プレゼントはキスが降ってきた。

この世には、類稀なる公式が構築されているものである。

人知らぬところで、自然と成り立っている事なのだ。

この世とは、なんと面白い事か…。

神の悪戯か、はたまた気紛れか。

刻を同じくするように、過去で接点を持った者達は現世に輪廻し、またとなく巡り逢ったのであった。

それを示すかのように、彼の国の王子であった者は、前世添い遂げた者と再び出逢い、ちゃんとした恋を遂げ、晴れて結ばれたのだった。

その二人というのは、勿論、ヒルメスとラルの事である。

二人はそれぞれ違う職業に就きながらも、お互いを尊重し合い、幸せに暮らしていた。

二人が出逢ったのは、偶々ヒルメスが風邪を引いて病院を訪れた時の事である。

受付を訪ねたところに、彼女が事務員として働いていたのだ。

その出来事をきっかけに、ヒルメスとラルは急接近し、共に想いを告げ合う。

それからは早かった…。

元々、ヒルメスが一途で熱烈に彼女を好いていた為、彼女も照れくさそうにしながらもそれに応えていったのである。

今となっては、既に同棲し、入籍済みとなっていて、後は式を挙げるだけとなっていた。

順風満帆な関係を築けているのであった。


―そんな二人が、出逢ってから二年は経つが、籍を入れた後の初めての冬を迎えていた…。


『…うぅっ!さぶ……っ!!』


身も凍る冷たき風を受けて、小さな身体を縮こまらせる一人の女性が家から出てきた。

彼女は、今やヒルメスの大切な人物となったラルである。

暖かそうなコートに身を包み、首にはマフラー巻き付け、両手にはもこもことした手袋を常備していた。

全体的フォルムは愛らしいが、太って見えるのが気になっているらしい、今日この頃。

彼女の手には、小さなバッグと己のお出掛け用バッグがあった。

その小さなバッグというのは、彼女の物ではなく、ヒルメスの私物である。

中身はお弁当で、今朝ドタバタと慌てて出掛けて行った彼の為に用意したものだ。

今日がクリスマスという日でも、変わらず仕事で忙しく休む事の出来ないヒルメス。

街に溢れ返る人々は、皆揃って今日というイベントを楽しんでいる様子が目に入る。

仕事に追われる社会人にとっては、憎らしく映る事だろう…。

ぽてぽてと一人歩き出した彼女の横を、たった今、一組の男女が通り過ぎていった。

イチャイチャと発せられる甘い空気から、カップルであろう事が推測される。

この季節は、一年を振り返る大事な時期であると共に、リア充共が盛んに街を行き交うようになる時期でもある。


(―ちょっと前までは、内心舌打ちして、“リア充爆発しろっ!!”って呟いてたっけなぁ…。)


視界に入った新たなカップルを横目に流しながら、ふと少し前までの自分を振り返るラル。

あの時は悲惨だったなぁ…と、感慨深く頷く。

彼氏の居ない者同士(オタク)達が集い、朝から晩まで本屋やアニメ関連のショップを梯子し、終いにはカラオケへ雪崩れ込み、オールするとか馬鹿をやったものだ。

アニソン熱唱大会が繰り広げられた時の盛り上がりようと言ったら、それはもう凄かった。

今や懐かしき思い出である…。
(理由は、皆誰かしら相手を見付け、早々と散っていったからである。あの時に交わした固き約束は何だったのだろうか…?(笑)。)


―そんな懐かしくも痛い、若気の至りなる記憶に想いを馳せつつ、歩く事数十分。

漸く目的地の近くまで来たところで、とあるものを見付け、足を止めるラル。

彼女の視線の先には、赤い服を纏い、大きな白い袋を担いだ、サンタさんらしき人物が居た。

正確には、“サンタに扮した知り合い”であるが。

わちゃわちゃと子供達に寄って集られる様子を見て、面白そうだと思った彼女は、ヒルメスの元へ向かうべき足を其方に向け、その“サンタに扮した知り合い”の元へ歩み寄っていった。


『お久し振りですねぇ、ギスカールさん…!クリスマスの日にお仕事ですか?お疲れ様です!』


にっこりとした笑みで皮肉混じりの言葉をかけたラル。

彼女に気付くと、相手は驚いたような声を上げて此方を見遣った。


「…!おぬしは、確か…銀仮面卿の……っ!!」
『それは前世での呼び名でしょう…?今はそんなんじゃないので、やめてください!』
「それは分かったが…おぬし、何の用で声をかけた?よもや、揶揄うつもりだけで来たのではあるまいな…?」
『えぇ〜っ、心外ですねぇ。サンタさんが居ると思ったから、声をかけるついでにプレゼントを貰いに来たんじゃないですかぁ…!失礼しちゃうなぁ〜っ。』
「…どうせ、冷やかしに来ただけであろう?おぬし…。魂胆が見え見えだぞ。」


