(黒)魔法にかけられて

ある時、ヒルメスの部屋へ行くと、探している本人は居らず、代わりに一匹の猫が居た。

ヒルメスの脱ぎ捨てた(?)抜け殻のような服の中に、ちんまりと鎮座していた。

実はその猫こそ彼そのものであったのだが…どうして突然そんな姿になってしまったのか、彼が理解する前に彼女の存在が来てしまった故にどうしようもない。

何も事情を知らない彼女は、ただの迷い猫と勘違いしてしまう事だろう。

案の定、何処から迷い込んできたのかと首を傾げながらも、取り敢えずその猫を抱き上げたラル。

腕に抱こうとすると激しく暴れ、「ぎに゙ゃ゙あぎに゙ゃ゙あ!!」と鳴き声を上げ腕から逃げようとする猫(ヒルメス)。

軽く手の甲や頬を引っ掻かれるも、ラルは怯まず、「怖がらなくても良いよ〜!私はただ貴方を保護するだけだから!大丈夫、何も危害を加えたりなんてしないから安心して。」と優しい声で語りかけた。

ヒルメスの内心としては、まさかの相手に見付かった為、慌てた挙げ句に混乱してしまい、威嚇する形となってしまったのである。

しかし、彼女の柔らかい空気に暴れるのを止め、大人しく胸に抱かれる。

若干恥ずかしい思いではあったものの、今は仕方のない事なので…。

彼の若き猛将の男より彼女の方が扱いがマシであろうと、暫くの間は猫の姿であろう事を理解し、猫を演じる事にしたのだった。

まず、彼女からの第一印象は…。


『…お前、目付き悪いなぁ…。どっかの誰かさんみたいだ。』
(それは俺の事か…!?俺の事なのか…っ!?)


いきなりイラッと来る言葉を言われ、一瞬マジで飛び掛かってやろうかと考えたヒルメス。

だが、次に発せられた言葉で、それは思考の端へと消えていったのである。


『う〜ん…。でも、なぁんかどっかヒルメスに似てるよなぁ〜…。雰囲気とかかな?あと他っつったら〜……顔付きとか?何かキリッとしてて凛々しいもんね!もふもふとした毛並みの感じも、触った感じアイツの髪質にそっくりだし…♪うん、美人さんで可愛い猫だな。』


思わぬ反応に、思考が停止する。


(もしや、俺だと気付いてくれたのか…?)


そんな淡い期待も、すぐに打ち砕かれるのだが…。

その後、彼女の自室に連れて行かれ、甲斐甲斐しくお世話される流れとなる。

一先ず、仮の名前を付けられ、彼の銀仮面卿にそっくりだという事からヒルメスと呼ばれる事に。

中身が本人である事に未だ気付いていない彼女に他意は無い。

それからの流れは酷かった。

お風呂も一緒!寝るのも一緒!

本人としては、甚だ地獄であったと後に語る…。


(何の拷問だ、これは…っ!!いっそ殺してくれ…ッッッ!!)


猫の姿でいる期限は一日だけだったらしく、翌日になると元の人間の姿に戻っていた。

だが、それ即ち、再びピンチの到来である。

何故ならば…猫の姿になった際に全て脱げ落ちていた所為で素っ裸な状態であったからだ。

取り敢えず、何も身に付けないままはまずかろうと下だけでも穿くと、丁度のタイミングで彼女が目を覚ます。


「…起きたか。」
『!?』
「昨日は随分と扱ってくれたものよなァ…?」
『…え……っ、え………っっっ!?……ね、猫って…もしかして本当にヒルメスだったの!!?』
「嗚呼、そうだ。まぁ、羞恥極まりない扱いを受けたものだがな。」
『ああ…っ、あわわわゎ…っっっ!!』


危険な香り漂う現場。

目の前には上半身裸のヒルメス。

こちとら寝起き満載の油断しまくり状態だ。

当然、この先待っているであろう展開は、俗なものでしかない。


「…昨晩の仕返しをたっぷりしてやるから、覚悟しろよ?」
『あいやぁーっっっ!!』


終われ(笑)。


執筆日:2019.07.29
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