年頃乙女
偶々近くのコンビニに寄っただけのリア。
今日は、一日ゆるゆるモードだった為に、年頃の乙女には必要不可欠な下着…つまりはブラジャーなる物を着用していなかった。
しかし、唐突にアイスを食べたくなったリアは、コンビニへ出掛ける事にする。
だが、そこである物を忘れていた事に気付く。
そう、自分は今、ノーブラだったのだ。
その事に気付いたが、自分が居るのは、既にコンビニの前。
まぁ、すぐにホテルに戻るし、そうそう知り合いになんて逢わないだろ。
と、安直な考えで、いざ入店。
目指すはアイスコーナー。
目的のアイスを手にすると、ついでの用だと、ミネラルウォーターや軽いお菓子も買っておく事にしたリア。
欲しい物をカゴに入れ、「さて、会計するか。」と入口の方向へ足を向けた時だった。
新たな客の入店を知らすチャイムに、その客が此方を見た。
「あっ。リア…っ!」
『あ゙…っ。』
まさに、今逢いたくない知り合いの内の一人。
ハンター仲間であり、友人のゴンである。
今の現状…かなりゆるいラフな服装、ちょっと近場から出てきました感満載。
そして、ノーブラ。
幾ら胸のサイズが大した事のないものと言えども、ここは、やはり年頃の娘。
それなりの恥じらいは持つ。
おまけに加えて、彼は、歳近な男の子。
謂わば、異性である。
意識せずとも、やばいという事は分かるし、Tシャツの下は薄いキャミソールだけで、肝心な隠さねばならぬ場所には何も付けておらず、スースーである。
さぁ、困った。
何事も無いように装えば、何とかこの場を切り抜けられるか…?
そうだ、この子は天然だ…!
大丈夫、鈍いこの子はきっと気付かないさ!
しかし、聡いしなぁ…たまに鋭い感性も持ってるから、もしかしたら気付かれるかも…!?
それだけは避けなくては…っ!!
だって、年頃の娘なのに、外出る時でもノーブラなんだとか、思われたくないもん…!!
出逢って早々、悶々と考えていると、自分の世界へ入りきっており、周りの事に気付けていなかったリア。
ゴンが先程から話しかけている事にも気付いていない。
「……、リア…、リア……っ!」
『―ハ…ッ!な、何…?』
「何?、はこっちの台詞だよ。黙り込んじゃってどうしたの…?もしかして、どっか具合でも悪いの…!?」
『あ…いや、そんなんじゃないよ…っ。ちょっと、考え事してただけ…。だからそんなに心配しなくて良いよ。…ってか、近い……っ。』
下から顔色を覗き込んできたゴンは、至近距離で見つめてきていた。
すかさず、そっと優しく手で制し、離れてくれとの意を示す。
「あ、ごめん。」と言ったゴンは、素直に身を引く。
ホッと息を吐いたのも、束の間…。
突然、背後にぶつかってきたデカイ兄ちゃんの衝撃で、リアは前傾に倒れた。
『ふわ…っ!?』
「危ない…っ!!」
咄嗟に前へ踏み出た彼は、倒れ込みかけた彼女を正面で受け止める。
当然の事ながら、必然的に身体は密着する。
不慮の事故とはいえ、互いの温度が密着した事に、全神経が緊張してしまったリアは、無意識に肩をビクつかせた。
「おぉ、悪いな嬢ちゃん…っ。大丈夫か…?」
「うん、大丈夫!俺が咄嗟に受け止めたから、どこにもぶつけたりしてないよっ。けど、お兄さんも周りには気を付けてね?」
「あぁ。すまねぇな、ボウズ。じゃあな。」
その場は、取り敢えずゴンが務め、ぶつかってきた側のデカイ兄ちゃんも優しい人だったらしく、丸く収まったようだ。
「良かったね。ぶつかってきたお兄さん、悪い人じゃなくて!……リア?どうしたの…?どっか打っちゃった?」
その場が収まっても、ゴンに受け止められた体勢のまま、微動だにせず、黙り込んでいる。
そんな様子の彼女に首を傾げた彼は、肩口に僅かに見える彼女の顔を見た。
―う、腕…っ、当たっちゃったぁー…ッッッ!!
