2018.04.17
彼と私の真ん中バースデーのお話
「っ、え、どうしたんですか…。」
いつも以上に距離を詰めて隣に座ると戸惑いながら私に問いかける一織くん。
いつも一織くんにドキドキさせられているからたまには…と思い何かをしようと思って行動したけど想像より近い距離に自分で緊張してしまって失敗だったかな…と思う。
「…れ、れいさん?」
「……。」
こういう時は行動あるのみ!とわけのわからない勇気を出し、ぎゅっ、と一織くんの腕に抱き着く。顔を見られるのが恥ずかしくて一織くんの腕に頭を押し付けながら抱きつく力を強める。
「っ、え、あの、」
顔を見なくても動揺しているのが伝わる。
何でこんなことしてしまったんだろう…!と今更後悔する。顔が物凄く熱い。どうしたらいいかその姿勢のまま考えていると、頭を撫でられる感覚が。
「…何か、不安なことでも?」
「……え、」
いや、単純に何か仕掛けてみようという好奇心からくる行動だったのだけれど。
「最近何かありましたか?」
「あ、いや、そうじゃなくて、」
「……?」
「何となく、甘えてみたくなった…みたいな…?」
抱き着く腕はそのままに顔だけ上げて答える。一織くんの顔を見ると真っ赤。可愛い。
「…あ、甘え、」
「すみません、…嫌でした?」
「嫌なわけじゃ…。」
そう言いもう片方の手で自分の口元を覆い、反対側を向いてしまう。照れてる。可愛くて、思わず微笑んでしまう。
「…それ、わざとやってます?」
「…?」
「あぁ、無意識なんですね…。それもそうか…。」
そう言い自分の頭を押さえる一織くん。
何をしているのか何を考えているのかわからなくて首を傾げているとはぁ、と溜め息をつかれる。
「あの…?」
「…何でもありませんよ。」
そう言い目を細めながら私の頭を撫でる。甘やかされてるなぁ…と実感しながら、一織くんの優しさが嬉しくてつい笑みをこぼす。
「……可愛い人だな。」
「っ、え、」
「……。」
そんな、優しい目で、見られると…。
なんだか居た堪れなくなってしまう。恥ずかしい。
「うぅ…」
「はは、どうしたんですか…顔が真っ赤ですよ。」
「…な、なんか恥ずかしくて…。」
「自分からやったんでしょう。」
はは、と私の様子を見て楽しそうに笑う一織くん。その顔がとても優しくて、
「…すき。」
…気づいたらそう、言っていた。
はっ、としてももう遅い。当然一織くんにも聞かれていて恐る恐る一織くんを見ると驚いた顔で私を見ている。
「う、あ、え、えっと、」
「……っ。」
「き、聞いてました…よね…?」
「は、はい…。」
「あぁぁ…。」
無意識に漏れ出た言葉ほど恥ずかしいものはない。恥ずかしすぎて顔から火が出そうで両手で顔を覆う。
「…れいさん。」
「……。」
「…顔、見せてください。」
無理。恥ずかしくて顔なんか上げられない。
そう伝えるために顔を覆ったまま首を横に振る。
「……れい。」
「…!」
「…もう、甘えてはくれないんですか?」
「っ、な、な、」
「ふ、やっと顔を見せてくれましたね。」
「〜〜!!」
やられた。思わず顔を上げてしまった。
思惑通り、といった顔をしている一織くん。
なんとなく面白くなくて何か仕返しをしてやろう、と思う。照れさせてやりたい。
……そうだ、
「…一織くん、」
「なんです、か…!?」
とん、と一織くんの肩に手を付き一織くんの頬に己の唇を寄せる。
どうだ、と思い一織くんを見ると真っ赤な顔でその場所を手で押さえている。…仕返し成功。
「……。」
「……。」
…す、すごい見られている。しかも怖い顔してる…。
「…い、一織くん…?」
「……。」
「…もしかして、怒って……ぅんんん!?」
急に引き寄せられ、何…!?と驚いていると一織くんに口を塞がれる。驚いて目を見開くとものすごい近距離に少し怒ったような一織くんの顔が。
「…っは、」
「……、」
「…い、一織くん…?」
「…怒ってはいませんよ。」
「あ、はい、」
「…ところで突然あんなことして…なんのつもりですか。」
「え、」
「頬にキス、したでしょう。」
「あ、えぇっと…な、なんとなく…?」
「ふぅん…。」
「え、えぇ、なんでそんな険しい顔してるんですか…?」
突然キスされたのはこっちも同じなんだけど…?険しい顔でじっと見つめられる。
あ、これは言うまで逃してもらえないやつだ…と悟る。
「…ちょっと、ドキドキさせられっぱなしで悔しかったので…何かしてみようかな…って…。」
「…へぇ?」
「うううごめんなさい怒らないで…。もうしませんから…。」
「…それは困りますね。」
「はっ…?」
困る?なにが?
