Pocky Game!!

某月某日。

それは、晩秋の候の上旬である。

十一月にある、とあるイベント事に参加するべく、ラルは近くのスーパーへと走っていた。

店から出て来た彼女は、いかにもルンルンとした雰囲気であった。

楽しげな笑みを浮かべて、自宅へと帰路に着く。

大した時間も掛からず、彼女は帰宅した。


『たっだいまぁ〜っ!』


そして、足軽にタッタカタ〜♪と音が付きそうな足取りで居間の扉を開いて入っていった。


「帰ったか…。何処へ出掛けていたのだ?」
『ん〜?家の近くにあるスーパーだよ!ポッキー買ってきたの。あとプリッツ。』
「…ポッキー?それらはお菓子か何かか…?」
『うん!甘いのと塩気ある物両方買ってきた…!!だって、お店行ったらポッキーの日だからって安く売ってるんだもん。普段は高くて買わないから、正にイベントに便乗したお菓子会社の策略だと思う…っ!』
「…そうなのか。」


居間に入ると、ソファーには先客が居た。

その人は、近しく恋人になったばかりの、三次元トリップ中のヒルメスである。

以前なら、逆トリップした際は身体が子供の姿に縮んでいたのだが。

彼女が向こうの世界へトリップしてから暫くして、晴れて恋人と相成った今は、何故かいつもの大人の姿なのであった。

なので、まだまだ初々しさのある二人は、結ばれたばかりのこの関係に戸惑いつつも幸せそうにしているのである。


「おぉっ!帰られましたか、ラル殿!!」
「お帰りなさいませ、ラル様。外出していてお身体が冷えたでしょう?温かいお茶でも淹れましょう。」
『ただいま〜二人共!お茶なら、是非戴こうかな?』
「畏まりました。お紅茶で宜しいですかな?」
『うんっ、ありがとうサーム!出来たら皆の分も淹れてくれると嬉しいな?』
「勿論でございます。すぐにご用意致しますので、少々お待ちを。」
『あいあいさ〜っ!』
「ラル殿!何を買ってきたのですか!?」
『お菓子だよ〜!ポッキーとプリッツ、二種類なのです!!』
「お菓子…っ!!」
『今日は、ポッキーの日だからね!皆で仲良く一緒に食べよう?』


帰宅すると、居間の奥やキッチンの方から出てきた男二人。

彼等が出てきた途端、賑やかになる空間。

出てきた男二人というのは、順にザンデとサームである。

サームは相変わらず生真面目で、家の主が帰宅したと分かると、お茶の用意をするという周到さ。

変わってザンデはというと、此方も変わらず若気盛んで、その大きな見た目によらず、お菓子という単語を聞いて目を輝かせていた。

何とも対照的な男共二人であった。

この男達は、ヒルメスに仕える忠実なる臣下であった。

以前とは違って、ヒルメス以外の人間も一緒に逆トリップ可能らしく、暇さえあればこうして彼女の様子を伺いに顔を見せに来ていた。

外から帰り、買ってきた物の入っている袋をテーブルの上へ置くと、着ていた外出用の上着を脱いでラフになるラル。

少し身軽になると、ヒルメスの座るソファーへと身を沈めた。

途端、ヒルメスは慣れたように隣に来た彼女を抱き寄せて、その肩口へ頭を擦り寄せた。

まるで、少しでも離れていた時間が寂しかったかのように、それを埋めるように彼女の身体を抱きしめる。

相変わらず、時折見せる彼の甘えたがりな姿に、ラルは擽ったそうにしながらも嬉しそうに微笑った。

そんな二人の初々しい仲睦まじさに、離れた所から見守る彼女の母親はとても微笑ましそうに眺めていた。


『ちょっとヒルメス…擽ったいよ〜っ!』
「うるさい…これくらい良いだろうが。」
『良いけどさ…あんまり擦り寄られると動きづらいし、擽ったいんだってば…。』
「……慣れろ。」
『いやいやいやいや、無茶ぶりだろ…!!』