子供達へのサービスの為か、サンタの格好に扮していた知り合いの男、ギスカール。

嘗て、敵国の者でありながら、ヒルメスこと銀仮面卿と手を組んでいた、ルシタニアの王弟殿下その人である。

現代では、ヒルメスの働く会社と対抗する、ライバル会社の常務取締役として働いている。

会社のイメージアップ戦略の基、こうしてサンタの格好をして成り切り、行き交う子供達へプレゼントを配っていたようだ。

その格好が妙に似合い過ぎて、全く違和感の無いところがツボにハマる。

思わず吹き出しそうになっていると、ギスカールの方から話しかけてきたのだった。


「もう用は済んだであろう…?気が済んだのならば、さっさと帰れ。商売の邪魔だ。」
『まだサンタさんからのプレゼントを貰ってません。』
「これは子供用だ…っ!おぬしは子供ではないだろう!?良いからさっさと去らんか…っ!!」
『じゃあ、プレゼント貰えない代わりに記念に写真撮っても良いですか?』
「おぬし、絶対意地でも帰らんつもりだな…。もう好きにするが良い……。この姿がバラまかれたとて、会社の利益に成り得るなら構わん。」
『よっしゃ…!ご本人から許可頂きましたぁ〜っ!!』
「…なんなら一緒に写ってやろうか?」
『え、本当ですか…!?ありがとうございます!!』


まともに相手取るのに疲れた彼は、些細な事で喜びころころと表情を変える彼女に気が変わったのか。

気前良くも、一緒に記念撮影までも許可してくれたのだった。

手持ちの携帯で、数回パシャリパシャリと撮れば、満足そうに微笑むラル。

早速LINEを開くと、仲良しグループのところでコメントを書き込み、今しがた撮った写真を貼り付けた。

本来の目的から寄り道して、かれこれ数分は経過したであろうか…。

ずるずると長居していると、何処からか駆けてくる足音が聞こえてきた。

その足音の主に、逸早く気付いたギスカールが呆れた表情で諸手を上げて降参だとばかりな態度を取った。

それを不思議そうに見遣った彼女の耳に、聞き慣れた声が聞こえてきた。

途端に、ぱあ…っ!と顔を明るくしたラルは声がした方向へ振り向こうとした。

…が、その前に声をかけてきた人物に抱き竦められ、視界が薄暗くなった。


「―連絡してきたのはおぬしの方のくせに…っ。いつまでも来ぬから、待ち草臥れて迎えに行く羽目になったではないか!この阿呆が…っ!!」


悪態を吐きながらも、彼女を心配していたであろう雰囲気が見てとれる人物。

彼こそが、あのヒルメスである。

会社を抜けて、走ってきたのだろう。

まだ息も整わぬまま、見付けた彼女を堪らず抱きしめたようだ。

彼の胸元に耳を当てれば、うるさいくらいに鼓動を刻む心臓の音が聞こえた。

悪態を吐きつつも、己の事を心配してくれていたのが丸分かりな態度な彼に、くすりっと嬉しそうに笑ったラル。

気持ちを表す為に、抱きしめてくる彼の背中に腕を回した。

一通り気が済むと解放してくれたヒルメス。

彼女の側に居た人物がギスカールだと気付くと、途端に眉間に皺を寄せて不機嫌面になる。


「何故、貴様がラルと一緒に居るのだ…?」
「…それは寧ろ此方が問いたいものだな。」
「何だと…?」
「俺は、ただ仕事でサンタをやっていただけであって…其方の娘が勝手にプレゼントを強請りに来ただけであるぞ?」
「………本当なのか?」
『えへへ…っ、ごめんなしゃい…。偶々通りすがりにサンタの格好した知り合いが居たもんだから。弄るついでに、プレゼント貰いに来ちゃいました。』
「おぬしなぁ……っ!」


