※当作品の夢主は、“友人モデルの他所本丸の女審神者(見習い)さんと、その手持ちの鯰尾藤四郎や初期刀+αシリーズ”設定の子です。
※原作への独自解釈や捏造設定等多く含みます。
※今回は、いつもと異なり、他所様本丸設定の創作審神者とその持ち刀である刀剣男士達がメインとなるお話構成です。
※尚、作中にて登場する女審神者(新米審神者)さんと鯰尾藤四郎及び初期刀は、他所様企画夢頁・『Log:6』収録の大包平夢『待たせたな、俺達(審神者という名のヲタク共)の死が来たぞ。』でも登場した同キャラクター達となります。一応、単体でも読めなくもないですが、上記のお話を読んだ後に読むとより分かりやすいかも……というだけのレベルです。
※所謂何でも許せる方向けです。
※この時点で少しでも苦手意識を持たれた方は、自己回避願います。自衛は大事。無理な閲覧はお控えくださいね。
※全て自己責任です。読むも否も貴方次第です。
※以上を踏まえた上で閲覧どうぞ。


 本日、三月吉日を以て、本校審神者養成学校で全ての研修課程を修了した者は、揃って卒業と相成る。
 今年度の審神者候補生として選ばれた者達は皆優秀だったのか、一人として欠ける事無く、無事全ての研修課程を通過し、合格結果と卒業証書及び正式な審神者認定証を手に、学び舎を去る事となるのだ。候補生達を何処に出しても恥ずかしくないよう送り出す為、今日日きょうびまで教鞭を執り続けた教師陣や、共に切磋琢磨した初期刀候補生及び政府刀陣の刀剣男士達。各々が取捨選択を行った結果が、今、此処に証となって示されるのだ。
 この日を心の底よりずっと待ち望んでいた、とある審神者見習い候補生も、この度、この時点を以てして、正式な立派な審神者と認められる瞬間である。
 共に学び、時には涙あり笑いありの日々を過ごした同期生達とは、一度、此処でお別れだ。其れは、少しだけ寂しくはあるけれども、何時いつだって、終わりが来る時には新たな始まりが待っているものなのである。だから、屹度きっと、今日が永遠の別れではない事を信じよう。例え、我々がこれから立ち向かうは、正史を守る戦の最前線基地であったとしても。また、いつか、何処かで出会える事を信じて先へ歩み出すのみである。
 今、この時、時の政府公認のもと、正式な審神者となった一人の元・見習い候補生は、卒業証書と共に手にした審神者証を感慨深く見つめていた。
「おぉ……っ、此れが噂に聞く“審神者証”というヤツかぁ〜! 何か運転免許証みたいでウケる」
「ちょっとちょっと……其れ、失くしたら再発行手続きしなきゃならない程面倒臭い代物だから、絶対に失くさないでよね? 審神者会議の時や政府施設に出入りする時とか、これからゲート移動する度に必要になるから、必ず外出する際は携帯するのを忘れないように! 今までは審神者候補生として発行されてた仮の認証パスで行けたけど、これからは其れが正式な認証パスになるから。良ーい? あっ、あと其れ、審神者の顔写真代わりに、その時近侍担当してる奴がその部分に証明写真として載る仕組みらしいから。今は、初期手付き諸々済んでない関係でほぼ空欄ばっかだし、仮で俺の顔投影されてるけど。近侍変わる度に表示される写真も変わるらしいから、その辺忘れずにね〜」
「えっ。じゃあ、これからは可愛い可愛い鯰尾君がこの部分に載るって事か……! え、何ソレ最高じゃね?? 初めての近侍担当した日は記念に写真撮っとかなきゃ……!」
「最初の内は、初期刀とチュートリアルこなさなきゃなんないから、俺固定になんの忘れないでよね? 鯰尾の奴近侍にすんのは、諸々初期手続き全部済ませた後にして。つか、気ぃ早過ぎでしょ、ったく……。逸る気持ちは分かんなくもないけどさぁ。これからが本番なんだから、本丸を束ねる主として、マジでしっかりしてよね〜?」