随分と素直に感情表現出来るようになってからは、このように少しばかり俺様が過ぎるところがある。

彼女としては嬉しいばかりなので、甘く見ているのだが…。

人目も憚らずにやってきたりするので、最近は些か困りものな時がある。

まぁ、その分、彼という人間がまともな生活を送れるようになった証でもあるのだろう。

今までの彼なら、こうして素直に甘える事などもせず、ただ独り全てを抱え込み、悲しい運命を背負い続けていたであろう。

それがここまで変われたのだから、少しばかり“おいた”が過ぎたとしても許す他無いのである。

あとは、惚れた弱みとでも言おうか…。

近くで見守ってきた者達にとっては、願ったり叶ったりの進展である。

そうして、二人がイチャついている(若干一名はそうではない)と、お茶の準備の出来たサームがお盆を持って居間へとやって来た。


「お待たせ致しました。お紅茶を注いで参りましたぞ。」
『わぁ〜い、待ってましたぁ〜!』
「うむ、すまぬな。」
「いえいえ、これしきの事…然程もございません。」
「そうか。」
「早速、お茶に致しましょう!」
『そだね…!あ、せっかくだから…買ってきたばっかだけど、お菓子も開けちゃおっか!』


お茶が出てきた事により、いそいそとお菓子を用意し出す、この場の中では一番若い二人の彼女とザンデ。

何気に息が合っているところが面白い。

楽しそうな彼女と部下の二人を見つめながら、ふ…っ、と小さく笑ったヒルメス。

だが、密かに彼女に近付こうとするザンデを制裁するのは忘れない。

油断ならない男である…。

「若いからといって、何でも許されると思うなよ…?」というような事を、彼女の知らぬところでボソリ呟く。

頭を鷲掴みにされて忠告されたザンデは、「はっ、はいぃ…っっっ!!」と涙目で反省した。


「奥方様も、お茶は如何ですかな?」
「あらっ、奥方様だなんて…!じゃあ、遠慮なく戴こうかしら。」
「どうぞ、熱いですのでお気を付けてお飲みください。」
「うふふ…っ、ご丁寧にありがとう。サームさんってば、本当素敵な殿方ね…!ウチの娘には勿体ないくらいだわ!」
『ちょっとー。そこ、間違った認識しないでくれるかなぁ…?サームは、悪までもヒルメスの臣下だからねぇ〜。私の彼氏、ではないからな…?』
「ふふふ…っ、冗談よ!アンタの彼氏こと結婚相手は、ヒルメス殿下、ですものね?」
『オイ、何か違うぞ。まだ結婚するとか決まってないし、ちと気が早過ぎやしませんか…?』
「分かってるわよ〜っ!お邪魔にならないよう、あっち行ってるから…!!ごゆっくり〜♪」


弄りがいのある娘の反応を楽しむ母親は、終始楽しそうに笑いながら居間から退室した。

娘の“お楽しみ時間”を邪魔しない為の気遣いであった。

当の本人としては、恥ずかしいので放っておいてもらいたいものなのだが…。

その巻き添え(?)をくらったサームは、何故か手で口許を隠し、仄かに赤く染まった顔を俯かせていた。

理由は、彼の主君には黙っているが…彼もザンデと同じく、ラルに気があるからであった。

単刀直入に言えば、“好いていた”のである。

何とまぁ、罪深き女なのだろうか…(笑)。

元々、そういう事に鈍感な彼女は気付きようも無いが。

…それはさておき。

先程、母親と交わしていた会話を聞いていたヒルメスは、彼女の言った或る言葉に顔を顰めていた。


「おい、おぬし…っ。」
『はい…何です?』
「俺のところに嫁ぐ気はないのか…?婚儀を挙げる相手が、他に居るとでも言うのか…っ!?」
『え、は……?い、いや、私はまだ結婚は早いかなぁ〜って思ってるだけで…っ。つか、嫁ぐって…!』
「そのままの意味であろう。早くなどないわ。寧ろ遅いくらいだ。」
『いや、あのね…っ?結婚するっていうのには、それなりの準備が要るし…!今後の家庭計画とか、諸々大事な事が色々あってだな…っ!!』
「安心せよ。婚儀は此方の世界で執り行えば良い。そうすれば、何ら問題は無い。その後の事は、その時に決めれば良いのだ。」
『だから早いってぇの…っっっ!!あぁ、もう…!その話は終わり!!ポッキー食べるよ!!良いな…ッ!?』


