…どうしてこうなったんだろう。



今日は一織くんのお誕生日。お付き合いしてから初めて迎える彼の大切な大切な日。久しぶりに会うしお誕生日だし目一杯甘やかすぞ!って意気込んでいたはずなんだけど…。

「れいさん。落ち着きましたか?」

私は今、何故か一織くんの腕の中で涙を流している。一織くんの顔を見たらいろいろ込み上げて来てしまってこの有り様。

「い、一織くん…泣いてしまって申し訳ありません…。」
「構いませんよ。沢山我慢させてしまっていたのでしょう?今日くらい私に甘えてください。」

微笑みながら私の背中を優しく撫でてくれる一織くん。…おかしい。こうなるはずじゃなかったのに。よし、

「だ、ダメです!一織くんのお誕生日なんだから、私が一織くんをた〜くさん甘やかすんです…!」
「あなたが私を甘やかしてくれるんですか?どうやって?」
「えっ…そ、それは…、頭を撫でたり…膝枕をしたり…?一織くんのしてほしいことなんでもします!」
「子どもですか…。」
「子どもじゃないです!!」

またなんだかんだ言いくるめられて、甘やかさせて貰えないかもしれない…。それだけは阻止しなければ!

「一織くん!」
「はい。なんですか?」
「いつも頑張っててすごく偉いですね。周りをよく見ていてみんなのために全力を尽している、そんな一織くんはとっても素敵ですよ。よーしよし。」
「急に何なんですか。というか頭を撫でないで!」

突然意味のわからないことを言いながら頭を撫で始めた私に戸惑う一織くん。

「…ダメでした?」
「ダメというか…。」

そう言い黙り込んでしまう。どうしようか考えていると一織くんが口を開く。

「私を甘やかしたいんでしたっけ。」
「はい!お誕生日なのでた〜くさん言うことも聞きますよ!」
「なら、甘やかされてください。」
「はっ?」
「甘やかされて。私の言う通りにして。私の言うことた〜くさん聞いてくれるんでしたよね?」
「えっ、いや、あの、」
「ほら、れい。まずは大人しく抱きしめられて。」

そう言いながら一織くんは私を抱きしめ直す。優しく、穏やかな手つきで私の頭を撫でながら。

「れい。こういう時にしか言わないのでちゃんと聞いてください。私はいつもあなたに感謝しているんですよ。」
「えっ…?」
「どんな時も明るく元気に私に接してくれるところ。少し意地悪をした時のちょっとだけ怒ったような表情。寂しさを隠そうとして隠しきれていない不器用さ。…私と会ったときの嬉しそうな顔。全部全部…たまらなく愛おしい。」
「待って一織くん」
「いつもあなたから元気と癒しをもらっているんですよ。…知らなかったでしょう?」
「ちょっと、頭が追いつかない、」
「1回しか言いませんよ。聞いてなかったは無しですからね。」

突然の一織くんのデレに戸惑う私。
そんな私を見て満足そうな一織くん。

「だ、だって、今までそんな素振り見せてくれたことないじゃないですか。」
「まあ、表に出してませんでしたし。」
「連絡とかも、迷惑なんじゃないかって。」
「迷惑なものですか。忙しくて連絡が遅れることはありますが、それでもれいさんからメッセージが来ているだけで私の疲れは吹き飛びます。」
「い、一織くん。」
「はい。なんですか。」
「私…ちゃんとお役に立ててるって思ってもいいんですか…?」
「思って。何度も言いますが私はあなたが思っている以上にあなたのことを好いていますから。」
「う、ぅ…。」
「また泣くんですか。全く、本当に泣き虫ですね。」

またも泣きだしてしまった私の涙を優しく拭ってくれる一織くん。その手の優しさに涙は止まらなくなってしまって。

「一織くんっ…、好き、好き…。っ、何度も泣いてごめんなさい…。本当は、笑顔で一織くんをお祝いしたいのに…。」
「それはいいって言ったでしょう?…それより、ちゃんとあなたの涙を私が拭えて良かった。…ねぇ、れい。寂しさで1人泣いていたりすることはありませんか?」
「っ…あ、ります…。会えないのが寂しくて…声を聞けないのがつらくて、…。」

ワガママのようなことをしゃくりあげながら話す私の言葉を、頷きながら聞いてくれる一織くん。ダメだなって思うのに、言葉は止まらなくて。そんな私に一織くんは。

「…寂しくなったら、私に連絡して。出られない時もあると思いますが、必ずお返事しますから。」
「でも、それじゃあ一織くんに迷惑が…。」
「だから迷惑じゃありませんって。…好きなのは、あなただけじゃないんですよ。」
「一織くん…。」
「…私だって、好きな人と連絡を取りたいと思ったっておかしくないでしょう。だから遠慮しないで。」
「…はい。ありがとうございます。」
「ふふ、やっと笑顔を見せてくれましたね。」

一織くんからの嬉しい言葉に思わず笑みがこぼれた私。それを見て嬉しそうな顔で微笑む一織くん。

「はは、みっともないところをお見せしてしまいましたね。」
「いいえ、れいさんの溜め込んでいた部分を聞き出せて私は嬉しかったですよ。」
「…彼氏の特権、ですね。」
「先に言わないでくれませんか。」

軽口を叩きながらお互い顔を見合わせて笑う。この時間が、とてつもなく幸せで。
…優しい彼が1つ大人になったこの日、私は彼のことを支えられるような人になろうと決意した。

「一織くん。世界で1番あなたを愛しています。…お誕生日、おめでとう。」
「ありがとう、れい。私も、あなたを愛していますよ。」



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後日、連絡をあまりし合わなかった私達が、一織くんのお誕生日を期に、何日かに一度ほんの少しだけ電話をして他愛のない話をするようになったのは、また別のお話。