※当作品の夢主は、拙宅ではお馴染みの、“一人称俺っ娘でノンバイナリーの方言ちゃんぽんな女審神者シリーズ”設定の子です。
※自己投影色強め且つ癖強めの傾向有り。
※自本丸設定山盛り+原作への独自解釈や捏造設定等多く含みます。
※尚、作中の一部にて、女性ネタを匂わす表現を含みます。
※所謂何でも許せる方向けです。
※この時点で少しでも苦手意識を持たれた方は、自己回避願います。自衛は大事。無理な閲覧はお控えくださいね。
※全て自己責任です。読むも否も貴方次第です。
※以上を踏まえた上で閲覧どうぞ。


 例年にも増して激しい気温変動を経た上で、ようやっとと言うように訪れた雨季の時節。梅雨の時節へ突入する事が分かっていたと言わんばかりに、鈍く痛みを発するようになった利き手とは反対の手首を気にしてさする。
 嘗て、審神者業界へと足を踏み入れる前の、まだ現世で一般職へと就いていた頃に話は遡る。多忙に身をやつして己の身すら顧みる余裕も無かった所為で、休ませるべき時に休ませる暇も無く酷使した結果、慢性的な腱鞘炎を患う事になった。元々は、利き手である右手を学生時代の頃に痛めた事が始まりであったが、仕事を切っ掛けにとうとう両方の手首を痛める事となった。以来、雨の多くなる時節や、気圧変動の激しい時節だけでなく、書き物を多くし過ぎた時などに痛むようになった。
 少し痛むだけならば然程気にならないが、冬の時節に作った切り傷が疼痛を訴えるようにズキズキと鈍く痛むようになってしまった。お陰様で、雨季の時節は専ら両手首をいたわる癖が付いて、早数年が経過した。痛みの程度は年々酷くなっているようで、貼るタイプではずっとしていては汗でかぶれてしまうからという理由で、塗り薬タイプを処方してもらう事にした。
 激しく屋根を打つ雨垂れの音に意識が浮上して目が覚める。寝起きのぼんやりとした感覚の間でも、痛覚だけは明確にその存在を証明し、生きている事の証左を訴えかけていた。目覚めてすぐの内から、利き手とは反対の手首が疼くように痛む。見た目は、ただの白魚の如し日焼けのしていない手首があるだけに見える。が、目に見えた外傷は無くとも、内側から痛む内傷じみたものもあるのだ。腱鞘炎とは、そういうものだった。故に、目から見た視覚情報だけでは分かりづらく、患う本人にしか理解されない痛みでもあった。
 このところ、毎晩就寝前にしっかり塗り込んでから寝付いている筈なのだが、其れだけでは足らないという事なのだろう。痛みの程度から察して、日中でも患部に塗り込まねば効果が薄いようだ。痛みが酷ければ酷い程、仕事が手に付かなくなる。重い物は自然と持つ事を避けるようになるし、仕事上事務仕事として書き物をせねばならなくとも長時間は出来ない。物理的に差し支える事ばかりが増えて、気持ちにも影が差して気分も上がらず憂鬱になってくる。そうなれば、いよいよ気も滅入って体調も優れなくなってしまうだろう。
 寝起きから鬱々とした気分になりかけていると、不意に母屋とを結ぶ渡り廊下の方から微かな足音が聞こえてきた。痛覚から厭に冴えた思考回路が、自然と聴覚までも研ぎ澄まし、激しい雨垂れの音に掻き消えてしまいそうな小さな音を拾う。とこに就いて体を布団に横たえたまま、物音のヌシの出方を窺った。すると、間もなくして、執務室と私室兼寝所とを隔てる襖の前で気弱な声がした。
「あの、おはようございます、主様。近侍の五虎退です。朝餉の準備が整ったので、主様を起こしてくるようにと、厨番の方から仰せ付かり、参りました。えっと、お部屋の中へ入っても宜しいでしょうか……?」
 気弱な声音と共に、戸の外からカリカリと引っ掻くような音が聞こえる。同時に、其れを慌てて諌める五虎退の声が聞こえてきたのを察するに、五虎退の眷属となる大きな白虎も引き連れて来たのだろう。嘗て、うぶの姿たる特時代の彼が連れていたのは小さな五匹の仔虎達であったが、極修行を経て暫く経つ今は一匹の大虎へと習合した姿である。“開けてくれ”と言わんばかりに猫の如く爪を立てて意思を主張する虎に、促されるように入室を許可する返事を返した。
