「どれがいいかなぁ」
「兄ちゃんこんなの好きそうじゃない?」

実に微笑ましい限りである。
三門市は平和である。
私自身、非番なのもあるけど今日は1回も警報鳴ってないし。

「君、俺たちと一緒に遊ばない?」

平和だということは、こんなナンパ野郎も出てくるってことだ。
私なんかを誘うほどコイツらは暇してるのか。
残念な人たちだなあ。

「いや、今それどころじゃないので」

誰がナンパ野郎の相手なんかするか。

「なに、友達でも待ってんの?その友達も一緒でいいからさぁ」

生憎、今日は1人だ。
出水は任務だし、米屋は補習だ。
困ったな。
それと、女友達いない私に対する当てつけか?
友達でも待ってんの?って。
そもそも友達いなかったらどーすんだよ、と言いたい。

「やめてください」
「いいじゃん。まさか待ってるの彼氏?そんな男より俺の方が絶対かっこいいって」

絶対に忍田さんのがかっこいいと断言できる。
そもそも、私の理想は忍田さんだ。

「お姉ちゃん待っててくれてありがとう!」
「姉ちゃんこの人たち誰?」

あ、目の前の雑貨屋でお兄さんらしい人のプレゼント選んでた子たちだ。

「お兄さん、私たちのお姉ちゃんに何か用?」
「……チッ。弟と妹いるのかよ。1人かと思ったのによ」

と、割と穏便に去っていったナンパ野郎。
もう顔も見たくないわ。

「お姉さん大丈夫?」
「ありがとう。すごく助かったよ」
「兄ちゃんが困ってる人は助けるのが当然だって言ってたから」
「とてもいいお兄さんだね」
「うん。俺らにとって最高の兄ちゃんだよ」

と男の子の方が言う。

「助けてくれたお礼になにかしたいんだけど、いいかな?」
「そんな、お礼なんて気にしないでください」
「助けてもらったのに薄情な人と思われたくないの。お礼をさせてくれないかな」
「じゃあ……あの、お兄ちゃんへのプレゼントを一緒に選んでもらってもいいですか?」
「佐補ナイスアイデア。そうしてもらおう!」
「えっと、じゃあそのお兄さんへのプレゼントを選ぼっか。その前に自己紹介がまだだったね。私は如月朔。君たちは?」
「私、佐補っていいます!」
「副です!」

佐補ちゃんと副くんは、お兄さんと年が少し離れているらしく、プレゼント選びが難航していたらしい。

「うーん……なにかお菓子とか作ってみる、とかどうかな」
「それいいですね!」
「でも何作る?」
「アップルパイとかどう?」
「いいですね!」
「でも、難しそうじゃない?」

と、佐補ちゃんが言う。

「冷凍のパイシート使えば簡単だよ」
「そうなんですか?」
「じゃあアップルパイに決定だね!」
「まず材料を買いに行きますか?」
「そうだね。冷凍のパイシートとりんごと、レモン汁が必要かな。卵とグラニュー糖は家にもあるだろうし」

佐補ちゃんたちは、生鮮食品売り場でそれらを購入したあと、ラッピング用の箱を買った。

「あの、私たちだけじゃ不安なので一緒に作ってもらってもいいですか?」
「え、お母さんとかに教えてもらった方が良くない?」
「今日はお母さん遅いんです」
「そういうことならいいよ。私も料理上手な訳じゃないから期待しないでね」

妹と弟がいっぺんにできたみたいだなぁと思い、少し嬉しくなった。
私、1人っ子だからなあ。
しかし、彼女らの家の表札を見て、私は驚愕することになる。

「あ、あのさ佐補ちゃんと副くんの名字って嵐山なの?」
「そうですよ?」

嵐山って。
三門市に嵐山って名字はそういないだろう。
それに、この名字はある意味、特別だ。

「……まさか佐補ちゃんと副くんのお兄さんって嵐山准さんだったりする?」
「そうですよ。お兄ちゃんテレビとかによく出てますよね」

佐補ちゃんと副くんが嵐山さんの妹と弟なんて思わないじゃん。
嵐山さんに妹と弟がいるとは迅さんから聞いたことあるけど。
でも、ここには佐補ちゃんと副くんの手伝いで来たんだ。
目的を忘れるな、私。

「まずはりんごを切ったものと砂糖とレモン汁をタッパーに入れてレンジで温める」
「え、火を使わないんですか?」
「火を使ったら失敗もするしね。レンジの方が安全だし失敗しないと思うよ」
「な、なるほど……!」
「副くん、切るときは猫の手だよ」
「猫……こうですか?」
「そうそう、上手いね」

副くんも佐補ちゃんも素直で可愛いな。
妹と弟がいたらこんな感じなのかな?

「うん、うまく出来てるよ」

レンジで温めたりんごを見て、次の用意をする。

「パイは予熱がいるから先に設定しちゃおう」

冷凍のパイシート袋の裏を見たら予熱の温度書いててるし大丈夫だな。

「よし、じゃあパイシートを伸ばそっか」

買ってから時間はある程度経ってるし、解凍はできてるよね。

「めん棒で均一に伸ばして、型にはめる」
「こうですか?」
「うん。いい感じ!」
「はみ出たところは切るんですか?」
「そうだね。型よりはみ出してるところは切るよ」
「もう1枚はどうするんですか?」
「細長く何本も切ってパイの上にのせるよ」
「こんな感じですか?」
「お、いいね!」

つたないけど、一生懸命作っているのは伝わってくる。

「で、この中にさっきのりんごを入れてその上から細長く切ったパイ生地をクロスさせて置いて、上に卵黄を塗る」
「後は焼くだけですね!」
「ちょうど予熱も終わったみたい」

後は15分ぐらい待つだけ!

「こんなに簡単にアップルパイって作れるんですね」
「2人ともが手際がよかったからだよ。私ほとんど何もしてないよ」
「そんなことないです。朔さんがいなかったら何をやればいいか分かりませんでした」
「お兄さんが喜んでくれるといいね」
「「はい!」」

15分の間にメッセージカードを書いたり使った調理器具を洗ったりして、時間が経つのを待った。

「あ、出来た!」
「火傷しないように気をつけてね」
「鍋つかみしてるし大丈夫です」

うん、焼き上がりもいい感じだ。

「美味しそう!」
「これなら絶対兄ちゃんも喜んでくれるよ」
「だよね!」
「ありがとう朔さん!」
「ありがとうございました!」
「2人の力になれて良かったよ」

嵐山さんへのプレゼント作戦は成功しそうだ。
迅さん風に言うなら「私のサイドエフェクトがそう言ってる」だな!

「また、うちに来てくれませんか?」
「今度はゆっくりしていってください!」
「いいの?」
「はい!朔さんは俺たちの友達ですから!」
「そうです!」
「なら、また呼んでね」
「はい!また、お菓子の作り方教えてください」

可愛い友達ができました。




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