「はぁ〜……!」

思わず感嘆の声が漏れる。
今日は一織くんと水族館デート。入場して1番最初の水槽の中には様々な魚が。水が澄んでいて魚の色が映えてとっても綺麗で思わず見入ってしまう。

「綺麗ですね。」
「でっすよね!ふふ、久しぶりだしすっごくウキウキしてます。」
「あ、ほら見てれいさん。そこの魚、1匹だけ色が違ってまた綺麗ですよ。」
「わ、本当だ…!」

2人で様々な水槽を見て回りながらちょっとはしゃぐ私。そんな私を見て笑う一織くん。
周りは親子連れやカップルが沢山いるけれど、何だか2人きりの空間みたいで幸せ。
浮かれながら歩いていると突然誰かに手を握られる。
…まぁ、それをした人は一織くんだけれど。

「……え?」
「…手、繋ぎませんか。」
「は、はい…。いいんですか…?」
「…あなたが迷子にならないように、と。」
「なりませんよ!…でも、一織くんと手を繋いで歩けるの嬉しい…。」

そう言ってそっと一織くんの手を握り返す。そうすると手を握られる力が少し強くなる。
……好きだなぁ、そう思った。

順路をたどりながら着いたのは館内で1番大きな水槽。水槽がトンネルになっていて様々な方向から水槽の中を見ることが出来る場所で私のお気に入り。

「あ、エイが…。」
「本当だ。見てれいさん。あのエイとあの魚、ずっとくっついて泳いでいますよ。」
「本当だ…!何だか可愛い…。」

水槽の魚の様子をお互い話しながら水槽からほんの少し離れたベンチに座る。
…手は、繋いだまま。

「何か私が連れ回しちゃいましたよね…。大丈夫ですか?楽しめてますか?」
「大丈夫です。とっても楽しいですよ。」
「良かった…!私もとっても楽しいです!」

へへ、と笑いながら返事をする。次はどのコーナーに行こうか、とか何を話そうかな…と考えていると一織くんに声をかけられる。

「れいさん。」
「?はい。」
「…見てください。あれだけ人がいたのに今周りに誰もいないんですよ。」
「あ、本当だ…。大きな水槽を2人きりで見られるなんて贅沢ですね。」
「……。」
「水族館っていいですよね…。薄暗いなかで水槽のライトが明かりになって魚も綺麗で…。いつまでもいられちゃいます。」
「…れい。」
「はい、…っ!」

突然一織くんの顔が近づいてきて唇が重なる。……キス、された?

「っ、な、い、一織くん…!」
「はい。」
「ここ、外ですよ…!?」
「……大丈夫ですよ。変装していますし、まず誰もいないことは確認済みです。」
「だ、からって…。」
「…嫌でした?」
「嫌なわけ…。」

ずるい。その聞き方はずるい。嫌なわけないじゃない。不器用な一織くんからの愛情表現。嬉しいに決まっている。

「…れい、少しいいですか?」
「は、はい…。」
「……これを。」

そう言って鞄から小さな包みを出して私に渡す一織くん。…これは一体?

「えっと…?」
「開けてみて。」
「は、はい。では失礼します。」

そっと開けてみると、そこには。

「っ、これ…。」
「貸して。私がつけてあげます。」

そう言われ素直に包みの中の物を一織くんに渡す。そうすると一織くんは私の右手を取り、それをそっとつける。
……中に入っていたのは、可愛い指輪。

「…良かった。ぴったりですね。」
「…っ、」
「…私がいない時も、毎日つけてくださいね。」

驚きで声が出せない。とにかく毎日つける、という意思を表すために首を縦に振る。

「れいさん、気に入って頂けましたか?」
「はい…!っ、可愛くてすっごく素敵です…!」
「それなら良かった。」

嬉しくて何度もつけてもらった指輪を見る。何度見てもすごく可愛くて思わず笑みがこぼれる。
ふと見ると真剣な顔でこっちをみる一織くんが。何かあったかと私も向き直すと一織くんが話し始める。