「心配して損した…。」と溜め息を吐くヒルメスは、眉間に皺を寄せたまま、険しい表情で彼女に詰め寄る。

それを横目に、ギスカールサンタが…。


「おぬしの女であろう…?一々悶着あっては面倒だ。おぬしからちゃんと言っておけ…。これ以上付き合わされては敵わん。」


…と、半ば投げやりな口調で口にした。

勿論ヒルメスもそうするつもりであった為、「要らぬ世話だ。」と視線で訴えかけた。

詰め寄られたラルは寄り道した事を叱られるのかと思い、首を竦めて彼の言葉を待つ。


「ラル…おぬしはまだ自覚が足らなさ過ぎるぞ。俺という者が居りながら、他の男の所へ行くなど…許されると思っているのか?」
『あい…スミマセン…。反省しております…っ。』
「………。(此奴、俺と居た事に妬いておったのか?男の嫉妬程、醜いものはないぞ…銀仮面卿よ。)」
「全く…年が明けて少ししたら式を挙げるというに。もっと俺の女であるという自覚を持て…っ!」
「え…?おぬしら、結婚するのか…?というか、まだしていなかったのか……?」
「黙れ狐めが。貴様には関係の無い事であろう。他人の話に一々首を突っ込むでないわ。」


不意に聞こえた単語に、思わず茶々を入れてしまったギスカール。

ヒルメスは、それを辛辣な言葉で返したのだった。

茶々を入れられてしまったせいで勢いを削がれてしまったヒルメスは、再び深い息を吐いた。


「……して、ラルよ。プレゼントを貰いに来たと言っていたが、そんなに欲しかったのか…?クリスマスプレゼント。」
『うん……っ、子供心に擽られて…!大人になっても、やっぱり欲しいなぁって思ったの…サンタさんからの贈り物。』


ちょっと気恥ずかしそうに口にする彼女は、視線を俯かせながら呟いた。

恋人と相成った後も、彼女の性分故か。

未だ遠慮する節がある。

だからなのであろう…。

彼が忙しいのを知っているが故に、直接“クリスマスプレゼントが欲しい”と大っぴらに言わないのは。

それを理解しているヒルメスは、意地らしい彼女に堪り兼ねて本音を零した。


「………そんなに欲しければ、遠慮せずに申せば良かろう…。おぬしへのプレゼントは、きちんと用意してある…。」
『え……っ!本当…!?やた…っ!!』
「家に帰ったらやるから…。今日は早めに帰宅する予定だ。それまで楽しみに待っていろ。」
『はぁーいっ!!楽しみに待ってるね…!』


ずっと心待ちにしていた言葉を貰い、すっかりご機嫌になったラルは寒さで白くなった息を大きな声と共に吐き出した。

忘れない内にと、持ってきていたお弁当をヒルメスに手渡す。

まだ何か足りないと思ったヒルメスは、ふと或る事を思い付き、口にした。


「まぁ、今すぐプレゼントをやれぬ代わりに…と、言っては何だが。“今やれる物”を贈ってやろう。」
『…ふぇ……?』


言っている意味がよく分かっていない彼女は、疑問符を浮かべて首を傾げた。

すると、突然引き寄せられ。

額ではなく、頬でもなく―。

…唇に口付けを落とされたのだった。

いきなりの事で頭の付いていかない彼女は、唇に当たる生温かい感触に、目を白黒させる。

そっと名残惜しそうに離せば、意地の悪い笑みを浮かべて此方を見下ろす彼の顔がある。


「今はこれだけにしといてやる。…家に帰ったら、これ以上の事が待っているから、心して待っている事だな。」


不意打ちに食らったものは、案外衝撃が強かったようだ。


『…な…っ、なな………っ!?』


口をパクパクと戦慄かせる彼女は、恥ずかしさと公衆の面前で口付けられた事による怒りでその身を震わせた。


「―おい、おぬしら…。どうでも良いが、イチャ付くなら他所でやってはくれんか?…仕事の邪魔だ。あと、此処は公衆の面前だぞ…。良いのか?ついでに言うが、銀仮面は少し慎んだらどうなんだ…?」


存在が最早空気になりつつあったギスカールは、うんざりとした表情で愚痴を垂れた。

まだ独り身である彼に、まるで見せ付けるかのようなやり方である。

満足そうな笑みを浮かべたヒルメスは、何処か勝ち誇った表情で彼を見返す。

哀れ、ギスカールサンタ…。

今宵も残業に追われ、聖夜を過ごす事になろう。

打って変わって…彼の二人は、幸せいっぱいな聖夜を過ごす事であろう。

―それぞれの素敵な聖夜に、Merry Christmas...☆


◆END
加筆修正日:2019.07.07
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