「分かってる分かってる。興奮のあまり今まで抑えてたものが口走って出てっただけだから安心しろ。大丈夫、初めこそが肝心なのは何処も一緒だって履修済みだから。審神者歴で言えば先輩格の後輩ちゃんみたく上手く回して行けるかはまだ不安だけど、今は任務内容も含め審神者制度も新人に対して色々優しくなったって聞くし、何とかなるって。んな事よりもさ、本丸着いたら、チュートリアルこなす前に鯰尾君顕現してオッケーなんだよな?」
「あー……一応、上には許可取得済みだから大丈夫なんじゃない? まぁ、細かい部分は現地入りしてからで、本丸付きのこんのすけから説明が入ると思うから、概ね其れに従いつつ〜って流れになると思う。まっ、あんま初っ端から飛ばしてもバテちゃうのがオチだろうから、程々に肩の力抜いて、肩肘張らずにやってこ?」
 そう言って、無事審神者と共に正式な初期刀として認められての卒業課程を修めた、始まりの一振りである加州清光は、己の主に対して気安い態度で言葉を投げかけた。其れに頷きつつ、審神者である女も、今まで背中にずっと背負ったままだった一振りの刀を大事そうに両手に抱えて視線を落とす。
「待っててなぁ〜、鯰尾君。今、顕現してあげるから、もうちょっとだけ待ってて」
 愛しげに鞘を撫ぜる手付きには、最早隠す事のなくなった慈しみの感情が乗せられていた。其れこそ、乙女の淡い恋心が滲み溢れていたのである。初期刀の加州は、其れをちょっとだけ妬ましく思いつつも、もはや見慣れた光景として受け入れて先を促した。
「ほーら、何時いつまでもこんな処で突っ立ってないで、本丸入りする前の手続きしに行くよー。今日から暫くは忙しくなるんだから、休んでる暇無いぜ?」
「そうだった……っ。えっと、まずは私達の本丸付きになるこんのすけを呼び出せば良いんだっけ?」
「そうそう。養成所で呼び出し用の鈴、貰ったでしょ? 口寄せ術覚えるまでは其れで呼び出すんだってさ。早く呼び出して、ちゃちゃっと手続き済ましちゃお?」
「おぅ……っ。な、何か緊張するな……っ」
「だぁーいじょぶだって。俺と鯰尾が付いてるからさ。ほら、鈴鳴らしてこんのすけ呼んでみよう? 後の細かい流れは、こんのすけに任せて、俺達は其れに従って手続き進めて行けば良いだけっ。簡単でしょ?」
「じゃあ、呼ぶぞ?」
 審神者養成学校を卒業して間もない新米審神者は、緊張した面持ちで赤い紐で結ばれた金の鈴をチリンチリンと鳴らした。すると、召喚に応じた管狐が、ぽふりっ、煙と軽い音と共に姿を現した。宙で華麗に一回転を決めた管狐は、そのまま綺麗に地面へと着地し、おのがこれから担当すべき審神者と視線を合わすべく顔を上げる。
「どうも、お初にお目に掛かります。時の政府より遣わされました、管狐のこんのすけと申しまする。本日付けにて、主様の本丸付きとなり、主様が快適な本丸生活を送れるようサポート役を務めます。どうぞ、お見知りおきを! まずは、この度、目出度めでたくも無事、審神者養成学校をご卒業なさった事、お慶び申し上げまする! では、早速本丸入りするに当たって、所属国サーバーの選択をお願い致します。尚、此方は一度選択されると変更不可となります為、予めご理解した上で選択くださいますようお願い申し上げまする」
「だってさ。主は何処希望とかあるんだっけ?」
「うん。私、京都が好きだから、山城国が良いな。まだ空きはある?」
「山城国ですね! 畏まりました! 空き状況につきましては問題無しですから、このままお手続きに移らせて頂きますね。お次は、城名及び本丸名をお決めくださいませ。此方は、後々専用変更届けアイテムをご購入致しますと、変更可能となります故、お好きな名前でどうぞ!」
