉を今一度脳内にて反芻する。
 一応、其れとなく反応を窺い見れば、彼女はキョトンとした表情を浮かべたのちに、少しだけ態度を柔く崩しておどけたような口を開いた。
流星一条ステラだけに……?」
「ははっ、まぁそういうこった! ……でも、決して悪くはないだろう?」
「うん、そうだね……っ。アーラシュが一緒なら、屹度きっと寂しく思う暇なんか無いまま過ごせそう」
「おっ? そう言ってもらえるたぁ嬉しいねぇ……!」
「ふふっ……アーラシュが本当に星になったとしたら、あの眩しいくらいにきらきら輝く一等星かな?」
「アンタの目から見て、俺はあんなにきらきらして見えるのかい?」
「うん。夜空に浮かぶお月様に負けないくらいに綺麗で美しく強く輝く様が、何だかアーラシュっぽくて好き……っ」
 そう言って話す彼女は、世界の命運という重荷を背負わされた生き残りのマスターではなく、年相応にはにかむ一人の女性という風に映った。極東より召喚を受け、そのままマスターという立場に立たされた、元はただの一般人に過ぎない女。今この時ばかりは、其れを忘れられたら……と思うのは、あまりに残酷か。恐らく、自分の立場を考えたらば、越権の域――身分を弁えぬ行動となるだろう。
 嘗て人として生きた頃の己と近しい年頃の娘の側に、サーヴァントとして護る立場に居れる事を誇りに思った。彼女の呼び声に応えて召喚に応じた事に、意味はあったのだと確信を得て。
「なぁ、マスターが星になったら、どんな風になりたいんだ?」
「私? うーん……強いて言うなれば、彼処で小さく微かに光ってる六等星くらいかな」
「えっ、あんな弱々しくて良いのか? 星っつったら、もっと他にも色々あるだろう。別に誰の咎めがある訳でも無し、もうちょい欲出したっても良いんだぜ?」
「ううん、私はアレくらいで丁度良いの。一等星の輝きを邪魔しない程度に、同じ空で輝けたなら……其れだけで十分。だって、アーラシュが放つ輝きは、誰にも負けない強さを持ってるでしょ?」
 無邪気さすら滲ませて控えめな願いを口にする彼女を、両の眼に焼き付けて応える。
「其れ、俺の宝具の事指して言ってるだろ〜。物好きだねぇ、アンタも」
「かもね。でも、私は好きだし、これからも頼りにするよ、アーラシュの力」
「へへっ、マスターに其処まで言わせちゃあ男が廃るってもんだなぁ……!」
 とっくの昔から、夜空の星なんか眼に入らないくらい見惚れていた女を真っ直ぐに射抜いて告ぐ。
「アンタが誠の星になる時は、この俺の力全てを懸けて昇華させてやると、この弓に……いや、我が魂に誓おう。我がマスター、須桜、お前の願いは確と聞き届けた。お前が星となった暁、その光絶えるその日まで、流星と散りし我が身は永遠に照らし続けよう。…………と、まぁ、格好付けるのは此れくらいにしとくか! あんま余計な事言い過ぎるのも、アンタの監督者保護者から後でどやされるかもしれないからな!」
 言葉尻最後は茶化し気味で締め括って、言いながら段々と気恥ずかしくなってきていたのを雑に誤魔化す体で笑い飛ばした。鈍い彼女は、たぶん、此方の真意には気付いていないだろう。其れで良い。そのままで居てくれたなら、其れで構わないのだから。
 すっかり始めにあった湿っぽい空気が霧散してしまっているのを察して、男は笑う。
「さっ、そろそろ戻るか! これ以上、夜風に当たり過ぎても体冷やすだけだし、風邪なんて引こうもんなら大変だ……っ。明日も早い事だし、程々で休まないとな」
「ん、其れもそうだね」
 素直に頷いた彼女が、促しに従って室内の方へと足を向ける。
 どうか、この先も、我が愛しき人の子の魂が、我が身と同じように星と燃え尽きる事など無きように。
 頭上で流れ往く流星にそう祈りを込めて願う。

もし自分が星となるのなら……と考えた矢先に思い付いたのが、冒頭の会話文でした。アーラシュには、勇者たる威厳で以て優しく真っ直ぐに諌めて欲しさがある……(伝われ我がパッション)。
ところで、円卓(劇場版)のステラ(詠唱)やばかったですよね。(公式で公開されてるダイジェストとその他切り抜き等を見ただけのニワカですが。マジでどっかでちゃんとした形で通して見たいですね、動くアーラシュ……ッ。円盤買うか……その前にデッキどうにかしなきゃ……。)


執筆日:2023.06.14
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