倒れ込んだ際に受け止められたは良いが、咄嗟の事だった為に、中途半端な体勢で密着した身体は若干斜めにぶち当たり、ノーガードな胸元はゴンの二の腕に当たってしまったのである。
おかげで、現在進行形で内心パニックを起こしていたのである。
「…ねぇ、リア…大丈夫…?」
『うぇ…っ!?あ、ああ…っ!だっ、大丈夫…!!』
「本当に…?何か、逢った時からぼんやりしてるけど…。」
『大丈夫大丈夫っ!大した事ないって!ちょっと寝不足気味で眠いだけだから!!ほら、もう夜だし…?抱き付いちゃったまま固まっててごめんね!吃驚したから、思わずフリーズしちゃってただけだから…。』
「それなら良いんだけど…。」
些か納得いかないような、不満げな表情をされたが、本当の理由を教える訳にはいかないので、適当に笑って誤魔化しておく。
取り敢えず、彼も買い物をしに来たのだろうからと会計へ行き、先にそそくさと退散しようとしていると…。
「あ…っ。リア、俺が会計終わるまで待っててくれる?すぐに終わるから!」
今マジで夜の外界へ出る五秒前で、後ろ手にそう呼びかけられた。
彼女が会計に並んでいる間に商品を選び終えたのか…行動の早い彼は、もうレジの元に来ていた。
呼び止められてしまったからには、待つしかないリアは、今すぐにでも帰りたい気持ちでやきもきしながら、コンビニの入口脇で待つ。
数分も経たぬ内に会計を終わらせた彼は、駆け足気味に店を出てくると、嬉々とした表情で彼女の方を見た。
「お待たせ!待っててくれてありがとうっ。」
『いや…待っててって言われたし…。』
「えへへ…っ。せっかく逢えたから、リアが泊まってるホテルまで一緒に帰りたかったんだ!もう夜も遅いし、女の子一人で帰らせるのは危険でしょ…?だから、俺と一緒に帰ろうよ!」
『あ、ありがとう…っ。』
「それに…、何だか今日のリア、放っとけないから。俺が側に居てやらなきゃ、不安だよ。」
『な、何か心配かけて、ごめん…っ。』
「ううん、良いよ!俺が好きで一緒に居たいだけだから…!!」
なんて、無邪気に言い放つゴンだが、色々と誤解しそうだから、そういう言い方はやめて欲しい…。
と言っても…無自覚だから、言ったって分かんないだろうけど。
密かなところで溜め息を吐いた彼女は、並んで歩く彼の方をそれとなく見やる。
異性として意識していないという訳ではないが、先程が先程なので、出来ればもっと離れて歩きたい気分なのだが…。
そんな事をすれば、彼が不審がるので、平然を装って隣を歩くしかない。
どうすればいいんだ、この状況…?
デジャヴ…?
明後日の方を見つめて、乾いた笑みを浮かべる。
そんなリアをちらり、と見たゴンは、ふと思った事を口にした。
「ねぇ、リア…。もしかして、さっきの事、気にしてる…?」
『え…?』
「さっき、俺に倒れ込んじゃった時の事…。」
『え…や、別に、そんな訳じゃないけど…。』
「嘘。だって、最初に顔を合わせた時より、さっきの事があってからの方が何か態度がよそよそしいもんっ。」
なかなかに鋭い子だ…。
だが、しかし、ここで言う訳にいかない彼女はダンマリして、言葉を噤む。
「アレは不慮の事故だったんだから、気にしなくて良いのに…。」
『うん、まぁ、その…乙女的思考としたら…ちょっと、ねー…。』
「ふーん…。」
あまりにもぎこちない彼女に痺れを切らしたのか。
上を見上げたゴンは、いつの間に繋いだのか、彼女の手を握り、ポツリと漏らした。
「俺…、別にリアがノーブラだったとしても、気にしないけどなぁ……。」
『え゙…っ。』
まさかの発言に再び思考を停止せざるを得なくなったリアは、足を止めた。
それに連れて、ゴンも同じように足を止める。
『………ひょっとして…気付いてた?』
「うん…。受け止めた時、腕に当たった感触が妙に柔らかかったから…もしかすると、そうなのかなって。あ、もしかして、隠してた…?ごめん…っ。」
『……うん…良いよ…。うん…別に、良いです…っ。』
恥ずかしさでゴンの方を見れなくなった彼女は顔を覆い、「ゔわぁ゙〜……っ。」と声にならぬ声で唸った。
やべ…恥ずかし過ぎて泣ける…っ。
よろよろと歩き出した彼女の背を慌てて追いかけるゴン。
「俺、リアの事好きだから、別に嫌じゃないよ…っ!?」
『もう言わないでくれ…っ!恥ずかしさで死ねるから…!!』
「ええ…っ!?」
何でこの子は、変なところでイケメンなんだ。
こんなんじゃ、本当に惚れかねないじゃないか…!
一人、心の中で葛藤する、年頃な歳上女子である。
執筆日:2016.09.22