会話がエンドレスしそうだと感じたラルは、半ば強引に会話を打ち切る。

彼は不服そうにしながらも、己から離れず側に居ようとする愛らしい彼女に免じて、この話題については今は保留にしておこうと思うのだった。

サームがせっかく淹れてくれた紅茶が冷めない内にと、午後のティータイムを始めるラル達。

先程買ってきたポッキーやプリッツも開封し、ちょっとした休憩時間である。


『ふわぁ〜…あったまる〜……っ。サームの淹れた紅茶は、絶妙なお湯加減だよねぇ…。飲みやすい…!』
「そう言って頂けて、光栄極まる身です。ありがとうございます。」
『えぇっ、そんな大袈裟な〜っ!ただ単に美味しいと思ったから、言っただけだよ…?まぁ、サームのそういう真面目なところに、女性陣は惹かれるんだろうなぁ〜。』
「…サームを好いたりなどせぬなよ…?」
『ん…?にゃんだにゃんだ。嫉妬か?ジェラっちゃったのか…?
可愛い奴め…っ!』
「殿下と言えども、嫉妬くらいなさりますぞ!男なら当然でございます…!!」
「ザンデ…おぬしは少し黙っておれ。」
『ハイハイ、妬かない妬かない!幾らサームが素敵過ぎるイケオジだとしても、お前からチェンジする事は無いから安心しろ…っ!』


ジト…ッ、とした目で己の臣下を見遣った彼に、ラルは苦笑しながらも可愛い奴だと彼の頭を抱き寄せて撫でくりまわしてやった。

彼女から返ってきた頼もしい言葉に、一時休戦とばかりにされるがままとなるヒルメス。

何方が男前なのか、時たまごちゃごちゃである。

そんな事は既に承知済みなのか、抱き寄せられたのを良い事にヒルメスは彼女の首筋に顔を埋めて、そっぽを向いた。


『ちょ…っ、ヒルメス、それ擽ったいったら…!甘えるのは良いが、それはやめてくれ!あと、もぞもぞ動くな!!』
「恥ずかしがらぬとも良いわ。素直に受け入れろ。」
『いやいや、おっま…っ、此処公衆の面前だからな!?少しは控えてくれないと、俺のメンタルが持たな…って、やぅ……っ!!?』
「見せ付けてやれば良いではないか。」
『だからやめろって言ってんだろ…ッ!?今此処で食むる奴があるかっっっ!!』
「とは言うものの、おぬしとてちゃっかり感じておるではないか。」
『不意打ちにされたら、そりゃ誰だって反応するわ…っ!!そういう事は別の時にしろ!!』


恥ずかしくて直接“二人きりの時にしろ”とは言えず、暗に遠回しに伝えるラル。

しかし、彼女のそんなところを理解しているヒルメスにはニュアンスだけで伝わっているのか、口端を笑みの形に吊り上げるのであった。

身動き出来なくなった彼女の代わりにザンデが動き、開封したポッキーの箱を差し出してきた。


「はい、ラル殿!ポッキーです…!」
『あぁ、ありがとう…。ほら…ヒルメス、ポッキー。』
「ラルが食わせてくれるのであれば食べる。」
『お前はちっせぇガキンチョか…!全く………はいっ。』
「ん…。」


まるで母親が子供に餌をやるような光景に、ザンデは内心驚いて固まっていた。

ここまで甘い(?)様子の二人は、あまり見た事が無かったようだ。

その為、まだ若いザンデにとっては免疫が無かったようである。

サームは、既に慣れた…というより許容範囲なのか、特にこれと言った反応は示さない。

年齢に差が出るものである。

彼女に抱きついたまま、ポッキーをモグモグと食べる彼は、何処か子供っぽく見える。

ラルは、ヒルメスのそんな可愛さに、緩む口許を必死に堪えていたのだった。


(―やばい…っ!めっさ可愛い…っっっ!!)


