長い間レールの上を走り続けた先で、街ではないが漸く一息吐けれるポイントに到着したとあって、甲鉄城に乗っていた皆は揃って喜びの声を上げた。

到着した地点には、大きくはないが無事綺麗に残る湖等もあり、一応警戒は怠らないが、近くにカバネが潜んでいる気配も無いとの事で、女共は溜まりに溜まっていた洗濯物の類いを担いで水辺へと集まった。

男共も其れに続いて、長く日に干せていなかった布団類を運び出し、木に繋いだ綱へと掛けて吊るしていく。

各々が揃って外へと出て行く中で、アタシだけ一人最後尾の車両の檻の中で燻っていた。

アタシは他二人のカバネリとは違って危険だからと自ら檻の中に入って過ごすまでは良かったが…こういう時、存在を忘れられたように放られ、後から遅れて思い出されたように外へ出してもらえるまでが長い。

故に、どうせ今回も同じ流れだろうと大して期待せずに待っていたら、開け放たれていた扉の向こうから靴音が聞こえてきた。

其れに反応し、横たえていた身を起こして首を上げる。


「悪い、遅くなっちまって…。来栖から漸く鍵貰えたから、今入口の鍵開けるな。」
『別に…何時もの通り、アタシは後からしか動けないだろうなぁ…って然して期待してなかったから。外へ出してもらえるだけでも有難いし、御の字だよ。其れに、今回は予想に反して来るの大分早かったし、今までと比べたら最も早かった方だからね。驚いてるくらいだよ。何時もだったらもっと遅い。』
「だから悪かったって…!鍵持ってる来栖がどっか行ってて、さっき漸く見付けられたから急いで鍵持って此処まで来たんだ…っ。こういう時、一々来栖に鍵貰いに行くのが面倒だから、此れから鍵持っとくのは俺か無名にしてもらおうかな…?」
『別に急がなくても…アタシは気にしないんだけど。』
「俺が気にする…っ!お前だけ一人こんなとこで閉じ込められたままなんて、可哀想だし、何より不公平だろ!同じカバネリの俺達は自由にしてるのにさ…!」
『其れはアタシが望んだから、こうして檻の中に入れてもらってるだけであってだな…。拘束具だって、アタシが自ら望んだから付けてるに過ぎない。誰が悪いとかではないよ。』


カチャンッ、と小さな金属音が鳴って、入口の鍵が外れた事が分かる。

すると、入口に付いていた錠前を外して開けてくれた上に、ご丁寧にも此方へ手を差し伸べてくれた生駒。

見掛けによらず、彼は意外にも紳士的なところがあるから、人って面白いと思える。

まぁ、今はそんな事どうでも良かったか。

差し伸べられた手に自身の手を重ねて檻の外へと出る。

久方振りに出る檻の外は、何時もよりも空気が澄んでいて心地が良かった。

何時もはもっと殺伐としていて、空気も張り詰めた中、対カバネの戦闘要員として駆り出されるばかりだったから、新鮮な空気だった。


『はぁー…っ、窮屈だった。ずっと躰折ったまんまってツラ…っ。幾ら縦に座っても頭付かないくらいの余裕はあるスペースだっつっても、毎日籠るにゃ窮屈なレベルだっての。…と言いつつ、自分から入ったんだから、あんま文句は言えんがねぇ…っ。』


檻の窮屈さから一時的に解放された事で、内に溜まっていた愚痴を独りごちさせながら思い切り伸びをする。

躰の至るところをぐいぐい伸ばしていたら、ずっと凝り固まっていた筋肉やら関節やらが軋んでバキボキと音を立てた。

我ながら凄い音だ。

一応、檻の中でも動ける範囲で柔軟体操はしてたんだけど。

其れでも、やっぱり檻の中に居るのと居ないのとでは環境が違ったようだ。

躰が自然と伸びて筋肉が緩んでくるのが分かる。


「俺達の方からも、もっと李鞠を自由にさせてやってくれ、って頼んでるんだけどな…。来栖のヤツが絶対に首を縦に振りやがらないんだ。…ごめんな、李鞠だけ窮屈な思いさせて。」
『アタシが危険視される理由は十二分に分かってるし、仕方の無い事だよ。アタシは他の二人と違ってカバネ寄りの質のカバネリだかんね。ま、もう少し落ち着いた環境にならない限り、しょうがない事さね。もう暫くは我慢するよ。此れも己に課された罪だってね。』
「そんな事……っ、」
『出してくれてありがとね、生駒。じゃ、アタシ、適当に近くで自由にしてるから。何かあったら知らせて。』


