
桜の涙
桜の咲き始め頃、外を歩いていた二人は、まだ小さいが花開かせようとする桜の木を見付ける。もうそんな季節なのかと感慨深く過去を振り返っていると、自身と同様にこれまでを顧みていた彼女が、はらりと涙を流していた。
慌てて訳を訊くと、彼女曰く…。
『貴方と出逢ってから、ここまで来るまで、色々とたくさんあったけれど…。夢にまで見た、王という位を掴む事が出来たものね。今までの苦労とか積み重ねてきた事を思うと、何だか泣けてきちゃって…っ。ごめんなさい、いきなり泣いたりして。』
次から次へと溢れそうになる感情を抑えて、ふわりと微笑んだラルは、儚くも美しかった。
彼自身も言われて初めて、込み上げてくるもので胸がいっぱいになり、彼女を力の限り抱き締めた。
ちょっと息が苦しいくらいの力で抱き締められはしたが、彼も自分と同じように感じてくれているのかと思うと、嫌な気はしなかった。
ヒルメスからの愛情を全身で受け止め、お返しにと彼女も彼の背中へ腕を回す。
少しして、その身を名残惜しそうに離したヒルメス。
隙間が空いた事で、呼吸が楽になったラルは小さく息を吐いた。
顔を見上げると、そこには優しげに微笑んだ彼の顔が。
そっと伸ばされた男らしい手は、優しい手付きで頬に触れる。
そして、先程から溜まった眦の涙を拭われる。
柔らかく細められた瞳が映すのは、目の前に居る自分自身である。
そんな些細な事でさえ今は嬉しく、愛しい。
「お前が居なければ…今、俺は王となってはいなかっただろう。ましてや、国を平定させる事も出来なかっただろう…。本当に、感謝している。ラル…俺を選んでくれてありがとう。共に付いてきてくれて、ありがとう。今まで、たくさん苦労をかけたと思う…。お前を傷付け、突き放した事もあった。過去に縛られ、取り返しの付かぬ事も幾度となく重ねた…。本来であれば皆に疎まれ、忌み嫌われるべき人間だ。こんな俺でも、ラルは見捨てずに居てくれた。何処まで幸せに出来るかは分からぬが…これからも、俺と共に生きて欲しい。宜しく頼む。」
そう言って、彼は彼女の額へと口付けた。
また、ぶわ…っ、と溢れ来る気持ちで涙を溢したラル。
その様子に苦笑したヒルメスは、「お前は何時から泣き虫になったのだ…?」と可笑しそうに笑う。
『貴方がそんな事言うからぁ〜……っ。余計に、涙止まんなくなっちゃったの…っ!馬鹿ぁ…っ!』
子供のように「うぇぇ…っ。」と嗚咽を漏らし始めた彼女を、ヒルメスは優しく包み込んだ。
次から次へと零れゆく粒を唇で掬い取り、眦へ口付ける。
そんな仕草さえも愛しくて堪らず、彼の胸に縋り付いて泣くラル。
桜の花咲く季節に、彼女の純粋な涙は、愛する彼へと捧げられたのだった。
執筆日:2018.03.25
加筆修正日:2019.07.07
加筆修正日:2019.07.07