可愛い生き物
それは、ある日の旅団の日常風景であった。
『ねぇー、団長?』
「今は仕事じゃないから、名前で呼べ。」
『クロロー。プリンあるけど、いる?』
「いる!」
『即答だな、おい…。』
旅団のメンバーであり、半分そうでないような奇妙な立場にいる彼女の仮住まいであるアパートの一室に居座る、我等が団長クロロ=ルシルフル。
今は、OFFモードなのか、仕事時は後ろに撫で付けている髪を下ろして額を隠している。
おかげで、童顔極まり、イケメン好青年の出来上がりである。
余談はそこまでにして、彼は、本の虫と言えるくらい本が大好きだ。
なので、異世界住みだった彼女の所持する蔵書に興味があって、度々お邪魔しているのであった。
今日もそのうちの一日で、彼女が旅団の皆より些か優しく接してくれる事も含めて滞在中なのだ。
『ハイ、プリン。安売りのヤツだけど、味で文句言わないでね。』
「言うもんか!安売りの物だからって、見くびってもらっちゃ困るっ。例え安かったとしても、美味しい事には変わり無いんだからな!!」
『ハイハイ。力説しなくても分かってるって。クロロが来るって分かってたから、わざわざ買いに行ったんだから…。』
「お前って奴は…っ!良い友を持って良かったよ…!!」
『うん。嬉しいのは分かったから、食べるならさっさと食べて。ハイ、スプーン。』
見掛けによらず甘い物が好きなクロロは、プリンが大大大好きである。
彼が家を訪れる際は、決まってプリンを用意して待っている。
そうしておけば、万が一、仕事絡みでイライラした状態で来られても、八つ当たりされる前に対処出来るのだ。
まぁ、それでも足りない場合は、彼が望む通りに、抱き枕の代わりになってやったりもするのだが…。
『プリン、美味しい…?』
「うんっ!美味い…っ!!幸せぇ〜…♪」
『そりゃ良かったよ。なんだったら、もう一個食べても良いよ?それか、お持ち帰りでも、お好きにどうぞ。』
「本当に良いのか…!?」
『うん。どうせ、三個入りだったし。一つは私が食べたいから、余りの残り一つ、クロロにあげるよ。』
「ありがとぉ〜…っ!!」
何かを拝まんとする姿勢で、彼女へ合掌するクロロ。
感激のあまり、涙ぐんでいる。
「…此処に来る度に思うけど、リアは本当に優しいな…。盗賊以外にも、色々とやらかしてる俺みたいな奴に、こんだけ優しくしてくれるんだもの。」
『それは、クロロが本当は良い奴だって知ってるからじゃん…。』
「それだけで、ここまで出来ないよ…。リアが、根っからの優しい人間だから出来るのさ。」
『買い被り過ぎでしょ…?』
「そんな事無いよ。あ、有り難く二個目、頂戴するね。」
『うん、良いよ。その為にあげたんだし…。ってか、クロロは、本当プリン大好きだよね〜。私も、偶に食べたくなって買ったりするけど…毎日は流石に食べないわ。』
「プリンのこの絶妙なとろみと甘さが堪らないんだよ…!」
『お前は女子か。』
なんて遣り取りをしつつ、束の間の癒しを満喫する。
『…クロロって、プリン食べてる時はいつも幸せそうだね。』
「うん。そりゃあ、至福の時だし。顔の筋肉緩むよね。」
『緩みまくってますけど…。可愛いレベルに緩んでますよ。』
「え…っ。マジで…?うわー。他のメンバーには見せらんないわ…。そんなに緩んだ顔してる?」
『してるしてる。めっちゃ緩んどる。可愛いなぁ〜…。』
「…男に可愛いとか言う?普通…。」
『可愛いもんは可愛いんだから、しょうがないじゃん。あ、話変わるんだけどさ。この間、偶々安くなってて買ったチョコレートプリン、めっさ美味しかったよ〜。』
「何だと…っ!!それ、どんなヤツだ!?何処で売ってた…!?いくらだった…っっっ!?」
『落ち着けっ!!ちゃんと教えるわ!!』
プリンの話題になった途端、急にテンションが変わり、目を輝かせるクロロ。
その眼差しは、まるで、何かを期待する子供そのもののようだ。
溜め息を付きつつも、近場のスーパーにて広告の品で安くなっていたところをお買い求めした事を話す。
すると、いつもはキリリッと格好良い彼だが、今は影も無くなって、単なるプリン好きの好青年と化していた。
「ちなみに、味の感想は…!?」
『普通に食べてる安いプリンよりも美味しくて…。口に入れた瞬間、チョコレートの風味がブワッて広がる感じだった。普通、チョコプリンって名前で売ってるヤツは、大抵チョコの味が薄くて、ココアの味が濃いんだけど…。そのプリンは、チョコレートの味がしっかりしてたの。思わず、ペロリと平らげちゃいました。』
「うわ、マジで美味そう…っ!」
『ちなみに、そのプリン四個入りだったよ。』
「四個も…っ!!よし、今度一緒に買いに行くぞ!約束だぞっ!!指切りげんまんだからな!!」
『齢26歳にもなって指切りげんまんって…。可愛過ぎか。つか、私は最早お前とセット決定かい…っ!!』
ひたすらプリンを連呼し花を飛ばす26歳男児に、リアは可愛さを禁じ得なかった。
執筆日:2016.08.10