多分私は頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべていることだろう。
その様子を見た一織くんが話し出す。
「もうしない、って…悪戯でもキス、してくれなくなるってことですよね?」
「あ、えぇ、うぅん…?」
「…たまにはして頂きたいのですが。」
「はっ?!」
なんだ、つまりは私にキスされなくなるのが困るってことか…?しないし!!というかしたことないし!!恥ずかしくて自分からできたものじゃない!というかしてほしいって何!?
あわあわする私を面白そうに見ている一織くん。そうだろうよ、どうせ面白い顔してるよ、と半ば開き直る。
すると、
「…さっきの悪戯のお詫びとして…もう1回ここに同じことをしてくれませんか?」
自分の唇をトントン、と叩きながらそう言う一織くん。…ここに、同じこと?
「はっ、はぁぁぁぁぁ!??!」
「嫌なんですか?」
「いやっ、嫌とかじゃなくて、出来ません!!」
「どうして?」
「唇に、き、キスなんて恥ずかしくて出来るわけないじゃないですか!!」
「…さっきもしたでしょう。」
「そ、それは、だって、」
「…れい。」
「う、今名前呼ぶのはずるい…。」
何なんだ、今日の彼は何なんだ。いつもの照れ屋な一織くんはどこいった。
どうしよう。自分からキスなんてしたこともないし、普通にされるのですら恥ずかしいのに…。でも、この空気…私からするまでは絶対に終わらせない圧を感じる…。
うううう…と唸っていると、一織くんがポツリと言う。
「…そんなに嫌ですか。」
「え、」
「私とキス、そんなに嫌なんですか。」
「っ、ちが、」
「…無理強いをしてすみませんでした。私からももうしませんから。」
「っ、違うってば!!」
思わず大きな声を出して反論する。違う。嫌なわけじゃない、嫌なわけがない。確かに恥ずかしくて、あの独特な空気感に耐えてはいるけれど、彼からのキスは嬉しい。優しい唇が大好きだって伝えてくれるみたいで…むしろ好きだ。
「違う、嫌じゃない、嫌じゃないの…!」
「…ならなぜそこまで拒むんですか。」
「だ、って、」
「いいですよ、はっきり言って。私とのキスが嫌いだと。」
「嫌いじゃない!!嫌いじゃない…!」
あれ、おかしいな、なんでこんな空気になっているんだろう。しかもあらぬ誤解生んでいるみたいだし…。
…もう、やるしかない。そう思い、なんだか暗い顔をしている一織くんの目を両手で塞ぎ、そのまま意を決して一織くんの唇に己の唇を付ける。
「…っ、」
「……!」
触れるだけの簡単なキス。一瞬でその触れ合いを解く。そっと一織くんの目から手を離すとその瞬間、グイッと手を引かれ、後頭部に手を回されそのまま口づけられる。
突然の出来事に目を白黒させていると、ほんの少しの唇の隙間から彼の舌が侵入してくる。
「っ、ん、んんっ、」
突然の出来事に驚きと動揺が隠せない。心臓の鼓動が激しく鳴っている。その鼓動に混じって聞こえてくるのは、彼と私の唾液が交じる音。ちゅ、ちゅ、と生々しい水音に思わず耳を塞ぎたくなった。
と、一瞬唇が離される。この羞恥から開放される…かと思いきや、再度深い口づけを送られる。…こんな一織くん、しらない。
口腔内を自分のものじゃない舌が這いまわる。舌を絡め合わせたり、されるがままだ。
息が苦しい、突然のことに呼吸をするのを忘れていた。離そうにも後頭部をしっかり押さえられていて離れられない。
