眠る君の寝顔
其処は、とあるホテルの一室。
任務から帰還したジンとキティは、疲れた身体をおして少しの間の寝城へと雪崩れ込む。
装備していた武器等一式を外し、身軽になると、先に汗を流す事になったキティは、そのままシャワー室へと向かった。
その間に、ジンは任務で使用した銃の整備をして、次の任務に備えた。
たっぷりと時間をかけて汗を流し終えた彼女が出てくると、待ちくたびれたジンが小言を漏らした。
「……長ェ。」
『ごめん。けど、女性の入浴は、男と違って時間が掛かるものだよ。』
「んなモン知った事かよ。」
舌打ちをしてから、彼女と入れ違うようにシャワー室へと入っていくジン。
そんな彼の態度に、大して気にも留めない彼女は、慣れた様子で軽く受け流し、髪を乾かす為にドライヤーを手に取った。
手早く髪を乾かし終えた後、彼が上がるのを待つ事にしたキティは、自参していた小説を手に取り、ベッドに寝転んだ。
寝そべった状態で読みつつ、彼の入浴が終わるの待つ。
すると、疲れていたせいか、うとうとと船を漕ぎ出し、頭が揺れた。
ジンが戻ってくるのを起きて待っているつもりだった彼女だが、徐々に侵食してくる睡魔に負け、そのまま意識を手放したのだった。
―ガチャリとシャワー室を出て部屋へと戻る手前、彼女の名を呼んだが、応答しなかった。
「キティ…?」
不審に思い、足早に部屋へと戻れば、恐らく寝落ちしてしまったのだろう彼女がベッドの上に居た。
呼んでも返事が無かったのは、この為かと溜め息を吐く。
健気に自分が上がるのを待っていて先に寝てしまった彼女に近付き、軽く髪をすいてやる。
見やれば、横になって読んでいたが、疲れで眠くなったのだろう。
読んでいて途中の状態で開かれたままの本が、眠っているキティの手にあった。
しかし、その手は今や力が抜けて、本から少し離れている。
仕方ねぇな…と思いつつ、近くに置いてあった栞を丁寧に挟んでやってから閉じ、側のサイドチェストに退けた。
息苦しそうだった体勢を楽にさせてやろうと、まだ水の滴る髪をタオルで拭いてから仰向けに変えてやる。
ベッドに横たわる柔らかな身体は、それだけでも此方の感情を昂らせ、誘うものだが…。
邪な思考が過るも、寸でで気持ちを堪え、押し留まる。
取り敢えず、一度髪を乾かす為にその場から離れ、洗面所へ向かった。
その後、再びベッドの元に戻ると、完全に寝入ってしまっている彼女の寝顔が目に入った。
「………は…っ、ガキみてぇな面して寝てやがる…。」
口端を攣り上げて笑ったジンは、自身も同様に寝る為、彼女を起こさぬようにそっとベッドに足を掛けた。
その際、スプリングがギシリと軋んで音が鳴ったが、ピクリとも動かない彼女は反応を示さなかった。
彼女の真横に横になれば、彼女の寝顔がより一層近くなり、何となしに眺めた。
童顔かつ成人成り立てのせいか、やたらあどけなさの感じる寝顔をである。
規則正しく上下する胸が、彼女がかなり深く眠り込んでいる事が分かる。
(……コイツ…黙ってりゃ美人で可愛げがあるんだが…。口を開けば、残念な台詞が飛んでくるから残念なんだよな。)
不躾にもガン見しているが、全く起きる気配が無い。
こうなってくると、逆に手を出してしまいたくなるのが、この男のタチ。
全く起きる事が無いから、余計に加虐心を擽るのだ。
刺激されたジンは、眠る彼女の身体に手を添え、ツツツゥ…と撫でた。
しかし、これだけでは何の反応も返さないのが、彼女…。
焦れったく思う心を落ち着け、服の中に手を忍び込ませた彼は、彼女の身体をまさぐり始めた。
僅かに身動いだキティは、「ん…っ。」と小さな声を漏らす。
一瞬、起きるか…?と思いきや、まだ眠り続けているようで…静かに眠る寝息が返ってきた。
つまらないと思った彼は、今度は無防備に晒け出された首筋に唇を寄せ、啄む程度に吸い付く。
先程よりも大きく身動いだが、やはりまだ眠り続けるキティ。
(…どんだけ無警戒なんだよ。少しは女だっつー自覚持てよ…。)
内心で小さく舌打ちをしてから、一度行為を止め、再び彼女の身体を冒してやろうと手をかけたが…。
『―……ん…、…ジ…ン…。』
寝言で呟かれた自身の名に、思考を止めて、彼女を見やった。
相変わらず、ぐっすり寝入っている。
―可愛らしい事してくれるじゃねぇか…。
下着にまで掛かっていた手を引っ込め、綺麗に服を整えてやり、頭を撫でてやる。
すると、無意識なのだろうか…気持ち良さげに擦り寄ってきた彼女があまりにも愛らしく映った。
思わず無言で見つめ続けるジン。
暫くフリーズしていたが、復活すると深く溜め息を吐き、大人しく部屋の明かりを落として、自身も寝る為、ベッドに入り込んだ。
疲れていた身に、癒し効果抜群の愛らしさを見せられれば、沸き上がっていた熱も沈下されるというもの。
もそもそと彼女の布団に潜り込み、再び溜め息を吐き出すと、ニヤリと悪どい笑みを浮かべたジン。
「今日のところは、無防備に眠るあどけない顔に免じて我慢してやる…。が…、次は容赦しねぇから、覚悟しておけよ…?」
そして、手を出さない代わりに、淡い石鹸の匂いを纏わせる身を腕に閉じ込めて、目を閉じた。
―翌朝、覚醒したばかりの彼女が盛大に驚き、悲鳴を上げたのは言うまでもない…。
『……ん…っ、んぅ……ぅ、ん…?』
「よぉ、起きたかよ。よく眠れたようだな、キティ?」
『………ぎにゃあああああっっっ!!!?』
執筆日:2016.07.02