「えっ、俺達これからお城に住む事になんの!? ただの武家屋敷的な平屋形式のヤツかと勝手に思ってた……」
「其方は、旧式の初期型モデルの本丸になりますね。昨今初期型モデルとされているのは、防衛面の観点からも視野に入れて、本格的な本丸仕様という事で、城型モデルが初期テンプレートとなっております。この点につきましても、養成学校時代にカリキュラムの一環として一通り説明があったと思われるのですが……もしかして、覚えておいででない感じです?」
「あ゙ー……たぶん、ソレ、入学してすぐの頃に習った分野だわ。最早うろ覚えレベル……」
「ていうかさぁ……ぶっちゃけ、座学はただただ眠かった記憶なんだけど〜?」
「誰もが一度は通る必須科目ですから、当然の話ですよぅ! 一先ず、その話は一旦他所に置いておきまして……っ。城名及び本丸名の程は、お決まりになりましたでしょうか?」
 改めて希望名を問うてくるこんのすけへ対し、新米審神者は、寸分程云々と唸りつつ頭を捻らせ、良さげな案を思い浮かべた。
「んー、後で変更可能という事も踏まえて、此処はお軽い気持ちで……“百合豚嬢のアクアリウム城”なんてどう? 被り無しならイケるか?」
「少々お待ちを。只今、被りが無いか照会中です故……。あっ、照会結果出ました! 今のところ、主様の仰った城名に該当するものは無しとの事で、登録可能です! このまま登録なさいますか?」
「じゃあ、今入力した通りでお願い」
「畏まりました。今、データベースに登録中ですので、暫しお待ちを……。ハイッ、お待たせ致しました! 城名及び本丸名の登録完了で御座います! 続きましては、審神者名の登録をお願い致します!」
「審神者名は、見習い候補生時代と変更無しで……李鞠……っと」
「審神者名につきましても、先程同様、専用変更届けアイテムをご購入の上での変更可能な仕様となっております。えー、続きまして、最後のお手続きと致しまして……主様の生体情報として、生年月日及び性別、現在の年齢、加えて、真名等の登録へと移りますので、初期刀である加州様は一旦刀の姿にお戻り頂きますようお願い申し上げます。本丸に到着次第、鍛刀部屋にて改めて顕現の儀を執り行いますので、其処で最終的な初期刀登録が完了する流れとなります。念の為補足しておきますと、此れは規則ですから、少々煩わしいかもしれませんが従って頂かねばなりません。予めご了承くださいませ」
 正式に本丸入りする為の必要最低限且つ飛ばす事の出来ない手続きに、真面目な口調で淡々と述べたこんのすけへ、加州は内心不服としながらも、仕方のない事と理解しているのか、両肩を竦めて言葉を返す。
「お決まり文句って事なら従う他無いんじゃない? 其れが規則だってんならさ。じゃっ、俺は一旦刀に戻るけど……主に万が一何かあったらタダじゃおかないかんな! そん時は、丸刈りの刑に処した後、狐鍋にしてやるんだから! よぉーっく肝に銘じてろ!?」
「ひぃッ!! ど、どうか、お命だけはご勘弁を……ッ!!」
「こら、加州君。弱い者イジメは駄目だろ?」
「冗談だって。でも、半分は本気だから。初期刀として当然の警戒じゃん? まぁ、政府施設でそう安々と結界破られるような事件・事案起こられちゃ堪ったモンじゃないけど。取り敢えず、規則に則って手続き完了するまで、俺、一旦刀の姿に戻るけど、意識は起きたままで居るからさ。何かあったら即呼んでよね? 呼ばれたらすぐ顕現して戦闘態勢に移れるよう待機しておくから。俺との約束!」
「分かった。何かあったら、その時は加州君に任せるから、そうならない事を祈って待機してな」
「はーい。じゃっ、また後でって事で」
 そう言って、加州は一旦顕現を解き、新米審神者の腰元へ仮に佩刀された。
 気を取り直して、新米審神者は入力必須項目を埋めるべく、端末と向き合う。入力完了後、確認作業が終われば、後は本格的に本丸入りする流れを待つだけとなる。
