親子と一緒

寒さ厳しい、睦月の中旬…。

王都エクバターナへ、用があって出掛けていたとある一行。

それは、愛妻家と名高い万騎長の一人である、カーラーン一家の一行であった。

夫婦仲良く街に出掛けた際は、その様子を見かけた者達皆が羨む程とても仲睦まじい空気だと言う…。

誇り高き万騎長という称号を持つカーラーンは、皆が皆して知っている程の愛妻家だ。

彼より一つ二つ歳下の、美しくも可憐さを兼ね備えた女性を妻に持つ。

彼女の名は、ユニヴァナード。

そこそこ名の知れた家に生まれ、なかなかに逞しく育った町娘。

偶々王都に出ていた際、凱旋から帰還した彼と出逢ったようだ。

その時の二人は、まだ若く二十歳になるかならないか、というくらいだった。

一目で惚れたカーラーンは、その日から彼女へ逢いに行くようになったりと、男らしく猛烈にアピールしたと言う。

彼女にとって、恋愛経験など積んだ事が無く、偶々出逢った人に告白されたとしても、ただただ戸惑うばかりであった。

しかし、次第に彼の魅力に惹かれていき、何時しか付き合い始め、気付いた頃には婚姻を結び、子供を身籠っていたのである。

その子というのが、彼の若き猛将、ザンデの事だ。

父に似たのか、母に似たのか…。

何処までも真っ直ぐで、猪突猛進。

そして、己の信じる者には何処までも付いていく純粋さを持っていた。


―そんなほのぼの和やか一家は、現在、領地へ帰還する道中にあった。

もう領地はすぐ其処の距離だ、という途中…雪が舞い出し、風が凍るように冷たくなった。


「ふむ…、雪か。道理で風が冷たく強いと思った…。」
『一月ですからね。まだ寒さは厳しいですよ。それにしても…子供の頃から思うけど、雪の降る景色って素敵よね…。何時見ても、そう思うわ!』
「しかし、これ程までに冷えてきますと、寒さが身に染みますね…。」
『あらあら、まだまだ若い貴方が何をおっしゃるのやら…っ。』
「だが、ザンデの言う事は事実であるぞ。おぬしが身体を冷やし過ぎて風邪を引いては大変だ。早めに帰る事に越した事はないだろう。」
「父上の言う通りですぞ、母上!」
『ふふ…っ、もう…二人共過保護なんだから……!』
「過保護などではない…。おぬしの身を心配して言っているのだ。」
『大丈夫よ、これくらい…!少しの寒さなんてへっちゃらよ?だから、もう少しだけこの景色を眺めさせて頂戴…?』
「…はぁ……。全く仕方がないな、おぬしは…っ。」


惚れた弱味か。

彼女のお願いには弱いカーラーン。

仕方がなさそうに口にするが、その表情は少し苦笑気味であったものの、とても優しげな色を湛えていた。

彼女のお願いにより、領地もすぐという事から乗っていた馬を降り、徒歩で進みだすカーラーン達。

始めこそは雪降る景色を楽しそうに眺めて歩いていたユニヴァナードだが…。


『…っくしゅ!……うぅ…、やっぱり冷えてきたわね…。』
「大丈夫ですか…?母上。」
『大丈夫よ、ザンデ。ちょっと寒くなっただけよ。』
「本当にそうなのか…?無理はいかんぞ。」


酷く寒がりだしたので、母の後ろを歩いていた息子のザンデが頭上から耳に手を宛がい温めてくれた。


「うわ…っ!冷え切っているではありませんか、母上…!?」
『あら…ははは…っ。ありがとう、ザンデ。温かいわ。』
「そんなに冷たくなっておるのか?」
「はいっ。父上も触ってみてくださいよ…!」


あまりの冷たさに驚いたザンデの様子に、夫のカーラーンが隣から彼女の頬へと手を伸ばしてきた。

触れてみれば、触れた事の無いような冷え様に、思わず目を瞠ったカーラーン。

「早く城へ戻ろう。」と、自身の胸へ彼女の身を抱き寄せる。

すれば、冷え切っていたのは頬だけでなく、身体全体が冷え切っていたようだった。

鍛え抜いた自身の身でも染み入るような寒さなのだ。

彼女の鼻や耳などは赤く色付いて、吐き出される息は真っ白である。

心なしか指先が震えているようにも見え、彼は己の身に纏う外套の中に彼女を招き入れた。


「これなら、城に着くまでの間、少しはマシであろう…?」
『カーラーン……。気持ちは嬉しいけれど…これじゃあ、私の冷え切った体温で貴方が寒くなってしまうわ。』
「ふ…っ。何を今更申すか。」
『貴方だって寒いでしょう?』
「俺の事は構うな。俺よりも、おぬしの身の方が大事だ。おぬしは女性であろう…?あまり身体を冷やしてはならぬ。俺に寄り掛かっていろ。」
『むぅ…そこまで言われちゃ、仕方ないわね…!』


年甲斐もなく、新婚当時と何ら変わりない夫の優しさに、妻である彼女は屈託なく笑う。

それに目を細めて微笑み返した彼は、少しだけ腰を屈めると、妻の唇にふわりと口付けた。

口付けた唇は冷たく、降りかかる雪のように冷えていた。

思わず…。


「…冷たいな。」


そう漏らしたカーラーン。

それを真横で目撃したザンデは、初々しくも熟年の夫婦の愛の熱さに顔を赤くした。


「仲が宜しいようで………息子としては、嬉しく思います…っ。」
『ちょっと、カーラーン…っ!息子の前なのに、何やってるの…!!幾ら何でも恥ずかしいでしょう!?』
「そう、照れるな。いつもやっている事ではないか。」
『そうですけども………、っもう…。』


不意打ちとはいえ、突如唇を奪われた事が恥ずかしくて、何も発せなくなってしまうユニヴァナード。

その頬は、降りゆく雪をも溶かさん程に赤く、熱い。

仲睦まじく、温かい家族に惹かれ、連れ歩く馬達も心なしか誇り高そうに胸を張って歩くのであった。


◆END
加筆修正日:2019.07.09
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