昔から何かと恵まれた境遇にいたことは、分かっていた。
だからこそ、変な言いがかりをつけられないように努力もしてきたつもりだ。

「こんなのどうしようもないじゃんか」

怪物が街を襲う。
そんなの誰が予想できたって言うんだ。
周りにいた人間はみんな消えた。
隣に住んでいたえっちゃんも、学校の先生も皆いなくなった。
だから、何かを守れる強さが欲しかった。
そんなフワフワした理由でボーダーに入った。

「お前スゲーな!」
「俺たちとチーム組まないか?」

信頼できる仲間に恵まれて、才能にも恵まれた。
これでみんなを守れるんだと思った。

「あーちゃん……?」
「朔……早く逃げろ」
「郁弥……?」
「俺たちはいいから早く」

逃げて。

目の前の仲間はトリオン供給器官が破壊されたのに緊急脱出(ベイルアウト)しない。
C級のトリガーに緊急脱出(ベイルアウト)が付いていないのはボーダーの人間はみんな知ってる。
でも、なんでA級のトリガーで緊急脱出(ベイルアウト)出来ないんだ?

「あぁぁぁぁあっ!!」

目の前の近界民を倒しても、あーちゃんと郁弥が帰ってくるわけじゃないのに。

「なんで、なんで郁弥が……!!」
「はるちゃんごめん……」
「私のせいよ……ごめんね、ごめん……郁弥」

私たちの隊のオペレーターはその事件が自分のせいだと言い、精神を病んでしまった。
彼女が私たちの隊の部屋で首を吊っているのが見つかったのはその1週間後の話だった。
あーちゃんと郁弥がいなくなって、はるちゃんもいなくなった。

私の周りの人間はみんな不幸になるんだ。
みんな、私が不幸にしてる。
私と関わったから。

「朔のせいじゃない」
「私のせいだ」
「いいや。朔のせいじゃない」
「じゃあ!なんであーちゃんたちは死んだの!?私は誰を恨めばいいの!?」
「誰かを恨んだって彼らは帰ってこないだろう」

鈍器で頭を強く殴られた気がした。
頭では分かってるつもりだった。
聞き分けが良い振りをしていた。
でも、やっぱり彼らが死んだことに納得がいかなくて。
小さい子供のように駄々をこねた。
馬鹿だな、私。

「朔の力を貸してくれないか。もう二度とあんなことが起こらないためにも」

悲しいとき、苦しいとき、そばに居てくれたみんなはもう隣には居ない。

「朔にはこのままA級隊員でいてもらう」
「なんで?」

私の順応力が高い故の選択だと忍田さんは言う。
他の隊に入ってもすぐに順応する能力を評価されたらしい。

「いつまでもA級の地位に縋り付く女」
「仲間が死んだら、他の隊の人に乗り換えるなんて最低」

なんて何も知らない人に言われたりしたけど。
中学生だからって舐めていた奴らはみんな実力で黙らせた。

「お前すっげぇな!」
「は?」
「俺、出水公平!お前は?」
「如月朔」
「じゃあ朔な」
「……勝手にすれば?」
「俺、太刀川隊の射手(シューター)してるんだけど」
「太刀川さんのとこの?」
「隊服カッケーからな!」
「うーん……」
「まあ、そんなのはいいんだよ」
「まだ何か?」
「俺と友達になろうぜ!」

馬鹿だ、と思った。
こんなにみんなに嫌われてる奴と友達?
でも、この時に出水に出会えてなかったら、私は変われなかったと思う。

「ありがと、出水」
「なんだよ、急に……」
「出水は昔から私のヒーローだなって思って」
「で?」
「出水がストックしてたコロッケ勝手に揚げて食べた。ごめん」
「許さん」



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