 入力項目が全て埋められているのを確認し、間違いがない事も確認した上で登録作業を完了させる運びとなると、こんのすけは投影させていた情報データのホログラムを解除し、にこやかな笑みを浮かべて宣言する。
「只今を持ちまして、主様の正式な本丸入りに必要な登録手続きの完了と相成りまする。お疲れ様でした。それでは、このまま本丸へと移動致しますので、転送ゲートまでご案内致します。私の後に遅れず付いて来てくださいまし……!」
 それまでお澄ましポーズでお座りを決め込んでいたこんのすけが、不意にぴょこんっ、と跳ねて数歩先を進んで此方を振り返り仰ぎ見る。その後に続く形で歩を進めれば、今まであまり使う事の無かった転送装置前へとやって来る。
「此れより先は、此方の転送装置にて本丸まで移動致します。最初の内は、転送される感覚に慣れずに気分を悪くされる場合も御座いますが、いずれ嫌でも慣れますので、多少の違和感や不快感など有りましても我慢くださいませ。もし、具合を悪くされた場合に限り、簡易的応急処置を行います故、その時は遠慮せず仰ってくださいね? では、参りましょうか」
 この転送装置で本丸の在る座標地点を示す本丸コードと審神者登録時に配布されたID番号を入力すれば、自然と目的地まで転送される仕組みだ。例の転送エラーバグ等の予想外の非常事態トラブルが起きさえしなければ、だが。基本的には、転送エラーは滅多に起こらないものと仮定されているので、そう何度も被害に遭うなんて事にはならない……筈。
 頭では理解しているものの、慣れない事に加えて、まだ審神者養成学校へ入学したてのヒヨッコ時代に、一度転送エラーからの怪異:【迷い家マヨヒガ本丸】へ飛ばされた事がある為、転送装置を利用する事自体に若干の苦手意識とトラウマを覚えているのである。しかし、正式な審神者となった以上、基本、移動手段は、この転送装置となるからには避けては通れない故、腹を括らねばなるまい。新米審神者は、一度深呼吸を挟んで心を落ち着けたのちに、改めての気合いを入れる為、両頬をパシンッと力強く張った。此れで、一先ずの気合いは十分だ。
「よし……っ。じゃあ、私達の門出を祝って、行くとしますかね……!」
「その心意気で御座いまする!」
 こんのすけの愛らしい笑顔と共に鼓舞され、意を決して転送装置へ審神者証を翳し、登録された本丸コードと審神者ID番号が照会されたのち、転送に必要な入力コードが完了と見なされ、転送が始まる。
 いよいよである。本丸へ無事辿り着けば、己は一審神者として本丸の運営を開始する運びとなる。本丸に到着次第、己の中に眠る霊力を意識的に本丸空間内へ循環させるよう行き渡らせ、浸透させる。そうしたら、満を持して、顕現の儀を執り行う手筈となっているのだ。初期刀である加州を顕現し直して霊力を定着させたのち、目出度めでたく彼の顕現の儀を執り行える。この日をどれだけ待ち侘びた事か。審神者は、手の内に握り込んだ一振りの刀を大事に大事に胸へと抱え込んで、期待に胸を膨らませた。
 嗚呼、またとなく彼と直接この目を合わせながら、言葉を交わす時が来ると思うと待ち遠しい……っ。早く、早く、会いたい。早く、その声を聴きたい。彼に直接触れて、言葉を交わしたい。何もかもが待ち遠しくてならない。逸る気持ちを抑えられぬまま、転送装置の転送が始まった。一時的に意識は電子の粒子と解け、転送先である本丸に辿り着くなり、再構築される。
「主様、着きましたよ! さぁ、此方が、本日より主様の本丸となります……! どうぞ、後程隅々までご覧になられてくださいましね! さぁさぁ、お待ちかねの顕現の儀に取り掛かりますよ……っ! 鍛刀部屋は彼方です!」
