嘘から出た真



アーサーの事が好きだけど、いざ好きと言おうとすると出てこなくて。

口に出来ないから、態度で示そうとしても裏目に出ちゃって上手くいかない。

これは、そんな女の子が、エイプリルフールの力を借りて頑張って告白しようとするお話…。

―今日は四月一日、エイプリルフール。

エイプリルフールは、嘘を付く事が許される日。

だから、それを利用して、本当の気持ちを伝える為に。

彼にある“嘘”を付く事に決めた。

告白もエイプリルフールな冗談として受け取ってもらえるように…。

そういう事から、嘘の告白として、エミルはアーサーに想いを告げた。


『ねぇ、アーサー。ちょっと良い…?』
「はい、何ですか…?」


放課後の人も居なくなった教室に、二人きりな環境である。

夕日が綺麗に射して、窓からキラキラと彼を照らした。


『私ね…、アーサーの事、好きだよ…!』
「え……っ?」


夕日に照らされる彼も格好良いな…、なんて思いながら、口にした言葉。

予想通り、驚きに加えて焦り、慌てふためき始めるアーサー。

それを笑って、前もって考えていた台詞を付け足す。


『あはは…っ、冗談だよ!』


笑って本心を誤魔化しながら、そう、返す。

「今日が何の日か忘れたの?」と問いかけると、案の定…。


「え…?今日は、四月一日で……、あ…っ!エイプリルフール…ッ!?」
『正解…っ!ドッキリ嘘大成功〜!!』


すっかり忘れていたのか、「あちゃ〜っ!」と漏らす彼の横で、本心を隠しながらクスクスと笑うエミル。


そんな彼女の纏う雰囲気に、何処か違和感を感じた彼は、カマをかける事にした。

先程、彼女が告げた嘘の告白に返ってきた言葉は…。


「私も、貴女の事が好きですよ。」


一瞬、ドキリッ、と心臓が止まったかに思えた。

それくらい、彼女にとっては、衝撃を与える台詞だった。

しかし、彼女は素直にはなれない…。

だから、彼の意図には気付けずに、ざわついた気持ちを落ち着けた。


―あぁ…。

これもきっと、私に対抗しての冗談だ…。


「なんて恥ずかしい台詞なんだ、嘘でも真に受けてしまい兼ねないじゃないか。」と、心の中で愚痴っていると。


「今のは嘘ですし、冗談ですよ…?」


彼は、悪戯じみた笑顔を浮かべて、そう言った。


―ほら…っ、やっぱり嘘なんじゃないか。

エイプリルフールなんだから、一々騙されるなよ…。


嘘でも本当であって欲しいなぁ〜、なんて事を考えながら、「はぁ…。」と溜め息を吐く。


「私は、エミル殿の事、大好きですよ。」


一瞬、間を空けてから数秒後。


『………………は?』


遅れて言われた意味を理解した頭。

段々と赤みを帯びてくる顔が恥ずかしい…。


「今のを、嘘か冗談に受け取るかは、貴方次第です…!」


次いで、にっこりと微笑んだ彼から窺えるのは、おそらく本心だろう。

いつも以上に輝く爽やかな笑みが、眩しく感じる。

きっと、夕日に照らされてるせいだと思う。

身体を硬直させていた後、数分して優しく手を差し伸べてきた彼の手に、赤く色付いた自身の手を重ねたエミルが居た。


―素直になれない君も可愛いから…。

今はそれだけでいいや。

だけど、いつかはちゃんと…。

その口からホントの告白を聞かせてね?


執筆日:2016.09.18