心優しい彼が其れ以上何か余計な事まで発する前に、早々とその場を去る事にする。

まだ何か言いたげだった生駒は、不服そうにその場に残りつつアタシの背を見送ったが、彼には彼の遣り方があれば、アタシにはアタシの遣り方があった。

事を荒立てずに済ませる事が出来るのなら、その方が何倍だって楽だ。

ただ、其れだけの事である。

そんな風に考えながら車両から抜け出ていると、向かいの方から駆けてくる無名と鰍が此方へ駆け寄ってきた。


「李鞠李鞠、ちょっと聞いてよ…っ!」
『な、何々…っ、いきなりどうしたの……っ?』
「私ね、甲鉄城が此処に停車してから暫く辺りを巡回するついでに散策してたんだけどさ、そしたら近くで湯気みたいなのがぶわぁーっ!!て凄い出てる処を見付けたの。で…其れが何なのか鰍や菖蒲さん達に訊いてみたら、なんと天然の温泉が湧き出てるんじゃないかって事が分かったの…!どうもこの辺りには温泉が出る源みたいなのが集まってる地帯になってたみたいで、巣刈達が今安全かどうか調査しに行ってる。」
「其れで…もし、その温泉が安全なものか分かれば、李鞠ちゃんや生駒君達に知らせてあげようって話してたとこだったのよ。」
『へぇ…。』
「ちょっと、李鞠は嬉しくないの?温泉だよ?思いっ切り汗流せる上に心置きなく水浴びまで出来るんだよ?」
『でも、其れは安全が保障されたら…でしょ?おまけに、仮にその無名が見付けた温泉が安全だと分かっても、皆が皆一斉に汗流せるという訳でもないし。その間、誰かが警備に当たらなきゃいけないってなると、要戦闘員のアタシは必然的にそっちに回されるから、恐らく一緒には居られな……、』


そう言葉を続けていた最中に、調査から戻ってきたらしい巣刈達の喜色を滲ませた掛け声が飛び込んできて、二人の意識が其方に向く。

アタシも人が話してる時に何だ、と半分だけ意識を傾けた。

そしたら、喜ばしい事に、無名が見付けた場所は安全な温泉地帯だったという事が分かったらしく、おまけに、無名が見付けた場所の奥にも温泉地帯は点々と続いていたらしい事が分かり、その数は十数個。

どうやら、偶々停車したこの地域は火山地帯だったようで、地下で温められた水蒸気が脈源となって温泉となり、地上に湧き出ていたようだ。

まさに、天然の温泉というやつである。

巣刈達調査隊の知らせに沸き上がった皆は、一斉に歓声を上げて盛り上がった。

其れは、目の前に居た二人も例外ではなく、今しがた話していた事が現実となると分かるなり、嬉しさに舞い上がって互いの手を合わせてその場で飛び跳ねた。

そんな皆のテンションの上がり様に一人置いてきぼりになっていると、「ほら、李鞠も一緒に喜ぶ!」と無名に勝手に手を取られ、一緒に飛び跳ねさせられた。

解せない…。


「こうしちゃ居られない…っ!私、すぐさま近くで遊んでる子供達を集めてくるね!そんで、温泉に入る準備してくる…っ!!」
「私も!早く温泉入りたい!!急いで入浴装備持ってこなきゃ…っ!ほら、李鞠もボーッとしてないで早く行くよ!!」
『え…あ、は?アタシも?』
「当たり前でしょ!アンタも一緒に行くの!!だから早く用意しに行くよ…っ!!」


思ってもみなかった展開に付いていけないままでいると、呆然と突っ立っていたアタシの手を無名に掴まれ引っ張られていく。

そうして今出てきたばかりの車両内へ戻り、入浴セットを取りに行かされた。

車両内で合流した生駒は、先程調査から戻ってきたばかりの巣刈から話を聞かされたようで、無名達同様にはしゃいでいた。

どうやら、現状に置いてきぼりにされていたのは自分一人だけらしい。

何だか其れが面白くなくなり、彼女等には悪いが自分は警備隊の方へ回ろうと画策していると、その思考を潰すように生駒からの一言が飛ばされる。


「あ、そうだ。俺達が温泉に浸かっている間は、来栖や吉備土さん辺りの人達が代わりに警備に当たってくれるってさ。だから、俺達は気兼ねなくゆっくり疲れを癒してくれって、菖蒲様が。取り敢えず、何時も一番働いてくれてる俺達メンバーが先に温泉入って良いってさ…!ちなみに、その中には李鞠も含まれてるからな。」
「良かったねぇ、李鞠ちゃん!此れで私達と一緒に温泉楽しめるよ…っ!!」
「やったぁ〜!おっんせん、おっんせん…っ!!」


