
共に在れる幸せ
紅白を見て、年越し蕎麦も食べ終え、除夜の鐘突きの音が聞こえ始めた頃…。テレビの電子時刻板を見ながら、彼女が一言漏らした。
『あ…、零時になったね。』
その声に、お茶を啜っていた同居人が視線を上げる。
彼が飲んでいた湯呑みをコトリ、とテーブルに置く。
ゆっくりと交わる愛しげな視線。
ぴんっ、と背筋を伸ばし、居住まいを正したラルは、真っ直ぐに彼を見遣ると、にこりと微笑みながら口にした。
『明けましておめでとうございます!』
「明けましておめでとうございます。」
『今年も宜しくお願い致します…!!』
「今年も宜しくお願い致します。」
お互いに、新年明けての恒例行事なる言葉を述べ合い、律儀に正座までして一礼し合う二人。
そして、顔を上げてから、朗らかに笑い合うのである。
『ヒルメスと出逢ってから、もう三年目かぁ〜…っ。昨年も、あっという間に過ぎちゃったね?』
「其れ程、充実した毎日を送れたという事であろう。」
『うん…っ!今もこうして変わらずヒルメスと一緒に居れるからね!』
「…そうだな…。」
彼女から言われた、何気ない言葉を噛み締めつつ、口許に笑みを浮かべるヒルメス。
本当は、男である自分が先に言おうと思っていた言葉だったのだが…。
愛する彼女に先を越されてしまい、ちょっぴり悔しい男心だ。
そんな彼の心情を知ってか知らずか、ふと窓の向こうを見遣って、楽しげな声を上げるラル。
『わ…っ!ヒルメス、見て見て、雪が降ってる…!!』
「ん…本当だな…。」
『あははっ、道理で寒いと思ったや!』
窓の外では、ちらほらと舞い出した真っ白い雪が、ふわふわと景色を染めていっていた。
部屋の中は暖房が入っていて暖かかったが、触れた窓は、外の冷気でひんやり冷たかった。
雪が降り始めた事に、子供のように喜ぶ彼女。
名前を呼ばれたヒルメスも、彼女がずらした身の隙間から窓の外の景色を見遣り、感嘆の声を漏らす。
「…ラル。」
『ん…?』
不意に、彼がラルの名を呼んだ。
ゆるりと振り返れば、彼は「来い来い」と手招きしている。
何だろうと窓にへばり付いていた身を離し、ぽてぽてと四つん這いで彼の側へと寄る。
大した距離も無いので、すぐに目の前へ座り込むと、首を傾げて少し高い位置にある彼の顔を見上げた。
「ラル…。」
『なぁに?』
「ラル。」
愛しげに呼ぶヒルメスの声に、彼女は嬉しそうに返事をする。
彼は、また、ただ愛しげに名を呼んだ。
そうして、彼女と居れる幸せを、その身いっぱいに感じるヒルメス。
「うん、だからなぁに、ヒルメス?」と、可愛らしく訊いてくる彼女の身を抱き寄せ、自身の腕の中に閉じ込める。
もう一度、「ラル…。」と呼ぶと、彼女の首元に顔を埋めた。
『…ふふっ、もぉ〜どうしたの?』
あまりにも何度も何度も愛しげに呼ばれるから、擽ったそうに笑うラル。
彼の温もりに、じんわり広がるあたたかな気持ち。
小さく笑いながらも、愛しい彼に身を預けている。
ぐりぐりと頭を押し付けてくるヒルメスに、彼女が擽ったいと声を上げた。
すると、ヒルメスは彼女の耳元へ唇を寄せた。
「…今年も宜しくな。」
そう、心から、本当に愛おしそうに吐息混じりに告げてきた彼。
思わず、笑みが溢れて、口許に手を宛がうラル。
先程よりも一層強く抱き締められれば、彼女も身を伸ばし、彼の言葉に応える。
『此方こそ…、』
ぎゅっと抱き締め返してから、一度顔を上げ、一拍置く。
『今年も宜しくね、ヒルメス…っ!』
此方も、心の底から嬉しそうに微笑みながら、ヒルメスへ告げた。
そうして、二人して何方からともなく顔を寄せ合い、こつん、と額を突き合わせる。
鼻先が触れ合い、互いの愛しげな熱い視線が交わる。
自然と唇は重なり、口付けを交わし合う二人。
唇が離れれば、再び交わる視線に、互いに微笑み合う。
―新年早々、仲睦まじい新婚夫婦であった。
◆END
加筆修正日:2019.07.07
加筆修正日:2019.07.07