 私室兼寝所となる審神者部屋の奥の間は、執務室よりも強固な結界が張られている。故に、自身が降ろし顕現させた刀でも、審神者の許可無しに容易には立ち入る事が出来ない仕様である。だからこそ、入室に対しての問答は、大切な行為なのだ。外敵から守る意図で、本丸という特殊空間そのもの自体を囲うようにも結界は張られているが、特殊であるが故に怪異や神性生物からの干渉が無いとも言い切れない。何も敵は歴史修正主義の時間遡行軍だけではないのだ。其れ故、審神者の居室となる場所は、本丸の中でも一等強固な守りで固められている。そもが、古来より、その場の一線とを隔てる意味で設けられた敷居という境界線には、そのもの自体に守りの意図が含まれている。よって、敷居を踏み越えるには、その場所の持ち主たる者の許可が要る。全ては、招かれざる客人を貴人の居室内へ立ち入らせぬ為の策であった。閑話休題。
 斯くして、入室の許可を得た五虎退は、静かに虎と共に寝所へと入ってきた。部屋の主がとこに就いたままであるのを察するなり、枕元まで歩み寄り、ちょこんと腰を据えて問う。
「改めまして、おはようございます、主様……っ。あの、もしかして、僕の声でまだお眠りだったところを起こしてしまいましたか? もし、そうでしたら、差し出がましい真似をしてしまって、すみません……!」
「んーん。ごこちゃんが来る前に目が覚めてたから、気にしなくて大丈夫よ。まだ目が覚めたばっかだったから、布団に横になったまま頭が完全に覚醒するまで待ってたんよ」
「よ、良かったぁ……っ。もし、僕の所為で気持ちの良いお目覚めを妨げてしまってたらどうしようかと思ってたところだったので、そう聞いて安心しました。……えっと、お加減の方は如何ですか?」
「ん、体調の方に変わりはないかな。ただ……左手首の方が、ちょっと……いや、かなりそこそこ痛む、かなァ」
「えっ、大丈夫ですか!?」
「う〜ん、慢性的な腱鞘炎がぶり返しちゃっただけだから、そんな大事には至らないけども。痛む事には変わりないかねぇ。もう十数年付き合っちゃあいるが、年々増してくる痛みの程度には少し困りものとは思うがね。半分慣れてきてるのもあって何とも言い難いのがアレだなァ」
「どんな感じに痛みますか?」
「そうさねぇ……不定期の感覚で、鈍く重くジクジク・ズキズキ痛む感じ、って言ったら伝わるかい?」
「想像しただけで痛そうです……っ」
「はははっ、自分で言ってて何か生理痛とも似通った痛みだなと思えてきたわ」
「ゔぅ゙……痛いのは、辛くて嫌ですよね」
「そうね。幾ら慣れたとは言っちゃあ、何時いつまで経っても痛いのは嫌だし好かんね」
 カラカラと笑って誤魔化してみるも、人の感情に聡い動物には通用しない模様で、心配げに見つめてくる視線と共にいたわりの念を込めた温度で額を擦り寄せてきた虎。ゴロゴロと喉を鳴らした音が静かな室内に響き、さながらエンジン音のようで、少し笑みが漏れた。
「ふふっ……やはり、君には気丈に振る舞ったところでバレちまうか。要らぬ心配をかけてすまんね、虎君や」
「ぐるるる……」
「痛いのも、嫌な事も、我慢しないで吐き出してください。どんなに小さく些細な事でも、痛い事は辛いですから……我慢しちゃ駄目、です。虎君も、そう言ってます」
「うん……下手に誤魔化して御免やで」
「あんまり痛みが酷いようなら、薬研兄さんに薬を用意してもらいましょうか……?」
「ん、其れは大丈夫。かかりつけの病院から塗り薬タイプの痛み止めを処方してもらってるから。洗顔やら身支度を整え終わったら塗り直すよ。寝る前も塗ってから寝てたんだがね。トイレに起きたりして途中手を洗ったりとかして落ちちゃったみたいだから、塗り直さんとやにゃ」
「でしたら、其れまでの間に合わせとして、僕が御呪おまじないを掛けてあげますね……!」
御呪おまじない……?」
 すぐにはピンと来なくて、体を起こしながら首を傾げて鸚鵡おうむ返しのように問うた。すると、痛むと口にした左手首をそっと優しく取られて、こういう時のお決まり文句を唱えつつ念じる。