笑ってしまいそうになるのを必死で堪えているのであろう事が、表情筋をプルプルさせている事でバレバレなラルである。

和やかにお茶会をする彼女達の空気は、何とも穏やかでユルい。


『…ねぇねぇ、こんだけ人数居るんだし、ポッキーゲームやらない…?』
「ポッキーゲーム……?」
『ポッキーを使った、ちょっとした遊びだよ。賭け事みたいなものかな?』
「どんな事をしてやるのですか…?」
『それはね〜…。じゃんけんか何かで勝負して、負けた二人が一本のポッキーを端と端で食わえて、先に食べ上げた方が勝ち!…っていう感じのルールだったかな?』
「「「………っ!!?」」」


何故か此処に来て思いっ切り反応した三人の男共。

下心見え見えである…。

此処で一番意気込むのは、若き猛将ザンデだ。

その横で、密かに闘志を燃やすは苦労人サーム。

彼女の真横でただならぬ空気を発するのは、勿論独占欲の強いヒルメスである。

「何故そんな危険極まりないゲームを提案したのだ…!!」とでも言いたげな顔で彼女の事を見つめている(注:睨み付けているようにしか見えない)。

此処からは、怒濤の勢いで始まる、男達の闘いが繰り広げられるのである。


「では、如何様にして勝負を決めましょうか!?(負けたらラル殿と口付け出来るやもしれぬ…!!)」
「簡単に勝負が着いてしまっては、面白みに欠けてしまうと存じます故…少しくらい、難しいものや時間の掛かりそうなものが好ましいかと…。(もし叶うのであれば、一度だけでも…!)」
「そうだな、その方が良いだろうな…。(絶対死守してやるっ!ラルは誰にも渡さん…っ!!)」


お互いがお互いの腹の探り合いで、顔は笑っているが目は全く笑っていないのがモロバレな状況であった。


(あー面白ぇ…っ!)


