
自慢の妹
ある日、ザンデが執務中のヒルメスの元を訪れた時の事である。今後の事で訊きたい事のあったザンデは、嬉々として我が主に話しかけていたのだが…。
話の途中であるところに、突然、背中に衝撃が走ったザンデ。
不意に臣下の巨体が揺れたので、不審に思い、「どうした?」と声をかける。
首だけを後ろへ振り返らせたザンデは、呆れた声を漏らした。
「―おい…、今はヒルメス殿下の御前だぞ。…少しは慎ましくせんか。」
『だって、開けっ放しだった扉から兄様の背中が見えたんだもん。もし内密にしなくちゃいけない話だったら、どうするの…?他の人に聞かれちゃうよ?』
「だからと言って、いきなり俺の背中に飛び付く事はないだろう。」
『ワンコみたいにぶんぶん尻尾振ってたし、油断してたでしょう?だから…!』
「おぬしなぁ…っ。」
お転婆でおしゃまな相手に、呆れて溜め息を吐いたザンデ。
一方、一人現状に置いてけぼりになっていたヒルメスが眉間に皺を寄せて声を上げた。
「おい、おぬし…。さっきから誰と話しておるのだ…?」
「は…っ!これは申し訳ございません…っ!!」
機嫌を損ねてしまったかと思った彼は、恐縮してその大きな身体を縮こまらせた。
そして、少しだけ身を横にずらし、自身の身体で隠れてしまっていた者を主に見せる。
「ヒルメス殿下。此奴は、俺の妹にございます。」
「妹……だ、と…?」
『お初に御目にかかれます事、大変光栄に思います。紹介が遅れました。私は、この不肖の兄、ザンデの妹…ラルにございます。以後、お見知りおきを。』
「………おぬし、妹が居たのだな…。」
「はっ。紹介が遅れまして、大変申し訳ありませぬ…っ!」
「いや、良い…。頭を上げよ。」
「は…っ。」
(―…成る程。目付きが鋭いところは、父カーラーン譲りか…。物怖じせぬところも、兄によく似ている。)
「…ふむ。見目も麗しく、兄に似つかわずに愛らしいではないか。それに、きちんと礼儀を弁えておるようだ。成る程、父の教育の賜物だな…。兄想いであるのも見てとれる。…良き妹を持ったな、ザンデよ。」
「は…っ!誠に、そう思いますとも…!少々お転婆が過ぎるきらいもありますが、自慢の妹にございます…っ!!」
「そうか…。妹を大事にするのだぞ、ザンデ。」
「勿論です!ヒルメス様…!!」
「おぬしも、良き兄を持っておる。此奴は実に働き者だ。俺の望む頂の為によく動いてくれるものだ。…大事にせよ。」
『勿論、心得ておりますとも。何者にも代えがたい、大切な兄であり、家族ですから…。唯一残された者同士、支え合って生きていきますわ。兄の影よりではありますけれど、私も陰ながらヒルメス様の為に力を尽くしとうございます。私は女の身、故に戦場へはお供出来ませんが…どうぞ、これからも兄の事を宜しくお願い致します。』
実にさっぱりとした物言い、出来の良い妹君である。
「これはこれは…、誠に出来た妹君だ。実にしっかりとしているではないか。兄も負けてはおれぬなぁ…?」
「はは…っ!仰る通りで…!こればかりは、俺でも頭の上がらぬものです…っ。」
珍しい事もあるもので。
機嫌が頗る良かったのか、褒めに褒めちぎるヒルメス。
苦笑を浮かべて述べたが、その事も含め、我が妹の事を褒められ、我が事のように喜ぶ兄は、大層嬉しそうにするのだった。
執筆日:2018.03.25
加筆修正日:2019.07.09
加筆修正日:2019.07.09