「痛いの、痛いの、飛んでけ〜……っ!」
「……おぉ、久々に聞いたな、そのフレーズ。子供の頃なんかはよく耳にしたフレーズだが、近頃はあまり耳にする機会が無かったモンだから、何か感慨深い響きだの」
「あの……ど、どうですか? 少しは、効きましたか……?」
「うん。不思議と、痛みが和らいだように感じるよ。有難うね、ごこちゃん」
「えへへっ、主様のお役に立てたのなら何よりです……! もし、また痛みが酷くなったりした時は言ってくださいね。僕が、御呪おまじないを掛けて、痛みを和らげてあげますので……っ!」
 もふもふとしたアニマルセラピーも受けて、鬱々と沈みかけていた心も軽くなった気がした。
 元気を分けてもらったところで、布団から出て完全に起き上がる体勢に入る。腱鞘炎を患う手首をいたわられて、身支度を整えるのも手伝ってもらい、大広間まで行く道中もすっかり至れり尽くせりであった。
 離れの間を出て渡り廊下を抜け、百振りを超える刀剣男士等の宿舎棟の集まる母屋へと出て来たところで、なかなか起きて来ない主の存在に焦れてやって来た者達と大広間へと行く道中にて顔を会わせる。
「やぁ、小鳥よ。おはよう。まだ大広間の方まで顔を見せに来ていない様子だったので、直接見に来たぞ。ご機嫌の程は如何かな?」
「おや、ちょもさんでないかい。おはよさん。気分の方なら、ごこちゃんと虎君のお陰で絶賛良いところさね。寝起き一番のゴロゴロエンジン全開は癒し度抜群よ。今度ちょもさんも食らってみると良いぞぃ」
「そうか。其れは、是非ともお願いしてみようか」
「朝の目覚まし係ですか? 山鳥毛さんからのお頼みでしたら、喜んで努めさせて頂きますね!」
「あっ、あるじだ! もうっ、おそいからむかえにきちゃったんだぞ! はやくしないと、せっかくできたてのあさげもさめちゃうし、くいしんぼうどもにたべられちゃってもしらないぞ!」
「おやまぁ。謙信君もあつきもお目見えかい? なかなか来ない俺に、気を揉ませてしまったかね。世話を焼かせてしまってすまなんだや」
「あるじのかおみたさに、みんなよりひとあしさきによびにやってきただけだから、そうしんぱいせずともだいじょうぶだぞ。あるじのぶんは、ちゃんととってあるから、ころばないようにいそがずゆっくりくるといい。でも、できればさめないうちにたべてくれるとうれしいのだぞ」
「わざわざ呼びに来させてしもうて、すまんちや。今行くから、もうちっとばかしお待ちくだせぇな」
「あれ? 主ったらもう起きてる感じ? もし寝坊してるなら、起こしに行こうかと思ってたところなんだけど」
「おや、ごっちんまで。あまりに出遅れて、厨番長まで呼び寄せてしもうたかね?」
「いんや。単に僕が主の顔見たさに起こしに行こうかと思っただけだから、気にしないで良いよ! ちゃんと無事に起きれたんなら、問題は無いって事で一安心だね!」
「ごっちんてば、言い方が物騒だよ。んな言い方したら、主達誤解しちゃうじゃん。あと、普通に一言が多い」
「御免御免っ。ほら、僕ってば一言多いのが癖な刀だからさ! 気を悪くさせたなら謝るよ〜!」
「ごっちんに続き姫までお目見えと来たら、上杉組揃い踏みでないかい。今日は一段と豪勢なお出迎えだねぇ?」
「火車切の事もお忘れなく〜!」
「あ、ちょっと……! 俺まで引っ張って来なくても別に良いのに……っ」
「ふふ、此れで上杉勢が完璧に揃っちまったね」
 上杉家所縁の刀達揃い踏みでのお出迎えに、思わずクスリと笑みが漏れ出た審神者は口角を上げた。
「やれ、此処まで完璧な布陣で以て起床と朝飯の催促を受けちゃあ仕方ないね」
「先に起きてきてる皆、主の事待ってんよ」
「別に、俺を待たずとも先に食べてても良かったのに。皆律儀だのぅ」
「きょうは、あるじのすきな、あつやきのだしまきたまごがあるぞ!」
「歌仙兼定作の物だそうだ。確か、小鳥の好物であったな? 楽しみだな」
「歌仙さんの出汁巻き厚焼き玉子、とっても美味しくて、僕も大好きです……っ! 良かったですね、主様!」