一瞬にして自分の考えていた策を潰されて、二の句も告げれなくなったアタシは口を尖らせて文句を垂れた。


『…わざわざアタシも一緒にしてくれなくっても良いのにさ。本当、菖蒲様ったらお節介なんだから…っ。』
「まぁまぁ、此れで心置きなく温泉楽しめるんだから、ね?」
「うんうん…っ!文句は温泉入った後からでも言えるでしょ!さ、さっさと温泉入る準備するよ〜っ。」
『ハイハイ…一緒に入る件はもう決定事項なのね、分かったよ…。でも、生駒は男だから幾ら仲の良い間柄と言えども、アタシ等女と一緒に入るのは色々と不味くない…?アタシは、今までが今までの環境故に気にしたりしないけどさ。』
「ハ…ッ、そうだった!つい嬉しいあまりにその事を忘れてた…っ!生駒君、男の子だったんだった!!」
「生駒のエッチ…!もし、私達と同じとこ入ってきたら蹴り飛ばしてやるから!」
「な…っ!?ご、誤解だ!!俺は、ただ菖蒲様から言われた事をそのまま伝えに来ただけで…っ!そもそも始めから無名達と一緒に入ろうとか考えてないからっ!!あと、俺が男だって事忘れないで、頼むから…!」


何時も男よりも男らしい無名と一緒に居たせいか、本来の性別を忘れられた生駒が涙目で叫ぶ。

まぁ、仮に生駒が女であっても男であってもアタシは大して気にしてなかったけど。

その事は敢えて言わずに胸の内に留めておく事にした。


―そうして仕方なしに彼女等に連れられて来た、無名が見付けたという天然の温泉地。

其処は、辺り一面蒸気に満たされていて、温かい温泉が湧き出ている事は明白な処だった。

嘗て昔の記憶だが、まだ自分が歴とした人間であった頃に一度だけ、このような天然の温泉の場所に入った事がある。

其れは、こんな山奥深くにあるような処ではなく、もっと人里に近い川が流れてるような場所にあった処だったが。

まぁ、そんな事はさておき。

温泉地に着くなり早速、身に纏っていた衣服を脱いで近場の岩の上に畳み置くと、湯の元へと心なし足早に駆けていった。

まずは軽く湯に触れて、湯の温度が適温かどうかを確かめる。

丁度良い温度と分かったところで、手始めに足元から湯を掛ける。

続いて、手足、肩への順に湯を掛け、湯に躰を慣らしていく。

そうして躰が湯に慣れたら、軽く汗を流し洗い、改めて掛け湯をしてから湯へと浸かった。

掛け湯だけでも十分に気持ちが良くて、心が満たされていくのを感じたが、やはり湯に直接浸かるのは格別な気がした。

普段まともにお風呂へ入る事が出来ないので、通り掛かった安全な川や湖などで軽く汗を拭う程度しかしていない。

お風呂へ入る事なんて、まだ無事に生きて動いている街に辿り着けた時くらいで、こうしてゆっくり肩まで浸かれる事だって数える程しか無い。

故に、今日偶然にもこの地に辿り着けたのは、奇跡にも等しかった。

そんな貴重な機会を存分に楽しもうと、湯に浸かった皆は各々にのんびりと躰を伸ばして羽を伸ばしていた。


『っはあぁ〜……!極楽極楽ぅ〜…っ。』
「本当にねぇ〜…っ!こんな風にゆっくりお湯に浸かれるなんて久々だなぁ…!」
「本当最っ高〜!!もう、其れだけに尽きるぅ〜…っ。」
「お風呂は命の洗濯、とはよく言うけど…本当ねぇ〜。気持ちぃ〜…っ!」


