ほんの些細な事

寒くなった冬、旅を続けていた一行は、一休みの為にちょっと身を休めていた。

その間、薬草摘みをするエラムを手伝っていたユニヴァナードが、不意に小さく悲鳴を上げた。

すぐ近くに居たダリューンがそれに気付き、「どうした?」と近寄る。


『ぁ…ごめん、大した事じゃないの…。ただ、ちょっと手の甲切っちゃっただけだから。』
「手を切ったのか?見せてみろ。」


そう言って、彼はユニヴァナードの手を取る。


『薬草摘み手伝ってたら、其処ら辺にある鋭い葉っぱで切っちゃったみたいで…。この時期は、よく肌が乾燥して切れやすいんだよなぁ〜……。』
「…うむ、確かに大した事はなさそうだな。」
『うん。だからこれくらいどうって事ないし、放っといても治…、って!だ、ダリューン!?何して……っ!?』


あははと軽く笑って誤魔化すつもりが、突然彼に力強く腕を引かれたかと思うと…。

怪我をした手を掴んだまま、己の口許へ持っていったダリューン。

それが何を意図するのか、瞬時に見抜いた彼女は慌てて身を引こうとした。

しかし、彼がそうも簡単に逃してくれる筈もなく。

ダリューンは、彼女の傷付いた手の甲を見つめ、徐に舐めた。

ピリッと走った痛みに彼女は顔を顰める。

ダリューンはそのまま傷口から滲み出た血をちろちろと舐め上げ、簡単な消毒を終えると、最後に傷口に優しい口付けを落とした。

その一部始終をポカン…ッ、とした表情で眺めていたユニヴァナード。

終わったと気付いた途端、ボッ!と火が出そうな程顔を真っ赤にする。


「すまん、痛かったか…?」
『……じ、地味に…ぃ、痛かったです………っ。』
「そう睨むな。大した傷でなくとも、おぬしは女人なのだから…身体を大事にせねばならぬぞ?」
『ぅ゙…っ。……以後、気を付けます…っ。』
「幸い、毒性の植物ではなかったから良いが…稀に毒性の植物もあったりするのだ。もし、また葉などで切ったりした時は、俺に言ってくれ。それなりの対処をするから…まぁ、今後は気を付けるようにな。」
『う、うん…。ありがとう…。』


恥ずかしさで早くこの場を去りたい彼女は、話が終わると見るとその場から駆け出した。

だが、その背に再び彼の声が掛けられる。

足を止めて振り返ると、彼は穏やかな表情で言った。


「念の為、エラムに治療してもらえよ。彼奴の方が俺より的確だからな…!」


それだけだったらしく、言いたい事を告げると背を向け、自分とは反対の方向へと歩いていった。

周辺の見回りだろうか。

ユニヴァナードは特に気に留める事もなく、皆が居る所へと戻っていった。


―その背景に…。

実は、影に隠れて一部始終を眺めていた傍観者達が居り、二人が別れたとなると隅から出てきて彼の元へと歩み寄った。


「なかなかやるではないか、ダリューンよ。」
「ダリューン卿も隅に置けませぬなぁ〜っ。」
「煩いぞ、おぬしら…。茶化しに来たのならどっかへ行け。」


ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべてやって来るは、厭世の軍師と流浪の楽士である。

明らかに揶揄いに来た雰囲気であるのがバレバレである。

露骨に嫌そうな顔を見せたダリューンは、口早にそう言い告げるとその場を去ろうとした。


「冷たいな…。せっかく、少しは積極的になったおぬしを褒めてやろうと来てやったのに。」
「余計なお世話だ…っ!」
「おやおや…?黒衣の騎士とあろう御方が、一人の女性と少し言葉を交わしただけで赤くなっておられる…。さては初心ですかな?ユニヴァナード殿の事を好いておいでで……?」
「おぬしらには関係の無い事だろう!放っておいてくれ…っ!!」


叫び散らすダリューンだった。


◆END
加筆修正日:2019.07.09

元別館サイト「Halurn」にて一万hit記念リクエストより、雪那様へ。


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