 トテトテと小さな四つ足で先を行くこんのすけの後へ続けば、神聖な空気に満ちた鍛刀部屋へとやって来る。此処で、鍛刀作業と刀剣男士の顕現の儀を執り行うのだ。審神者と刀剣男士、双方共に切っては切り離せない場所である。これから、此処で幾振りもの刀達との縁が結ばれ、物語を築いていくのだ。己は本当に審神者となったのだと、如実に実感させられる場所であった。
「さぁ、主様、此方の刀掛けに加州様の本体をお掛けになって、加州様の意識へ呼び掛けるように励起させてくださいまし……! 無事、顕現が済みましたら、当該本丸の始まりの一振りとして加州様の正式な登録が完了致します!」
「えっと……励起って、要は相手の意識を呼び起こせば良かったんだよな?」
「はい。主様の霊力が満ちた本丸にて再顕現を行う事で、主様の霊力が本体を通して馴染み、依代よりしろとなる人の身の器も安定した形で定着しての顕現維持が可能になるかと。加州様の励起が完了致しましたら、些か駆け足気味とはなりますが、鯰尾藤四郎様の顕現の儀に移らせて頂く予定です。本来、初日励起は、初期刀及び初鍛刀の二振りが審神者初心者的には妥当の本数なんですが……霊力の量・質共に高純度で体力有り余る方や、主様のように特殊事情がありますと特例として適応致しますので、もう一振りのみ励起を行って頂く運びとなります。まぁ、定期検診によるデータから霊力量を鑑みても心配は無用と見受けられますので、纏めて三振りを励起させても問題は無いでしょう。さぁ、主様……! 励起をお願い致します!」
 手に汗握る瞬間である。新米審神者は、意識を手元へと集中させ、手を翳す刀へと霊力を集めるようにイメージして言霊で以て呼びかける。
「汝、我が求めに応じて顕現せよ――加州清光……!」
 途端、目の前を目映い程の光が弾けて、視界を桜吹雪が覆った。その眩しさに目がくらんで、一瞬ばかし目を瞑ると、次に目を開いた時には視界は晴れ、黒と赤色が印象的な付喪神が一振り舞い降りる。
「――あー。川の下の子です。加州清光。扱いづらいけど、性能は良い感じってね。改めて宜しくね、あーるじっ!」
「うんっ。此方こそ、これから末永く宜しく頼むな。頼りにしてるよ、初期刀様?」
「へへっ、可愛くしているから、大事にしてね」
「勿論、私の大事な初期刀だからな。大事にするとも。其れは約束する」
「期待してるよーっ」
 初期刀の改めての顕現の儀が完了したら、お次は待ちに待ったお相手の顕現の儀ターンである。加州顕現の儀の為に、一時こんのすけへと預けていた鯰尾の本体を受け取るなり、先と同様に刀掛けへと掛けて霊力を注ぎ込む前に、思いの丈を囁き聞かせるように呟く。
「長らく待たせたな……鯰尾君。……やっと、やっと、この日が来たんだよ……っ。こんなに嬉しい事って無いよな?」
 すると、手にした刀が彼女の言葉に呼応するようにカタリッ、とその身を震わせた。抱く想いは、同じなのだ。新米審神者は、長らく鞘に貼り付けられていた封印の御札を取り去ってしまい、己の霊力を込めて口にする。
「汝、我が求めに応じて顕現せよ――鯰尾藤四郎……っ!!」
 刹那、先程の加州の時以上に溢れた桜吹雪に視界を奪われたかと思えば、翳していた両の手をあたたかな温もりが包み込む感触を覚えて、ハッと目を見開いた。その瞬間、桜吹雪の隙間からぱっちりとした目と目が合う。そして、彼が満を持した口振りで口上を宣言した。
「――俺の名前は鯰尾藤四郎。燃えて記憶が一部無いけど、過去なんか振り返ってやりませんよ! ってな訳で、今日から改めて宜しくお願いしますね! 主さん……っ!」
「ッ…………!」
 待ちに待ったこの日を遂に迎える事が叶った事に、つい感極まってしまった新米審神者は、目に涙を溜め込んだかと思えば、次の瞬間には、熱烈にも彼の事を強く抱き締めていた。