「みな、あるじのことをくびをながくしてまっているよ」
「いや〜、主ってばすっかり本丸の皆に愛されちゃってんね! 此れも、愛の力が成した結果、って事かな? ふふふっ、流石は僕等の主だ!」
「……ふわふわも気にしてるから、早く来てあげなよ……。まぁ、変に焦って転んで怪我でもしたら大事だから、程々に来てくれたら、其れで十分だけど」
「かちゃ、相変わらず素直じゃないんだから。そんなトコもかぁいいけど」
「皆さん、それぞれに主様の事を待っていてくれたみたいですね」
「うん。こんなに幸せな事ってないよね。清光じゃないけど、俺ってば愛されてるゥ」
 そんなこんな、井戸端会議のように道端で立ち止まって会話を交わしていたらば、不意に大きな雨垂れの音の向こう側から本物の・・・小鳥のさえずる鳴き声が聞こえて、其方を向いた。
「やぁ、こんな雨の中でも元気な小鳥達が居るようだにゃあ」
「水浴びを好む野鳥も数多く居るからな。本丸の庭先へ遊びに来ているのだろう。後で見てみようか」
「バードウォッチング、というヤツかね? ふふふ、其れもまた楽しそうで良いが、その前に俺にゃ仕事が待っているんでな。すまなんだが、付き合うのは其れが終わってからになりそうだ」
「今日も江戸城への潜入調査、行われる予定なんですよね? あと、日課の異去への出陣も。部隊編成に変更が無ければ、その通りに周回担当の皆さんへ周知しておきます」
「宜しく頼むよ、実に頼もしい限りの優秀な近侍さんごこちゃんや」
「はいっ! 何か御用の際は、近侍の僕にお任せくださいね……!」
 さぁ、今日も一日の始まりだ。憂鬱な湿気を連れてやって来た雨季にも負けず、審神者は今日も本丸の皆と一緒に審神者業へと勤しむ日々である。


執筆日:2025.06.09
加筆修正日:2025.06.12
公開日:2025.07.09

【後書き】
支部の6月投稿企画『RainRainRain2025』へ参加及び投稿した作品になります。
テーマは『雨』。
参加タグは『rainrainrain2025』です。
4月上旬頃にて寒暖差が激しくなってから慢性的腱鞘炎をぶり返して暫く、ここ最近は落ち着いてきたと思っていたのですが……雨季へと入った途端、またもやぶり返した模様で、絶賛腱鞘炎に悩まされておる俺氏です。
マ〜ジの冗談抜きでズキズキ不定期の感覚で痛むから辛いのヤメテ。痛いの審神者嫌いよ。
多少の痛みに慣れはすれども、痛い事に変わりはないのが本当嫌。
メンタルにも影響及ぼすから、病院に処方してもらった痛み止めの塗り薬が手放せませんわ〜。
片手だけならまだしも、両手首患ってるから辛いね!
おまけに片頭痛持ちでもあるし、現在進行形で精神疾患の方で療養中でもある為、雨季は調子が狂って本当嫌だね!乙……ッ!!
そんなこんな思い付いたお話を書き綴ってみましたが、如何でしたでしょうか?
お気に召す方が一人でもいらっしゃいましたら、幸いな限りです。
余談ですが……個人的なイメージですが、お洒落な横文字料理担当→みっちゃんで、家庭的な料理担当→歌仙さん、The・ワイルド且つ大雑把手抜き料理担当→国広三兄弟、甘い料理やお菓子作り担当→あつき、御飯物系担当→ごっちん、The・男料理系担当→たぬさんと孫六さん、麺類系担当→にっかりさんと清光、というイメージです。
まぁ、所謂“ウチの本丸設定”というヤツなので、他所様本丸の場合は、また違った感じになるんでしょうね。
とうらぶ君の楽しいところは、自由な発想と想像が出来るところですな。この先も、ずっと推します。
宜しければ、拍手欄等で「ウチの本丸はこんな感じです…!」ってコメント頂けましたら嬉しいです(*^^*)
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださったpixiv様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難う御座いました。