こうなる事が分かっていたラルは、何でもなさそうな笑みを浮かべてにこにこと笑っていた。

完全なる確信犯である。

話の流れから、ヒルメス達にも分かりやすくプレイ出来るゲームという事になり、定番的なトランプと決まったのだった。

ルールは至って簡単なババ抜き勝負である。


『ではでは〜…Ready,fight!!』


波乱の勝負の幕開けだった。

―数十分後…。

案外早く、いとも簡単に勝負は着いてしまっていたのであった。

勝負の結果、「どうしてこうなった?」としか言いようの無い空気に包まれる男性陣。

結論から言うなら、ラルの圧勝だったのである。

そりゃまぁ、彼女にとっては今まで何度もやった事のある、簡単ですぐに終わってしまうようなゲームだったからだ。

当たり前の結果と言えば、当たり前の結果である。

そうとは知らず、彼女へ挑んで掛かった男達は、見事彼女に負かされ、コテンパンにしてやられたのだった。

簡単な勝負だった為、第二ラウンドまでやって敗者を決めたのだが…。

散々な結果に、負けた男二人は、ゲーム開始時の最初に決めたルールを飲んだのだった。


『はぁーいっ!負けたお二人さんは罰ゲーム…!!さぁ、ポッキーをどうぞ♪』


一人楽しげなラルは、二人の心境などお構い無しにポッキーの箱を差し出した。

元々負ける気が一切無かったラルは、此処まで全くの手加減をせずに勝ち上がった。

意気込んで挑んだ筈が返り討ちにあって負けてしまったのは、まさかのヒルメスとザンデという結果だった。

彼女はポッキーゲームを提案した始めから、彼等をこう仕向ける気満々だったのである。

つまり、二人は彼女の誘導にまんまと引っ掛かり、乗せられていたのであった。


「何故、ヒルメス殿下と………。」
「俺だって、おぬしとやるつもりなど毛程も無かったわ…っ!!」


しょげるワンコザンデと、苛立ちを隠せないでいるヒルメス。

野郎同士で何が楽しく菓子を食い合わねばならんのだ。

そんな心境であろう。

しかし、内心ヒルメスは、嫌な役を買ってしまったと思う反面、彼女が他の男と口付ける事を防げて良かったと安堵していたのであった。

顔は思いっ切り不機嫌面であるが…。


『ほい…っ、両者準備は出来ましたかにゃ?』
「チ…ッ。仕方がないが、やるしかあるまい……っ。腹を括るぞ。(ラルを守る為だ。これくらい我慢せねば…っ!)」
「そ、そうですね…。(何でこうなったのか…はあ〜ぁ………っ(泣)。)」
「……………。(お二人には申し訳ないが…二回とも二番抜けで良かった。)」


何のやらせだろうか、これは…。

覇気の無い瞳で見つめるサーム氏であった。


「…で、では、失礼します……っ。」
「早くせよ。こんな茶番、さっさと終わらせたい。」


スタンバイOKである。

いつの間に用意したのか…彼女の手には、一台のデジタルカメラがあった。


「あの、ラル様…それは何に使うので……?」
『勿論っ!録画する為に決まってるじゃないか…!!』
「…………。(何の為に…?)」


同じ問いを繰り返したサーム。

腐女子の性が現れた瞬間なのであった。


The・BL擬きの絵面である。


『よぉーい…っ、スタート!!』


彼女の掛け声で、罰ゲームのポッキーゲームが始まった。

居た堪れなくなったサームは顔を覆って視界をシャットアウトする。

ヒルメスはあまり乗り気ではない為、ガジガジと先っぽを齧るだけに留めていた。

一方ザンデは、尊敬するヒルメス殿下に対しては大真面目故か、恥ずかしがりながらも食べ進めていた。

両者お互い、至近距離である。

ラル一人のみ、込み上げてくる笑いを必死に堪えて口許を覆い隠していた。

誰かこの腐った奴を止めてやれ(←)。

あともうちょいで口がくっ付くか…!?と思われる寸でで、ヒルメスが我慢の限界を迎え、途中で盛大にポッキーをボキ折った。


「やってられるか、こんなもの…ッッッ!!」
「でn、ごぶ…ッ!?」
「負けとかそんなもの知らぬわ!!」


案の定ブチ切れて、腹いせにザンデの顔面をぶん殴ったヒルメス。

別に悪い事もしていないのに、理由も無くぶん殴られたザンデは不憫だ。

サームは、何となくこんなオチになるのではないかと思っていたので、事の主を何とも言えぬ目で見遣った。

その事の発端を言い出した主であるラルは、一人腹を抱えて床に突っ伏していた。

正確には、声も出ない程爆笑していたのであった。

負けた二人が、余計に不憫に見えてくる現状である。


「おいっ!いつまで笑い転げているのだおぬしは…っ!!」
『や…っ、すまん…!マジ、吹いてしまって…っ、ぶふ…ッッッ!!』
「他人事だと思って…!!クソッ、もう一度勝負だっ!!ラル……!!」
『え…っ?何の…?まさか、もう一回やりたいのポッキーゲーム…!?』
「別の勝負だ馬鹿が…っ!!今のよりももっと難しいゲームだ!!」
『ん〜、じゃあ…大富豪とかはどう?同じくトランプゲームですよん!さっきのよりは、ルール難しいかもだけど。』
「良い。それをやる。」
『あいさ〜っ!』