「やっと……っ、やっと会えたな、鯰尾君……!! この日が来る瞬間を何度待ち侘びた事か……っ! ずっとずぅーっと会いたかったよ、鯰尾君〜!!」
「わあっ!? ちょっ……いきなり抱き着くとか、あまりに大胆過ぎません!? 俺個刃は嬉しいですけど、加州さんから絶賛羨ましげに滅茶苦茶怖い目で睨まれてるんで、程々なところで一度離して頂けると助かるんですが〜……っ」
「あっ、御免な! つい、勢い余ってハグしちゃったや……っ。頼むから大目に見てくれ!!」
「ちょっとちょっとぉ〜っ! 初期刀の俺を差し置いて先に主から抱擁されるとか何様のつもり〜!? 主の始まりの刀は、飽く迄もこの俺、加州清光なんだからね! 其処んトコ、履き違えないように……!!」
「ひぇ〜っ! 後生ですから、仲良くしましょうよ……っ! お互い同じ本丸の仲間なんですから! 改めまして、これから宜しくお願いしまっす……!」
「此れは此れは、賑やかな本丸になりそうですねぇ……!」
 こんのすけの漏らした言葉通り、まだまだ刀数の少ない本丸ながら、賑やかさに溢れた本丸となりそうな予感であった。
「さぁさぁ、御二方の励起が完了致しましたら、チュートリアルこと初鍛刀の鍛刀の儀に移らせて頂きますよっ! 本来でしたら、チュートリアルを行う前に、一度、初期刀の初陣というターンが挟まるのですが、当該本丸には特殊事情が御座いますので、其れを踏まえた上での段取りを取らせて頂きました。……話は戻しまして、今回は初めての鍛刀ですから、必要資源は此方でご用意させて頂きました。指定資源数はALL50です。この資源量と鍛刀時間ですと、短刀が打ち上がります。通常ですと、鍛刀完了まで20分掛かりますが、今回は特別に手伝い札をご用意致しましたので、今すぐ鍛刀を完了させてしまいましょう! さぁさぁ、主様、励起なさってみてくださいまし……っ!」
 二振りの顕現の儀が無事終わると、早速という早さで事は進められ、あっという間に一振りの短刀が打ち上がった。鍛刀の際にお手伝いしてくれる小さな精霊が、自信に満ちた顔付きを向け、早く励起して欲しい様子でこんのすけと共に急かしてくる。其れにせっつかれるように、初めて目にする小さな刀身へ霊力を込め、内に宿りし付喪神へ目を覚ますよう促した。
「汝、我が求めに応じて顕現せよ――!」
 本日三度目の励起と呼びかけの言の葉に、少なからず霊力を吸い取られる感覚を覚えた新米審神者は、僅かに顔を顰めて無事に顕現する事を祈った。
 次の瞬間、その祈りを聞き届けたかの如く注がれた霊力は花開き、桜吹雪を舞わせた。其れが落ち着く頃には、小さな一振りの付喪神が呼び声に応え、眷属のお供達と共に舞い降りる。
「――僕は、五虎退です。あの……退けてないです。すみません。だって、虎が可哀想なんで」
「ややっ、五虎退様が初鍛刀とは、鯰尾様と同じ粟田口派の刀が増えましたな! 此れは良い風向きですぞ……! この調子で、少しずつ戦力増強しつつ、本丸の戦力を増やしていきましょう! さぁ、始まりの刀と初鍛刀とが揃った事ですし、各々の初陣と参りましょうか! その後は、戦力増強用に初めての刀装作りと参りますよ! 本日は遣らねばならない事が山積みですからね! どんどん行きますよーっ!」
「えぇ……っ。こんのすけさぁー、ちょっとスパルタ過ぎない?」
「何を仰いますか……っ! 戦況は刻一刻と変わりゆくものなのですよ! 悠長に構えている暇はありません! このこんのすけめも、心を鬼にしてビシバシ鍛えて参りますから、お覚悟くださいまし……!」
「ふ、ふえぇ〜……っ」
「あーあ、初っ端からぶっ飛ばす宣言するから五虎退泣いちゃったじゃん……っ。どうしてくれるんです?」