それぞれが温泉を楽しむ中、子供達は近くの浅めな方の温泉で水の掛け合いっこなどをしてはしゃいでいた。

その声に、鰍が「あんまりはしゃぎ過ぎて湯中りしないようにね〜っ!」と声を掛ける。

確かに、気持ちが良いからと湯に浸かり過ぎては逆上せてしまうので、程々にしなければ…。

そうこう考えていたら、隣に移動してきた無名に話しかけられた。


「李鞠…そうしてると何か雰囲気違うね。」
『え…?』
「あー…何時もは髪降ろしてるもんねぇ〜。李鞠ちゃん、髪長いから、そうして一つに結い上げてるのも新鮮で素敵だよ…!」
「うんうん…っ。何時もそうしてれば良いのに…すっごく似合うよ!」
『そう…、なのかな…?よく分かんないや。今は、ただ躰流すのには邪魔だったから一つに括っただけだったんだけど…。』
「李鞠、兄様みたいに髪長いんだから、何時も結い上げてたら良いんだよ。その方がきっと可愛いよ!ねぇ、生駒もそう思うよねぇーっ?」


少し離れた処の温泉に浸かる生駒へ向けて大声で会話を投げた無名。

確かに、壁も何も無いから此方の会話は全部筒抜けだと思うけど…其れはどうなの。

そう思っていたのは向こうも同じだったようで、いきなり投げかけられた会話にすっとんきょうな声を上げて返していた。

其れもそうだろう。

年頃の男女が壁無しに入浴してる最中なのだから。

幾ら距離が空いていようと、軽めの板立てで仕切りを作っていようと、ほぼ壁無しには変わりない上に意識してしまうだろう。

女共は肝が据わっているからあまり気にしていないのかもしれないが。


「ねぇねぇ、生駒も思うよねぇーっ?李鞠が菖蒲さんみたいに髪一つに結い上げてたら可愛いってー!」
「いや、確かに似合うと思うし、すげぇ可愛いだろうなとも思うけど…っ!今はお互い温泉入ってて裸だから見れないっての…ッ!!」
「ちょっとだけなら大丈夫なんじゃない?ほら、前隠しちゃえばギリギリイケるでしょ?」
「バッカ…!!おまっ、ふざけんなよ!?そっちにはお前等だけじゃなく他の人達も居んだろ!?んな事したら間違いなく殺されるわ…ッ!!」
「え〜っ?どうせ覗きくらいしてるんでしょぉーっ?生駒のエッチ、へんたぁーいっっっ!」
「してねぇーし、何勝手に人が覗きしたみたいな事になってんだよ!!やめろよ、そういうの…っ!!マジで俺はやってないからなぁッッッ!!」
「うん、私も流石に色々と無理があると思うよ、無名ちゃん…っ。」


飛んだ濡れ衣も甚だしいところだ。

しかし、たぶんこの会話、後で子供達が間違って来栖や菖蒲様辺りに報告しちゃうと思うから、御愁傷様である。

まぁ、あの鈍ちんで童貞くさい生駒に覗きなんて真似出来るとは思わないけど。

逞生が居た時ならまだしも…と思ってからすぐに、彼はもうこの世には居ないのだったかと思い直す。

何時だって失うのは惜しい人達ばかりだ…。

何故、そういう時に限って死ぬのは自分ではなく、他人ばかりなのか。

なぁんて、いつの間にか変に感傷染みてきてしまった。

つい考え込むと暗い方暗い方へと考えてしまいがちになるのは、アタシの悪い癖だ。

頭を振って別な事に思考を変えようとしていると、再び無名から声を掛けられて中止させられる。


「…何だか、今の李鞠、人魚みたいだね。」
『え…に、人魚…っ?何でまた……、』
「真っ白で長くて綺麗な髪がさ、お日様の日を浴びて人魚の鱗みたいにきらきら光ってんの。ほら、よく見てみな?」
「あ、確かに…一つに結い上げられた長い髪が、まるで人魚の尾っぽみたいにきらきら光って見えるよ…!無名ちゃん、よく気が付いたねぇ!!」
『人魚って…確か、太古昔に居たとされる存在の事だよね?お伽噺として昔から言い伝えられてはいるけど…実際には居ないんじゃないかと言われてる、妖怪みたいな扱いのものじゃなかったっけ。一部じゃ神聖化されてる文献もあるけども…その人魚に、何でアタシが似てるって…?』
「実は…この間ね、子供達に絵本を読み聞かせてあげたの。その時に読んだ本に、偶々人魚ってのが出てきてさ…その人魚に、今の李鞠が似てるように見えたの。…知ってる?人魚って、最後は泡になって消えちゃうんだってさ。悲しいよね…。死んだら最後、泡になっちゃって何にも残らないんだよ?そんなの、寂し過ぎるよ…。」


