初期刀と迎える
三年目の節目を祝して



「せっかく審神者就任記念日当日だってのにぃ〜……っ」
「どうした、帰ってきての開口一番に?」
「前日の昨日に片頭痛から体調を崩しまして、現在進行形も優れない事から当日の本日も熱冷まシート貼った姿曝して何とも情けない状態で申し訳ないって話だよぉ〜〜〜……ッ!」
「なに、いつもの事だ。今更そんな事くらいで気にしたりなんてしないさ。アンタはアンタ、其れだけで十分だろう」
「うわぁん初期刀が頼もし過ぎて泣けてくる…ッッッ!!」
「今のくらいで泣くな。そら、俺の紋入りタオルを貸してやるから、此れで拭け。今日は大事な記念日なんだろう?だったら、泣き顔より笑顔を見せてやれ。アンタは泣いているより笑っている顔の方が似合う」
「ウチの初期刀が極めてからより彼氏力爆上がりしててやばいッ。控えめに言って語彙力飛ぶ…!!」


 頭がどんなに痛かろうとこの日だけは忘れず、就任記念に合わせて進むカウントダウン開始日から毎日欠かさず本丸へログインという名の帰宅をしていた彼女――当本丸の女主であり審神者の丙。
帰還して早々謝罪とも言えぬ懺悔台詞を早口で捲し立て情けない顔を下げながらこうべを垂れてきた。
其れを出迎え手慣れた様子で対応する彼女の初期刀・山姥切国広…当方極めて暫く故か、やけに彼氏力を発揮している。
元々初期刀という身で顕現しているせいもあるだろうが、其れにしても冒頭の遣り取りだけで主と強固な信頼関係を結べている事が分かる。

 其れもそうだろうとも。
何せ、この本丸も設立されて三年目、何だかんだありつつも審神者就任三周年の節目を迎えたのだ。
 本日、霜月の十六日――語呂合わせで“良い色の日”とも言う――は、記念すべき審神者就任記念日であり、本丸設立記念日である。
天気は晴れの日にて、誠に良き日である。

 今や見慣れた彼女の情けない面を見つめながら、彼は嘗てを懐かしんで呟いた。


「あれだけ幾度と“やっぱり私には向いてなかった”だの“辞めようか”などと弱音を吐きつつも、とうとう辞めずまま、俺にきる事も無きまま、三年という節目まで迎えたな。そんな記念すべき今日という日を再び迎えれて、改めてどうだ?何か申し開きしたい事があるなら言ってみろ」
「その節はあの、誠に申し訳ございませんでしたし、大変反省しておりますので、本っ当に本っっっ当に御免なさい謝りますからどうか許してくださいましィーッッッ!!」
「仮に“嫌だ、許さん”と返したら、アンタはどうするつもりだったんだ?」
「えっっっ…………??そりゃぁ…そのぅ……えっとぉ…っ、しかるべき対処を取らざるを得ない、と、思います、けど………ッ」
「凄く苦し紛れな言葉が絞り出されたな」
「いや、だって…今返した風にしか返せる言葉が見付かりませんて……っ。他にどう返せと?」
「ふっ…、冗談さ。ただ、今日という記念すべき日をまた迎えられて、嬉しさあまりに舞い上がってしまっただけだ」
「御免…っ、状況と内容が内容だっただけにブラックジョークにもならなかったんですが…??」
「すまん。アンタがあまりに情けない顔をするから、ちょっと揶揄からかってやろうかと。此れくらい、今の俺とアンタの仲なら許される事だろう…?だから、そう悄気しょげるな。せっかくの美人が台無しだろ」


 笑えないブラックジョークの流れにすっかり半べそをかいていた彼女の目尻を手ずから拭ってやり、そう笑って言った彼の笑みたるや、背後に後光が射して見える程に輝かしくまばゆいものだった。
涙も引っ込む勢いである。
否、心臓に悪い驚きである。
…勿論、良い意味で、であるが。

 ――しかし、彼の言う事ももっともだ。
せっかくの記念日なのだ、どうせなら終始一日湿っぽく過ごすよりも晴れやかな気持ちで過ごしたい。
彼女は半ば照れくさそうに微笑みながら頷いた。

