※当作品の夢主は、“一人称俺っ娘でノンバイナリーな女主”設定の子です。
※尚、ts軸(設定)にてお送りしております。
※その他、作中にて、一部、転生要素及び他ジャンルネタを含みます。
※所謂何でも許せる方向けです。
※この時点で少しでも苦手意識を持たれた方は、自己回避願います。自衛は大事。無理な閲覧はお控えくださいね。
※全て自己責任です。読むも否も貴方次第です。
※以上を踏まえた上で閲覧どうぞ。


 果てしなく何処までも続く乾いた大地の砂の上を、巨大な体をした鳥が背中に人を乗せて駆けていく。この灼熱の惑星ノーマンズランドでは、移動手段としてよく使われる乗り物の一つだ。鳥の種別は、トマ。卵から孵ったばかりの雛は両掌に乗るくらいのサイズ感だが、成長すると成人男性を二人背中に乗せても平気な程大きくなる生き物である。
 実は、精神のみ異世界という名の次元を越えて転生した不思議な女は、世界規模で有名なとあるゲーム作品の世界観でも見かける事のある“鳥の乗り物”という時点で既視感を覚えていた。某ゲーム内での、その乗り物兼生き物は“チョコボ”と呼ばれていたが、そんな予備知識有っても無くても、この世界で生き抜くのには関係無いので細かい話は割愛させて頂く。
 そんなこんな、同じ生命体という意味では同胞たる男と共に何となく旅を続けて、早数年。人の感覚とは異なる感性を持つが故に、うっかりのんびりし過ぎていると、年月が過ぎ去るスピードなどほんの瞬きの内に年単位が過ぎてしまいかねない。が、当て所無く気儘に行く先を決めて放浪する旅も悪くない。嘗て、人として地球上で活動していた頃の前世が懐かしい程に。
「ねぇ、次の町まであとどのくらい掛かるんだっけ?」
「えっと……前の町を出てから大分経つから、地図的にはそろそろだと思うんだけど、まだ建物らしき影や目印になりそうな物すらも見えないね」
「今日中に着かなそうなら、程々なところで野営地探して寝床確保した方が良いかも。日も傾きかけてるし」
「そうだね。本当は、宿を取ってゆっくり体を休められた方が一番良いんだけれど、この酷な環境しかない灼熱の惑星ノーマンズランドじゃ贅沢も言ってられないかぁ」
「今夜の野営地点探すついでに、一度途中で木陰か水場辺りを探してトマを休ませよっか。流石に、前の町出てから歩き徹してるから疲れてるだろうし」
「其れもそうだね。じゃあ、もう少し行った先で安全な野営地になりそうな場所が見付かったら、繋いで休ませてあげよう」
「もうちょっとの辛抱だからなぁ〜。疲れてると思うけど、もう一踏ん張り頼むぞ君達!」
 励ましの一声をかけながら、ポンポンと首の横を軽く叩いてやれば、背中に乗せた者の言葉に反応を示して返事をするように一鳴きした。女を乗せた一頭が返事をすれば、其れに倣うように男を乗せたもう一頭も返事をする。二頭揃って仲が良い。二頭を移動手段として借り受けた時に、兄弟だと聞いていたのもあるのだろう。仲が良いのは、男と女の方も同じくであったが。
「あははっ、この子達二頭共君の言葉を理解してるみたいだ。揃って返事をするなんて、よく出来た子達だなぁ」
「賢い子である証拠だね。ふふっ、後で頑張ったで賞の御褒美をあげなきゃ!」
「僕には御褒美ないの?」
「ヴァッシュは、この子達みたいに特別に御褒美あげる程頑張ってないでしょ」
「いや、でも、ほら……此処までの途中で襲ってきた野盗を追っ払ったじゃない?」
「凄腕ガンマンなら、あれくらい伸せて当然。余程の手練てだれでもない限り遅れを取らない相手に、特別手当出す程俺は安くないぞォ〜」
「えぇ……僕ってば、そこそこ頑張ってるのに?」
「俺から御褒美貰いたかったら、トラブルメーカーな癖して変なトコで姫ポジ発揮する悪い癖を直しな。結局トラブル引き起こして後始末という名の穏便に事を収める羽目になるコッチの身にもなって欲しいっつの。まぁ、今言った通りに姫ポジなトコ直してくれんなら、御褒美の件、考えなくもないよん? さぁて、君はどうするかねぇ〜?」
「たはは……っ、結構辛辣な物言い。ソレ言われちゃうと参っちゃうなぁ〜……っ。でも、僕がピンチになった時、華麗に助太刀してくれた上で上手く事を収めてくれる事には毎度感謝してるよ。いつも有難う、琥珀」
