「…浴衣、着替えました…けど…。」
「……。良かった。間に合いそうです。」
「…今の間なんですか…。」
「いえ、何でも。ほら、こっち来てください。」

言われたとおりに浴衣に着替えると、窓際に立った彼に隣に来るよう呼ばれる。

「一織くんも浴衣なんですか?」
「はい。れいさんが着替えているうちに私も着替えたんです。」
「…というか、ここで何を…、…っわ、」
「……始まりましたね。」

ドン、と外で音がしたと思ってそちらを向くと空に大きな花が咲いている。

「…花火…!」
「……私が浴衣を持ってきてほしい、と言ったのはこれのためなんです。」
「…すごい、室内なのに綺麗に見える…。」
「聞いてませんね?……まぁ、構いませんけど。」
「聞いてますよ。ここで花火を見るから浴衣を持って来てってことだったんですよね。」
「…まぁ、そういうことです。」

こうした打ち上げ花火を見るのはどのくらいぶりなのだろう。何だか特等席で花火を見ている気分になり、より一層楽しくなる。

「……楽しんで頂けてますか?」
「はい…!すっごく楽しいです…!」
「良かった。…前に、花火大会に行きたいと仰っていたでしょう?」
「…そうですね、久しぶりに行きたいなぁとは…。」
「…だから今日、現地には行けなくとも…ここでこうして2人で浴衣を着て花火を見たら、そういう気分を味わえるのではないかと思ったんです。」
「…あ、だから浴衣…?」
「……折角ですから。れいさんに少しでも楽しんで頂きたかったんです。」
「…嬉しい…ありがとうございます…。」

夏が始まったばかりの頃になんとなく言ったことを覚えていてくれて、更には叶えてくれるなんて。

「…綺麗…まさか花火が見られるなんて…。」
「……喜んで頂けて良かったです。」
「…こんなに嬉しくて楽しいのは、その、一織くんと一緒だから…ですよ。」
「…っ、え、」
「…一織くんが私にって用意してくださったこの時間が何よりも嬉しくてたまらないです。」

照れくさいけど直接伝えずにはいられなかった。そのくらい嬉しかったというか、何というか。

「……!」
「……そんな驚かないでくださいよ…手、繋いだっていいでしょう…。」

いきなり手を繋がれてびっくりした…けど。なんだか本当に2人で花火大会に来たようで嬉しくて、その手を握り返す。

「……浴衣。」
「え?」
「…よくお似合いですよ。」
「…あ、ありがとうございます…。」
「…いいえ。」
「一織くんも…!一織くんも、よくお似合いです…!何だか大人っぽくて、とってもかっこいいです…。」
「…ありがとうございます。」

窓際に立って花火を見る。2人きりの空間の花火大会はとても居心地が良かった。
そうして、特に言葉を交わすことなく花火を見ていた。繋いだ手は、そのまま。