「ちょっと、こんのすけ、一旦ストップ。刀剣男士達の心のケアが追い付いてないから、一旦待って。つか、普通に私の脳内処理も追い付いてないから、一度しっかり休憩挟んでからにしよう? 流石に、いきなりノンストップで全部こなすのは無理があるって……」
「ほら、主もこう言ってるんだから、一旦休憩入れよ? 主がダウンしちゃったら、其れこそ元も子もないって話でしょ?」
「此れは申し訳御座いません……! 気持ちが逸るあまりに、配慮に欠けてしまいまして……っ、。不肖こんのすけ、未熟なばかりに至らず、面目ない限りに御座いまする……!」
「なぁ〜んか前途多難な予感がするけど、俺達が居るからには、まっ、何とかなりますって!」
「鯰尾君の前向き精神癒やし成分で助かるわ〜……っ。自己紹介遅れちゃったけど、私がこの本丸の審神者だから、これから末永く宜しくな、五虎退」
「は、はい……っ! 虎君達共々、よ、宜しくお願い致しますね……!」
 こうして、山城国より新たな本丸が誕生したのである。
 始まりの刀である加州清光を筆頭に、【迷い家マヨヒガ本丸】より譲渡された鯰尾藤四郎、そして、初鍛刀として顕現した五虎退の三振りで、この本丸は始動していく。
 三振りは、その後、順当に初陣を済ませたのち、刀装を作ったりなど出陣に必要な作業をこなし。また、出陣先で初泥刀として乱藤四郎を獲得し。新たに鍛刀で追加の戦力を増やして、初太刀として燭台切光忠を、初大太刀として次郎太刀を顕現させた。結果、初日で初期第一部隊となる一部隊分の本数を顕現成功させるのだった。
 さてはて、本丸の行く末は何処へと向かっていくのか。本丸の物語は、まだ始まったばかりである。


執筆日:2025.04.07
加筆修正日:2025.04.26
公開日:2025.04.26

【後書き】
支部小説3月投稿企画『Spring memories 2025』に参加及び投稿した作品となります。
テーマは『学校、春の思い出』。
参加タグは『springmemories2025』です。
春の季節に合わせたお話という事もあり、期間限定企画の桜エフェクトにも併せて参加し、専用企画タグ『pixivSakuraEffect』も追加しております。
友人モデルの他所本丸の女審神者(見習い)さんと、その手持ちの鯰尾藤四郎や初期刀+αシリーズのお話の一つとなります。
時系列としては、見習い研修生だった先輩審神者ちゃんが、審神者養成学校を卒業し、目出度く正式な審神者と初期刀として本丸始動するお話です。
所属サーバー国と審神者名に初期刀及び恋刀については、友人本人の希望した設定となっておりますが、この設定の擦り合わせを行った当時には無かった城名(本丸名)と、当時は省いた細かい部分(初鍛刀や其れに準ずる初期第一部隊として揃う刀達の設定)は、作者個人の独断と偏見で以て決めた設定となります。
もし、友人本人が読了後「うーん、何か思ってたんと違う、欲を言うとそうじゃないんだよなぁ〜」となりましたら、手直し作業を入れる所存です故、お気軽にご意見及びご感想をお寄せくださいませ……っ。出来る限り希望に添えるよう加筆修正致しますので、遠慮無く仰ってくださいまし。
とりま、折角の支部開催の春企画且つ今年からは小説にも対応となった桜エフェクトにも合ったお話を書きたくて、卒業ネタを併せて執筆致しました。
ただ俺氏が読みたいだけで書いたお話とはなりますが、お気に召して頂けましたら幸いなり。
本当、小説にも対応するようになった桜エフェクト、何気に待っておりました故、嬉しい限りですね……っ。
後書きを締め括るにあたりまして、素敵な企画を用意してくださったpixiv様には大変感謝致します。
この場をお借りして、改めて御礼申し上げたいと思います。
この度は、素晴らしき企画にて私の稚作な作品を並べてくださり、誠に有難うございました。