苦しい、と伝えるために彼の胸をトンと叩く。するとようやくキスが止まる。唇同士が銀の糸を引きながら離れる様子に目を背けそうになった。
「っ、は、はぁ、」
「…っは、」
呼吸が荒い。足りなくなった酸素を少しでも多く吸おうと大きく息を吸ったり吐いたりする。酸欠でぼーっとする。何かに縋り付きたくなり、目の前の一織くんの洋服を掴む。一織くんの洋服を掴みながら大きく呼吸をする私は大層滑稽だっただろう。
「……大丈夫、ですか。」
「っ、は、…これが、大丈夫に見えますか…。」
彼の方は私ほど呼吸も乱れていないらしい。なんでそんなに余裕そうなんだ…くそ、と汚い言葉を心に浮かべながら大きく深呼吸を繰り返す。そっ、と背中に手が添えられ呼吸に合わせて上下に擦られる。…その優しさに不覚にもときめいてしまった。
「……れいさん。」
「…ん、なに、」
「…すみません、突然、」
気まずそうにそう言いながら労るようにそっと私の頬を撫でる。その大きな手に安心して思わず擦り寄る。
「……っ、」
「一織くん…?」
「…そ、そんな可愛いことしないでくれませんか…。」
「……?」
なんのことだ。わからなくて一織くんをじっと見つめる。と、元より赤かった一織くんの顔がさらに赤くなる。どうしたんだろう…?
「…っ、それより、もう、大丈夫ですか…?」
「…は、はい。」
「…驚いた、でしょう。」
「まあ…そりゃあ…。」
「…引いてませんか。」
「…え?」
「っ、がっついて、あんなキスをして…引いてませんか…?」
すごく分が悪そうにそう問われる。いつも強靭な理性の塊みたいな彼が、私にあんなキスをしてくるなんて思ってもみなかった…けれど…。
「…引いてませんよ。」
「…本当に?」
「はい。あ、あんなキスをされるなんて思ってもいなかった、ですけど…。嬉しかった、から。」
「は…?」
嬉しかった。一織くんが私に少しでもそういうことをしたいって思ってそうしてくれたことが素直に嬉しかった。
触れ合うような軽いキスしかしたことがない私には少々刺激が強めだったけれど。
「っ、へへ、一織くんからのキス、嬉しかったです。」
「っ、だから、」
「…?」
「〜〜、あんまり、可愛いことばかり言わないでもらえますか…。」
「…えっと…?」
「…っ、また、キス…したくなるでしょう…。」
真っ赤な顔で、口元に手を当て若干俯きながらそう告げる一織くん。その姿にいつもの一織くんだ…となんだかほっとした。
「…キス?」
「…はい。」
「…さっきみたいな?」
「っ、さっき、みたいな、」
「……えっち。」
「!?えっ…!?!?」
あはは、驚いてる驚いてる。しかも顔真っ赤。…可愛いなぁ愛しいなぁ。…だいすき、だなぁ。えっち、なんて言ってみたけどさっきのキスは嬉しかったし、気持ちが良かったから私のほうがスケベなのかも。絶対に言わないけど。
「っ、えへへ、」
「な、何なんですか…!」
「…もう1回、して?」
「な…っ!!」
「…ダメですか?」
「っ、だ、めじゃない、ですけど、」
「…一織くん。」
「何ですか…!」
「…すき。だいすき。」
へへ、と笑いながら好き、と告げる。その瞬間唇を重ねられる。一旦唇同士が離れると、
「…可愛いことばかりする、あなたが悪い。」
と、色気を含んだ声でそう告げられまた深い深い口づけを送られた。
……計画通り…かな?