…たぶん、今のは例えで言った言葉だと思う。

例えとは…言い方を変えれば、比喩という事。

アタシの髪は今は真っ白に染まってしまっているけれど、此れはカバネリと化した証のようなもので。

元は綺麗な赤髪だったのが自慢だった。

でも、其れはもう過ぎた事だ。

別に、今となっては大して気にしちゃいない。

済んでしまった事を今更とやかく言うつもりは無いからだ。


「李鞠は、そんな簡単に私の前から消えちゃったりしないよね?…人魚みたいに、泡になって消えちゃったりとかしないよね…?」
『少なくとも…アタシは元は人間だから、泡となって消える、なんて非科学的でファンタスティックな事にはならないだろうね。でも、アタシはカバネリとなってから沢山の人達を殺したから…死ぬ時はきっと、無惨な死に方しかしないと思う。』


ぽちゃん、と髪から垂れた滴が湯船へと落ちて、水紋を作った。

静かに落ちた滴の音は、その場に流れた沈黙を破る。


「…なら、約束してよ。アンタが死ぬ時は、せめてアンタがカバネと堕ちた時だって…。其れで、アンタが死ぬ時は、私達に殺される時だって。私達が知らない処で勝手に死ぬなんて、許さないから。」
『まぁ…自分が死ぬ時は、無名か生駒に殺される時だろうなって初めから思ってたから?……大丈夫。アタシはそう簡単には死にゃしないよ。変に生命力強いから、今こうしてカバネリになってまで生きてんだし…。大丈夫、無名が心配に思ってるような死に方はしないよ。』
「絶対…絶対だよ…?もし、アンタが私の知らない処で死んだりなんてしたら…私、何処までだって呪ってやるんだから。地の果てだって、地獄の底にだって追い掛けて呪ってやる……!」
『はぁーいはい、分かりましたよって…!そんな顔しなさんな。せっかくの別嬪さんで可愛らしい顔が台無しでしょ?今はそんな薄暗ぁーい事考えてないで、思い切り温泉を楽しみな…っ。二度とあるか分からない機会なんだからさ?』


人間の不安な心がカバネを生み出すなら、余計な不安は取り除くが吉である。


「そうだよ、無名ちゃん…!今はとにかく温泉を楽しもうっ!!今しか入れないかもしれないんだからさ…っ!!」


場の空気に乗っかって、鰍も明るい声音で話に乗っかる。

その流れに便乗して、手を水鉄砲代わりにして無名の顔に向かってお湯を飛ばしてみる。

すると、負けん気強い彼女はすぐに乗っかって、お湯を掛け返してきた。

しかも、狡い事に、両手で思い切りバシャリッ!、とだ。

そっからは、もうただのお湯掛け合戦だ。

周りの事も忘れて、年相応の子供みたいにはしゃぐ。

何やら楽しそうな空気を察して、いつの間にやら子供達までもが其れに混ざっていた。

終いには、男風呂側をも巻き込んでのお湯の掛け合い合戦。

もう男女布一枚越しなだけなんて事、どうでも良くなっていた。

最終的、逆上せて目を回した生駒がぶっ倒れて騒ぎになり、その騒ぎを聞き付けた来栖が来た事によってまた更なる混沌を生み、結果、菖蒲様が駆け付けた事で事態は収束となった。

まさか、生駒が着せられるかと思っていた覗きという罪(冤罪)が、来栖に着せられる事になろうとは。

何とも面白い幕引きとなるのであった。


執筆日:2020.05.29

【後書き】
何もかもチャレンジする事が多かった今回の作品、如何だったでしょうか?
企画物では、とうらぶ以外の作品を書く事も初めてなれば、お相手が女の子というのも初めてで、二重三重的な意味で初めての試みに挑んだ作品となっております。
過去に、普通の夢書きの際にコナン夢で女の子お相手のお話を書いた事はありましたが、他所様の企画でちゃんとした文という形でまともに書くのは初めての事でした。
個人的に、色んな意味でチャレンジした感じですね…!
お話を書く上で考えていた事ですが…タイトルを見た時から何となくタイトルをもじった感じの内容に仕上げたいなと思いまして、物語終盤辺りにてその部分を書いてみた次第です。
書きたい部分のお話までに掛かる導入部分が大分長くなってしまいましたが、書きたい事は全部詰め込めたので私としては満足なのです…!(笑)
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画をご用意してくださった朝谷様には、大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。
※尚、当作品のタイトルは、企画サイト様指定のものをそのまま使用させて頂きました。