 そうして、審神者部屋前の縁側へと向かい、二人仲良く揃って腰掛け、話に花を咲かせた。


「さっきの話に戻るんだがな…、」
「うん?」
「“三年も一緒に過ごせば、悔いる過去も出来る”という話がしたくて、敢えてさっきの話題を出した、という事だったんだ。決してアンタを傷付けたかったとか、アンタの気にしてるような事を抉るとか、そんな意思は全く無かったんで、勘違いしないでもらえると助かる…。だが、その…もし今さっきので少しでも傷付けてしまっていたなら、すまない……幾らでも謝るし、何なら土下座だってする!責任は全て俺が取ろう!!」
「いや、男前が過ぎるし…!言うて事実だから傷付くどころか、謝罪なり懺悔なりするのは寧ろ私の方ですが!?本当あの頃の私、未熟にも程があったというか、妹の事も一丁前に馬鹿にするわ揶揄するわ、その上で君達の事信用し切れてない発言しまくったりなんかするわでマジで本気で御免ね!?」
「お互い未熟だったんだ…信用に足る信頼関係を築けていなくとも当然だろう?嘗て弱音を吐いていたのだって、アンタが審神者を始めて一年足らずの頃の話だ。今や日々毎日立派に勤めを果たしているし、俺は其れを隣で支えてやれている。その権利を…役目をくれたのは、紛れもない主であるアンタだ。日々感謝しているぞ。アンタが誇れる初期刀で在ろうと、努力は欠かさないし、兄弟や本歌達と共に鍛練に励んでいるしな。今も成長し続けているぞ、俺は。アンタの選んだ刀として相応しく在る為に、アンタと並んで歩き続けて行けるように。――俺は、本歌・山姥切長義の写しであり、国広唯一の傑作であり、アンタが選び抜いた“アンタの”山姥切国広だ。其れは、これからもこの先もずっと変わらない事実であって、俺の誇りさ。…アンタがくれた、俺の何よりの、な」


 目映まばゆい太陽の輝きに負けないくらい、美しき秋の紅葉の黄金色にも負けないくらいの笑みを向けながら、力強く言い放った彼の言葉に嘘偽りの影は無い。
正真正銘、真っ直ぐとして語られた彼の本心であった。
 そんな彼の真っ直ぐな言葉に胸打たれた彼女は、今度は別の意味で目を潤ませながら彼の言葉に頷いてみせた。


「そうだね…っ、私もまだまだ変わらなきゃいけないとこ沢山あるから…日々成長あるのみだよね!」
「アンタは既に立派に勤めを果たしているじゃないか。其れなのに、まだ不満があると?」
「私だってまだまだ未熟者よ…!上には上が五万と居るんだからっ、これからだって成長は続けていくわよ!!」
「そうか…なら、俺はその背を変わらず支え続けながら共に成長していけば良いんだな?」
「勿論!!これからもずっと変わらずまんばちゃんには私の側に居てもらわなきゃ…っ!大事な大事な初期刀様…!どうかこれからも私と一緒に居て頂戴ね!!」
「…嗚呼、言われずとも。今更アンタが俺を突き放そうとも、俺はもうアンタの側を離れる気なんてこれっぽっちの欠片も無いんだからな。そうした責任は取ってもらうさ」


 主とその初めの刀としての絆を、今、再確認したように拳を突き合わせて笑い合う。
そうやって、彼等と迎える三年目の秋と共にやって来た尊き日を、噛み締めて祝う。


「――まぁ、今後の抱負はさておき…今のアンタに最も必要なのは、薬と休息だな。ちょっと待っていろ、すぐにでも薬研を連れてきてやるから。嗚呼、先に言っておくが、其処から一歩も動くんじゃないぞ。俺か薬研が来るまで大人しく待っていろ、分かったな?」
「ア、ハイ…ッ。毎度お世話になりますー……」
「どうせこっそり陰に隠れて聞いていたんだろう?乱に秋田、その他数名」
「エヘッ!バレちゃったなら仕方ないなぁ〜!」
「主の見張りは頼んだぞ、お前達」
「はぁーい!ボクともお話しようねっ、主さん!」
「僕とも是非お願いします〜!」
「ぶっちゃけ、熱冷まシート姿の主さんなんてもう見慣れちまったよなぁ〜?」
「うんうん。最早日常風景的な感じするよね。だから今更感が凄い」
「お加減が優れないご様子でしたら、いつでも横になれるよう床の準備をして参りましょうか?」
「寒さが原因で風邪気味とかでしたら、虎君を湯たんぽみたくするとあったかくなりますよ…!」
「大将は薄着してるから駄目なんだって…!女の人は躰冷やしちゃ駄目だろ!ほら、この上着でも羽織ってろって!!あと靴下履けッ!!」
「寒いなら俺が懐に入ってあっためてあげるよ!」
「其れはお前が懐に入りたいだけだろ…」
「はい、淹れ立てのお茶だよ。飲めば少しはあったかくなると思う」
「くりやばんたちがつくったおかしだってありますよ〜!どうぞ、すきなだけたべてくださいね!」
「まんばちゃんが離れた途端の短刀(+α)包囲網が凄まじい」
「僕達も居るよ!」
「カカカカッ!」
「流石国広セコム…我が本丸随一のセコムやんな…」
「兄弟に頼まれたからには完璧にフォローしてみせるよ!!」
「主殿は常と変わらずゆるりと気構えずに過ごされよ!!」
「わぁい、ウチの子達が逞しく頼りがいありまくって審神者嬉しみ〜」


執筆日:2021.11.16