「一緒に旅してる同胞のよしみってヤツさね。あとは、単純に俺が平和に過ごしたいだけだよ」
「はは、ははは……っ、いつも苦労掛けて御免…………」
「今更だろ」
 自分の発言で悄気しょげたらしい様子の男が、情けなくもトマの背に揺られながら項垂れて手綱を握る力を弱める。ナイーブモードへと突入する前に、程々で意識を引き上げてやらねば、この男は少し面倒臭い事になる。
 女は、内心で仕方なさげに溜息をきつつ、男と並ぶように少しだけ速度を落として再び声をかけた。
「なぁーに凹んでんの。凄腕ガンマンなら、其れらしくシャキッと背筋伸ばして威厳示しな?」
「ゔっ……。だって、僕、思い返せば、いつも情けないところばかり曝してる気がして……」
「銃を扱わせたら右に出る者なんて誰一人居ないじゃんか。其れの何処が見劣りするってんだい?」
「僕としては、君には少しでも男らしく格好良く活躍してる姿を見せたいんだよ」
「何だ、そんな事気にしてたのか。其れこそ今更だって話だろ? 周りの誰が何と言おうと、ヴァッシュはヴァッシュでしょ。遣る時は遣るし、決める時はバシッと決めるんだから、十分魅力あると思うけど? それとも、まだ何か不足かい? 自分に自信が無いってんなら、幾らでも褒め千切ったって良いんだぞ〜っ。それこそ、お前が“もう良い!”って言うくらいににゃあ」
「えッ!? ちょっ、流石に其れは照れるを通り越して恥ずかしくなりそうだから遠慮しておくよ……っ! 気持ちだけ有難く貰っておくね!!」
 ニンマリ笑みを浮かべて厭らしく笑った女の言葉に、不意打ちを食らったみたく狼狽える男は、そう口早に捲し立てて手綱を握り直して速度を上げた。男の分かりやすい照れ隠しに、己を乗せるトマへ愉快げに笑いかけてから、男のスピードへ合わせるようにトマの腹を蹴った。
 何処までも砂漠の地平線が続くだけの、目ぼしい物は何もない、ただ駄々っ広い乾いた大地が拡がるのみの惑星。唯一何かあるとすれば、五つもある月に、何処までも澄み渡った青空と、夜空に浮かぶ美しい星々に、オーロラの如く見える空中浮遊して移動していくクラゲ型砂蟲ワムズの大群くらいだ。そんな灼熱の惑星で、二人は旅を続けていく。当て所無く、気儘に赴くまま、何処までも果てしない砂の大地を踏み締めていく。
 ただ、旅をするだけなのも退屈でつまらないので、女は、立ち寄った所々で得意な歌を披露する。吟遊詩人とは名ばかりの肩書きだが、彼女の歌声は不思議と魂の込められたもので、聴く者の心を揺さ振った。
 今夜の野営地にと定めた朽ちた建物の跡地にて、女は背を預け、心慰みに夜空へ歌声を響かせる。始めは訥々とつとつと物静かな落ち着いた音色から始まり、次第に星散りばめし天へと届かせるような力強い声量で言葉を発し、歌う。歌にする時の歌詞は、その時々で思い浮かんだ言葉を音に乗せて歌うので、節も合わせて気分次第だ。その音色は、情熱的な時もあれば、物悲しい時もあり、優しく包み込むように温かい時もあったりと、様々である。
 そんな彼女の歌声を、共に旅する間ずっと耳にしている男は、女が歌っている最中、毎度飽きずに静かにうっとりと聴き入っていた。時折、気分が乗った際には、彼女の歌声に合わせてハミングするように即興のアドリブで楽器を鳴らしてみたり、歌ってみたりする。すると、不思議と、事前に打ち合わせでもしたのかという具合に美しいハーモニーを奏でるのだ。その様は、例えて、魂が共鳴でも起こしたかの如し現象であった。即興のアドリブで異なる音を奏でると言えば、遥か昔の幼き頃の記憶が呼び起こされて、ちょっぴり切なくならなくもないが。
 双子の片割れの事を思い起こしていたのだろう。些か気落ちした表情を見せる男と、人一人分の距離を空けて座っていた女は、ご機嫌な調子で歌を口遊んでいたのを止めて、男と肩を並べるように距離を埋めて問うた。
「またナイの事考えてたでしょ?」
「あ゙ー……はははは……っ、やっぱ琥珀には隠し事出来ないや」
「そりゃそうでしょうよ。君達双子の事は何でもお見通しだからね。俺の方が二人より先に目覚めてたんだもの。そういう意味では、俺は君達のお姉さんみたいなモンさね。だから、ヴァッシュが何考えてるかなんて分かっちゃうんだにゃあ〜っ。凄いだろ? 苦しゅうない故、崇め奉っても良いぞ!」
