
理性爆発☆
ふと、仕事の合間に、休憩とばかりに立ち寄った己の部屋。眉間を摘まみ、少し仮眠でも取ろうかと考え寝台の方を見遣ると、ヒルメスは度肝を抜かれた。
理由は、ヒルメスの自室な筈であるのに、寝台の上で安らかな寝息を立てて眠る恋人の姿があるからであった。
何故、此処に居るのか。
何故、他人の部屋の寝台に寝そべっているのか。
訊きたい事は山程浮かんだが、疲れている身にヒルメスは考える事を辞めた。
楽になろうと、其処いらにあった椅子へ適当に外套を掛け、顔を覆い隠していた仮面を外す。
素顔を晒したヒルメスは、彼女を起こさないよう、そっと寝台に腰掛けた。
そして、無防備に晒されたあどけない寝顔を眺める。
『…ふにゃら……うに……。』
むにゃむにゃと寝言を漏らした可愛らしいラルに、疲れていたヒルメスは頬を緩ませる。
頬を優しく撫でてやると、彼女は擽ったそうに身を捩った。
手を伸ばし、髪に口付けを落とす。
愛しげに頭を撫で、気持ち良さそうに眠る彼女の側に寄り添うと眠気が来て、その隣へ自身の身を横たえた。
彼女の身体を後ろから包み込むようにして抱き寄せ、溜まっていた疲れを吐き出すように「ふぅー…っ。」と長い息を吐き、目を閉じる。
一瞬、そのまま寝入ろうかとも考えたが、次の瞬間、別の事を考えてしまったのである。
それは…。
これでは、まるで…据え膳食わぬではないか、という事であった。
そう思うと、寝ている隙を狙って不意にこっそり唇を奪ってやれば良いではないかという考えに至り、半身を起こすと彼女の身体を此方に向かせ、口許に手を持っていった。
その先で唇に触れ、逸る気持ちを抑えながら、ふにふにと柔らかい彼女の唇の感触を楽しむ。
(―すぐに口付けるのは惜しい…。この瞬間を存分に楽しんでから、味わおうではないか。)
そう愉しげに口端を歪めて、自身の親指を彼女の下唇に宛がい、ムクムクと広がっていく歪んだ感情で捩じ込み抉じ開けようと考えを巡らせ始めていた。
すると、ふにゃっと寝ぼけたラルが唇に触れていた指先を…。
はむりっ。
食んだのであった。
「〜〜〜っっっ!!?」
途端に煽られた彼は、「起きても知った事か!」と抑え付けていた理性を爆発させた。
ガバッ!!と勢い良く覆い被さり、彼女の身体を押さえ付ける。
遠慮無しに眠っているままの彼女の首筋へ顔を埋めた。
求めていた彼女の甘い匂いを吸い込むと、望むがまま誘われるように首筋に口付け、吸い付く。
昂る興奮、本能に従うがの如く、するりと衣服の下に手を滑らせ、隠された柔肌を撫でる。
熱くなる身体の熱を鎮めるようにして、愛しき彼女の体温を欲した。
はあ…っ、と漏れる吐息は熱く、呼吸する度に彼女の耳や首に吹きかけられた。
次第にエスカレートしかけていた、その時。
何だか身体がむずむずしてきた事と乗し掛かる謎の重みに目を覚ましたラルは、目蓋を開いた。
すれば、当然の事ながらに目の前には、彼の美しくも整った顔がドアップでこんにちは。
それも、見つめてくる瞳は熱っぽく色気がだだ漏れであった。
瞬間、固まる思考と身体の動き。
即、事態を理解したラルは、頭に残っていた眠気を一気に吹き飛ばしていった。
途端に、顔を面白いくらいに青ざめ、白けさせた。
『な…っ、なに、やってんだお前………っ!』
何とか絞り出したような言葉と共に、引き攣った表情で彼の顔を見遣る。
些か声まで引き攣っているのは気のせいではないだろう…。
そんな彼女の言葉に、ヒルメスは艶の混じった声で返した。
「ラル…おぬしが悪いのだぞ。…おぬしが、俺の部屋の、しかも寝台の上であられもない姿を晒しているから……っ。」
そう言いつつ、伸びてくる手はあらぬ場所をまさぐる。
太股の内側を這ってきた手に、ラルは身体を仰け反らせ、ぞわわっと警戒した猫みたいに全身の毛を逆立たせた。
『な…っ!?ちょい待て!!何処触ってる……っ!?』
「こうなったのは自業自得だ。覚悟しろ…っ!」
『いやいや、何々!?どういう事なの!?訳分かんないんだけど…!私は、ただヒルメスの執務が終わるのを待ってたら眠くなっちゃったからついうとうとと寝ちゃってただけで…っ!!つか、人が喋ってるのに何だこの手は!?即刻退けてもらおうか…ッ!?』
「ほぅ…?眠って待っていたとは、誘い文句か?飛んだ褒美ではないか。有難く頂戴してやろう…っ!!」
『違ぇよ!!馬鹿、阿呆、変態っ!!中二病患者め…っっっ!!』