またまた勝負の幕が開け、気持ちを改めて挑む男達。

今度こそはと、目がギラついている。

ルールは始める前にちょっとだけ触れ、後はプレイしながらの進行となった。

罰ゲームについては、先程とルールを変え、最後に残った二人を対象とした。

先程よりは時間も掛かり、十分に焦らされたので、終始楽しそうな雰囲気だった。

今回の結果は…もうお分かりだろう。

待ちに待った結果である。


「………ふっ、ふっふっふ…っ!よくやったぞザンデ…!!褒めて遣わす!!」
「有難き幸せ…っ!ヒルメス殿下の御為ならば、このくらいの事、造作もありませぬ…!!」
「おめでとうございます、殿下…っ!先の惨敗が報われますな!!」
『…あっれぇ〜っ?こんな筈じゃなかったんだけどなぁ…。何故、私は負けてしまったのでしょうか…?』


片や勝利に歓喜しているかと思いきや、その傍らでラル一人が手元にある一枚のカードを見つめて呆然としていた。

その手元にあるのは、出せず終いで残ったカードの一枚である。

つまり、負けたのだった。

一番上がりは変わらずサームで、二番手はザンデ。

そう来ると、彼女の前に上がったのは、必然的に最後まで残っていたヒルメスとなる。

つまり、罰ゲームを受けるのは、最後の二人である彼とラルの二人である。


「さぁ、早く準備せよ。」
『え…何でお前、そんなに乗り気なの…?超恥ずかしいんだよ?公開処刑だよ…?軽く死ねるじゃん。乙…っ!』
「ラル様…!ご準備を!!」
『何でお前も積極的なんだよ、ザンデ…。つか、様呼びに変わってね?』
「ラル様、諦めも肝心ですぞ!」
『いやだから、何でそんな押せ押せなの!?てかサームさん!?貴方、さっきまで死んだ魚の目してたよね?ねぇ…っ!?』
「はて、何の事でしょうか?」
『ぅおい!!誤魔化すなや…っ!!』
「いつまでもたついておるのだ。早くしろ。」


漸く待ち望んだ結果となり、嬉しそうなヒルメス。

俺様オーラ全開である。

一方、彼女は、まさかの敗北という結果に嫌々と後ろへ後退していった。

だが、それを逃す筈もない男性陣は、見事な連携プレイで彼女を羽交い締めにして捕らえ、ヒルメスの目の前へと差し出すのだった。

彼の真横には、サームがポッキーの箱を持ってスタンバる。

ザンデは、己の力を持ってして彼女が逃げぬようにと退路を絶つ。

完全なるやらせであった。


「ヒルメス様、どうぞ。」
「うむ。では、ラルにはチョコレートの付いた方を食わえさせてやろう。その方が良かろう?」
『いや、もうこの際、どっちでも良いわ…。』
「なら、おぬしはチョコレートの方だな。俺は反対側を食おう。」


最早逃げ場が無いと諦めたラルは、半ば投げやりに返事を返した。

まさか、こんな形でポッキーゲームを自ら経験する羽目になろうとは。

誰が予想出来ただろうか…?

否、誰も思ってもみなかった事であろう。


「それではヒルメス様、始めちゃってください…っ!」


そうこうしている内に、運命のゴングが鳴らされてしまった。

身長差から、ヒルメスは軽く腰を屈めて高さを合わせている。

ヒルメスは開始早々、先程とは打って変わってガツガツと食べ始めた。

その勢いに圧され、唯でさえ食べづらい状況に動きを止めてしまったラル。

あっという間に距離を縮められ…。

ぶちゅぅっ!という勢いで、彼の熱い唇を押し付けられたのだった。


『んむぅ…っっっ!??』
「ん…やはり甘いな。(ぺろりっ)」
『んぅ…っ!?…ふ、は…っ!……な…っ、舐める奴があるかァっっっ!!』
「ふん…っ。これだけで済ましてやったのだ。寧ろ感謝すべきではないのか?」
『う゛〜〜〜…っっっ!!』


羞恥心MAXで何も言い返せない彼女。

こうして、時として甘い、十一月のイベントは幕を閉じたのであった。


◆END(終われっ!)
加筆修正日:2019.07.07
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