「ふふふっ、琥珀には敵わないなぁ〜……。うん……琥珀の歌声を聴いてて、ちょっとだけナイの事が頭に過っちゃって、ちょっぴりしんみりしちゃったや。折角せっかく気持ち良く歌ってたところに水を差すような真似して御免よ」
「全然気にしてないから良いの。んな事よりも、俺はヴァッシュの素敵な笑顔が曇る方が余っ程一大事だよ。ほら、ヴァッシュが元気ないのに気付いてトマ達も心配そうにしてるぞ? 過ぎ去った事を何時いつまでも引き摺ってくよくよすんのは止しなさいな。確かに、後悔する事とか山程あって、後から後からタラレバ考えちゃう気持ちも分かるけどね。今を生きる限り、前を向いて進み続けなきゃ。どんなに辛く悲しい事があったとしても、その過去を経た上で今があるんだから。苦い思い出も今のヴァッシュを構成する一部、つまりは、必要な経験だったという訳だ。其れがどんなに酷な事でもね。でも、経験はのちに活かせば良い。だから、俺も、歌を糧に生きてる。俺は、ヴァッシュやナイみたいに特出したものなんて何にも無いけど、生まれた以上は、それなりに今の人生というものを謳歌するつもりだよ? だって、何にもしないのはあまりにも勿体ないし、退屈でつまんないだろう? 人生には一摘みの驚きとスパイスがなきゃね! 平坦で彩りもない毎日ばかりじゃ楽しくないからな! そら、程々で気が済んだら、此処に居ない奴の事を悔やんでばっかいないで、蜂蜜を一匙程垂らしたホットミルクでも飲んで寝るぞ! 明日こそ町に辿り着いて諸々補給しなきゃなんないんだから!」
 少しだけ強めに頬を突っ付いて、半ば強制的に蜂蜜入りのホットミルクが入ったマグカップを持たせる。すると、男は促される通りにしっかりと受け取り、口を付けた。途端、「アチッ!!」と盛大に火傷する。
「あ、御免。“熱々だから気を付けて飲んで”って言うの忘れてた。舌火傷してない? 大丈夫?」
「ん……ちょっと舌先火傷しちゃったけど、大丈夫。これくらいなら、すぐに治るから。僕こそ、こんだけ湯気立ってるのにうっかり何も考えずに飲んじゃったのは不注意過ぎたね。少し冷ませば飲めるから、ゆっくり味わって飲むよ。有難う、琥珀」
「ん。どーいたしまして」
 ズズズッ……と音を立てながらチミチミ啜る女の横で、未だ湯気をモクモクと立たせるカップへ息を吹きかけつつ再び口を付けるも、飲むにはまだまだ熱かったのか、「アチチッ」と小さな声を上げながら少しずつ口に含む。直火で温められたミルクは、飲み頃程に冷めるまでにはもう少し時間が掛かりそうだったが、砂漠で冷える夜空の下、身を寄せ合って飲むミルクは格別に美味しかった。仄かな甘みが、彼女からもたらされる優しさと同じような味わいに感じられて、ちょっぴり傷心気味になっていた心もすっかりポッカポカである。
 屹度きっと、この寒空の下で飲むミルクの味わいだって、旅の醍醐味なのだ。そんな風に、二人からは少し離れた位置で兄弟仲良く体を引っ付け合って暖を取っていたトマ達は、思っていなくもなかったり。


執筆日:2025.05.15
加筆修正日:2025.05.28
公開日:2025.06.10

【後書き】
支部小説投稿企画『執筆応援プロジェクト〜旅〜』へ参加及び投稿した作品になります。
テーマは『旅』。参加タグは『執筆応援PJ25Apr』。
作品内容タグは『旅/放浪/異世界/乗り物/吟遊詩人』です。
当初の予定だと、ナイヴズ編も書こうと考えていたのですが、スケジュール上厳しく、結果ヴァッシュ編のみとなりました。
その事が残念でなりませんが、書きたかったお話を概ね書けたと思っております故、気持ち的にはホクホクです。
当て所無く彷徨うばかりの旅に少しでも花があればちょっとは心も浮かばれるかな、と思っての夢ネタになります。
一人ぼっちの孤独な旅よりも、誰かと一緒に居れる旅の方が寂しくないよね。
そんな作者の気持ちがちょっとでも伝われば幸いな限りです。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださったpixiv様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。