グギギギギ…ッ、と精一杯の力でヒルメスの腕を引っ掴み、触れられるのを全力で阻止しようとするラル。
だが、その必死の抵抗もすぐに押し切られ、歴然とだがそこは男女の力の差…。
惜しくも虚しく負けたラルは、彼に完全に組み敷かれてしまうのであった。
現在の構図は、ヒルメスが上、ラルがその下、という図になっている。
正にお約束展開、ラルの貞操共に処女が絶体絶命、大ピンチである。
それが分かり切ってしまっている彼女は、盛大にダラダラと冷や汗を垂れ流した。
「…我慢していたというのに………っ、ここまで煽ったのは、おぬしだからな…?」
『ぇ………ま、待って……?マジで…っ、ガチでタンマ…………ッ。心の準備とか、その他諸々…色々と準備出来てない………!』
「知らん、待てぬ。今すぐ俺に抱かれろ…っ!」
『ギャアァァアーッス…ッッッ!!誰でも良いから誰か助けてぇえええーっ!!切実にぃぃぃいいっっっ!!!!ぃや゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ーーーッッッ!!!!』
断末魔とも呼べる悲鳴を上げたラルであったが、その場に助けに来る者など一人も居らず、結果ヒルメスに美味しく戴かれてしまったとさ。
ちゃんちゃん♪
◆END
↓おまけ
―翌日、ヒルメスの部屋の前を通りかかったサームとザンデは、珍しき光景を目にし、その時の思考と動きを停止させた。
なんと、我が身仕える主君の部屋から、男女二人が一緒に出て来るではないか…!
一瞬、二人して呆けた顔で顔を見合わせ、再び主君へと視線を戻した。
そして、男女かく言う、ヒルメスとラルだが…その二人の様子を交互に見比べた。
何時もなら忌み嫌う火傷の痕を仮面で隠しているであろうところ、今日はラフに眼帯を付け、何処かスッキリとした満足げな笑みを湛えているヒルメス殿下に。
片や、しんどそうな面持ちで腰を押さえ、身体を曲げ、涙目で辛そうにしているその恋人ラル。
何処からどう見ても分かりやすい光景であった。
すぐに勘付いた忠臣二人は、顔を赤らめ、それぞれに手で顔を覆った。
サームは、年齢もさながら、冷静に事後なのであろうと事を受け止めたが…。
まだ若き猛将はそうもいかず、顔を火が出る程真っ赤に染め、慌てて我が主の元へ駆け寄るのであった。
「ヒ、ヒルメス殿下ぁーっっっ!!」
「ん…?何だ、ザンデ。何を朝から慌てているのだ…?」
「そ、それは…っ!お二方が揃ってお部屋からお見えになったものですから……!!」
「嗚呼…何だ、その事か。丁度良い。その事について、今しがた報告しようと思っていたところだったのだ。」
「ま…っ!まさか、お二人は、とうとう床を共になされて…っっっ!?」
「…ザンデよ、その先は口にせず、察せよ……。」
「しっ、しかし、サーム殿…!これは由々しき事態でありますぞ!?事を成したとなれば、何れはヒルメス殿下のお子様を身籠るかもしれないという事にもなり兼ねないのですぞ…っ!!」
「まぁ、そう慌てるなザンデ。子が成るかどうかの話は、すぐにどうこうなるものではない。…確かに俺は、昨夜ラルと寝床を共にしたが……そんなにヤってはおらぬぞ?」
「殿下……、その、あまりそのような事を口にするのは慎んだ方が………っ。」
『そうだぞ、この病みまくり中二病が…っ!何が、“そんなに”だ…!!よくもぬけぬけと言えたな!?昨晩はあれ程がっついてきたという癖に…っっっ!!』
「「ぶ…ッッッ!!」」
「それは、おぬしが艶のある声で煽るからであろう。」
「「ぶふぁ…ッッッ!?」」
『な…ッ、はァア…っっっ!?何時俺が煽ったって言うんだよ!!俺は逆に、あん時何度もやめろって言ったじゃないか…っ!!それをっ、制止も聞かずに存分に勝手にヤらかしたのは何処のどいつだよっっっ!!?』
「ごふ…ッッッ!!」
「あのような場であんな風に啼かれては、男なら皆同じように盛ると思うが…?」
『お前の頭はどうなってんだよ!?私の純潔返せ…!!馬鹿野郎っっっ!!』
「…お二人共、良い加減にしてくれないか…っ。目眩がしてきた………。」
何とも言い難い、盛大な痴話喧嘩が早朝から繰り広げられるのであった。
皆が立ち去った後…或る廊下に謎の血飛沫の跡や血溜まりがあったらしいが、戦があった訳でもないのに、程無くしてとある将が大量出血による貧血でぶっ倒れ、医務室に担ぎ込まれるという事件があったそうな。
◆終われ!
加筆修正日:2019.07.07
加筆修正日:2019.07.07