貴方の身を案じて

※ペシャワール城にて合流後、エクバターナに着いてからのお話です。


 ヒルメス陣に半ば無理矢理合流する形で連れてこられたラル。
 体調は快復したが、今度は別の問題が浮かび上がったのである。それは、ヒルメスの事だ。
 あまりよく眠れていないのか、彼の目の下には、随分前から酷く濃い隈が出来ていた。
「お前…最近ちゃんと眠れてるのか? 酷い隈だぞ……っ。ここ最近、まともに寝てないんじゃないか……?」
 ただでさえ鋭い目付きが、まともに寝ていない為に余計に悪くなり、あまり健康体であるとは思えない程の様子だった。それを指摘されたヒルメスは、怪訝な表情を作り、眉間に皺を寄せて見つめたかと思うと、すぐに彼女から視線を外した。
 ちゃんと眠れているのか心配になったラルは、側に居てやるから今すぐ寝ろと言った。次いで、隈の出来た目の下を指の腹で労るように撫でる。それに彼は内心意外だと思ったが、敢えて黙し、心配そうにする彼女の表情を見遣った。
 結局、彼女の押しに根負けし、半ば無理矢理休憩を挟む事をザンデに伝え、後の事を任せると寝室へと向かった二人。彼女が先に寝台の上へと座り込むと、それを巻き込むようにして抱き込み寝台へと勢い良く倒れ込んだヒルメス。忽ち、ラルから重いと非難の言葉が飛んだ。
 疲れた溜め息を漏らすと、彼女の横に仰向けに寝転び直す。思っていた以上に身体は疲弊しており、彼女が側に寄り添ってくれているという安心感からか、瞬く間に眠りに就いたヒルメス。眠りに就くまで、ラルは彼の頭を撫で続けた。


 ――長い事眠ったヒルメスは、夕刻を遠に過ぎた時刻に目を覚ます。
 久し振りにゆっくり眠った為か、すっかり頭はスッキリとしていた。
 側に感じる温もりに視線を隣へ向けると、いつの間にか彼に釣られてしまったのか、はたまた疲れていた事によるせいか。彼女が身体を小さく丸めて眠っていた。
 優しい手付きで、眠る彼女の髪を梳く。柔らかい髪はすべらかで、仄かに花の匂いが香った。
 ずっと冷え切っていたと思っていた心の奥があたたかくなっていくのを感じたヒルメス。
 一房、起こさないように掬い取ると、すっと静かに髪へ口付けるのだった。


初出日:2020.06.28
再掲載日:2023.04.02
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