「わ、雨…!?」
快晴だった天候はいつの間にか曇り、大粒の雨を降らし始めた。雨の予報はなかったので傘を持っているはずもなく。このままでは2人ともずぶ濡れになってしまうし、近くの軒下まで走ろうかと彼に提案しようと思い彼の方を向く。すると、言葉を発するよりも早くぱさりと頭に何かが被せられる。
「すみません、髪の毛崩れてしまうかもしれないですけど…濡れるよりはマシだと思ってください。」
「…え、」
被せられた何かとは、本日彼が着用していた上着で。そのまま肩を抱かれ、軒下まで走るように促されて素直にそれに従う。動く度に仄かに香る自分とは違う香りにとくん、と心臓が鳴っていた。
「…とりあえずここなら濡れはしないですかね。」
「はい…。というか、一織くん。」
「はい?」
「今日は折り畳み傘持ってなかったんですか?」
常に用意周到な彼はいつも鞄の中に折り畳み傘を入れていたし、今日も例に漏れずそうだとばかり思っていたのだけれど違ったのだろうか。
「鞄を変えていて。」
「そっか、確かにいつもと違いますね。」
「はい。雨の予報もありませんでしたからすっかり失念していました。」
「ふふ、珍しいですね。一織くんでもそんなことがあるんだ。」
でもそのお陰でちょっとどきどきする出来事があったのだけど。彼に被された上着は頭から被っているにも関わらず裾が腰の位置にあり、また肩を抱かれた際の腕とその力を思い出してまたもとくんと心臓が音を立てる。
「…れいさん?」
「はい!?」
「大丈夫ですか?少し顔が赤い気がしますけど…。」
「だっ、大丈夫です!あっ上着ありがとうございました返しますね!」
「いやそんな慌てなくても…。体が冷えてはいけないですからまだ羽織っていて構いませんよ。」
「それは一織くんも一緒ですし…!」
「私は平気です。……それに、あなたは女性なんですから。」
その言葉に驚いてしまい返答が遅れると、彼は続けてもういっそ着たらどうですか、なんて言う。優しい口調だけど、頑固な部分があるからきっと上着を返すのもそう簡単にはいかないだろうし、お言葉に甘えることにして上着の袖に腕を通す。
「…あったかい。」
「寒かったんですか?」
「うーん…ちょっと濡れたから…ですかね。」
「ほら、言うことを聞いていて良かったでしょう。」
「そうかも。ありがとうございます、一織くん。」
そうやって雨が止むまで他愛のない話をする。さっきの写真展の感想だったり、ふと思い出したことを話題に出したり。そうしているうちに気付けば雨は上がり雲が晴れていて。やっぱり通り雨だったんだなぁなんて空を見上げて見る…と。
「一織くん!」
「なんですか。」
「空!虹が出てますよ!」
「虹?……あ、本当だ。綺麗に見えますね。」
虹、といえば。実は真っ先に思いつくことがあって見る度に心躍らせていたりして。今もまた、しかも彼と共に見ることができてなおさら。
「そんなに嬉しそうにして、何か理由があるんですか?」
「え?えっと、」
「?」
「……虹を見ると、IDOLiSH7を思い出すんです。」
「…なるほど、そうですね。」
「だから、こうやって見る機会があると嬉しいというか、感動するというか…。へへ、うまく言えないけど…。」
「…大丈夫、伝わりましたよ。ありがとうございます。」
そう言って優しく微笑んでくれる彼に同じように笑い返す。そのまま自然とどちらともなく手を繋ぎ、虹の架かった空を見上げていた。