「…今は、」
「え…?」
「今は、ここ、右手の薬指ですが…。…いつか、必ず左手の同じ指に指輪を渡しますから。…私のために、空けておいて。」
「っ、左手の、」
「はい。今はまだその時期ではないですし、まだ私にはその資格がない。だから、それまで…いや、その後もずっと、私と一緒にいてください。」
「…っ、一織くん、」
「はい。」
「…当たり前じゃないですか。むしろ、ずっとずっと、一緒にいてください。私がお願いしたいです。」
「…もちろん。っと、人が来ましたね。そろそろ移動しましょうか。」

…びっっっっくりした。
また2人で手を繋いで移動を始める。でも私の頭の中はさっきの一織くんの言葉でいっぱいで。
……プロポーズ、されたかと、思った。
なんて、過剰な自惚れ…。

半歩前を歩く一織くんの顔をちらっと見ると少し頬が赤い。ドキドキしてるのは私だけじゃないとわかって少し安心した。

「……ペンギン!」
「本当だ。泳いだり歩いたりかわい…んんっ。」

いつの間にかペンギンのコーナーのところまで来ていた。他の場所よりもいくらか人が多い気もする。やっぱり人気なんだなぁ、可愛いもんね。わかる。
…一織くんも、素直に可愛いって言えばいいのに。

「可愛いですよね…!」
「っ、そうですね。」
「あ、ほら見て!巣穴からまた1羽出てきましたよ!可愛い…!」

繋いだ手を引きながらペンギンに近づく私。やっぱりすごく可愛い、癒される。

「……可愛いのは、ペンギンじゃなくて…。」
「?一織くん何か言いました?」
「いえ、何でも。ほら、さっき巣穴から出てきたペンギンが近くまで来ましたよ。」

何か言ったような気がしたけれど…気のせい?
ふと冷静になってみると、さっきまでの自分はすごくはしゃいで一織くんの手を引いてあっちこっち行ってすごく子どもみたいだ、と思う。何だか恥ずかしい。

「れいさん?」
「あはは、私はしゃぎすぎてましたね…。」
「…そうですね。珍しくはしゃいでいるな、と思いました。」
「恥ずかしい…。」
「…可愛らしかったですよ、とても。」
「?!」
「ほら、後がつかえてます。行きますよ。」

一瞬目を細めて優しい顔をした一織くんにドキドキが止まらない。とても心臓に悪い。

そのまま一織くんに連れられて、館内最後のお土産屋さんに入る。そこで私は家族や友人、一織くんはメンバーのみなさんにお土産を買った。
そのまま近くの海辺で座って話をする。

「水族館、楽しかったですね。」
「はい。天気も良くて本当に来られてよかったです。一織くん、連れてきてくださってありがとうございます。」
「いえ、こちらこそ。素敵な時間をありがとうございます。」
「一織くんと水族館に来られて、こうして海を見ることまで出来て…。本当に幸せです。」

そう言い一織くんを見て微笑む。嬉しくて、幸せで…本当に胸がいっぱい。

「…あなたにそう言って頂けて、その顔を見られて…。本当に来て良かった。」

さら、と一織くんが私の髪を撫でる。思わず目を閉じるとそのまま一織くんに口付けられる。

「……。」
「……。」

唇が離れ、近距離で目が合う。
何だか照れくさくてどちらともなく笑う。

「…一織くん。」
「はい。」
「外、ですよ?」
「…誰もいないでしょう?」
「一織くんはアイドルなんですから。…でも、嬉しい…。人が少ない所で良かったです…なんてね。」
「私も。…こうしてあなたと過ごせて良かった。」

初めて外でデートをした今日。普通のカップルには普通のことだけれど私達にとってはとても特別で大きな思い出になった。
手を繋いで、並んで歩く。そんなことがこんなにも幸せなことだなんて知らなかった。全部全部一織くんが教えてくれた。
そんな幸せな1日を過ごせて少し怖いくらいだけれど…どうか、この幸せが続きますように、と。そう願った。