きっかけはただの気まぐれだった。
飽きっぽい私にとって、冒険という名のつくものがどんなものだって魅力的に見えたものだ。
「ねえ、お姉さんと寝てみない?」
「は?」
彼に声をかけたのもたまたま。けれどよく見れば見るほど、彼は美しい髪や肌をしていた。
彼の名前はディオブランドー。
イギリス生まれ。その他はあまり知らない。彼は決まって行為が終わるとシャワーを浴び、お金を受け取っていつの間にか帰って行く。
おそらく、彼はビジネスをしているだけ。この行為自体に男としての悦びを感じることはないのかも知れない。
それでも私がディオをこうして毎回呼びつけるのは、体の相性が良いからなのだけれど。
「お姉ちゃ〜ん、1人かい?何してんだよォ、こんな場所で」
「別に。人待ちよ。」
いつもの酒場には客が溢れていて、仕方なく入り口の壁際に寄りかかっていると通行人のうち数人に絡まれる。
さすがは治安の悪い街。臭そうな輩がうじゃうじゃいるわね。
はあ、とため息をつく。
「このアマ!舐めた態度とってんじゃねぇぞ!ぶっ殺してやる!」
男が手に持っていた鉄の棒を振り下ろす。私が咄嗟に避けると、後ろにあった店の壁が無残にもボロボロと崩れ落ちた。ヤバい...なかなか力のあるやつ。
しかも周りからは仲間が寄ってきて、私は一気に囲まれてしまった。
「(......面倒くさい)」
と思ったその時。
男達からギャアアアと悲鳴があがる。
そしてみるみるうちに端っこから綺麗に血を流して倒れていった。
いったい何が、
「目立ったことをさせてくれるじゃあないか。◎◎。」
「.....ディオ」
何も半殺しにしなくてもよかったのに....。返り血でべっとりと服を汚している彼は倒れた男の頭を踏みにじりながら私のそばへやってくる。
「貴方が遅刻したんだからしょうがないじゃない」
「薄汚いゲス共にまわされたほうがマシだったか?」
フン、と鼻を鳴らした彼について行く。ディオはいつもなんかよりずっとイラついているみたいだった。
新しい服を買ってあげても、シャワーを浴びて帰ってきても彼の眉間に刻まれたシワは直らなかった。
ずっと怒りをにじませている。
さすがに心配になって「怖い顔してどうしたの?」と頭を撫でてあげると、ディオに「やめろ阿保」と振り払われた。
「ディオ、やっぱり今日は変、っ!?」
首筋に噛み付かれる。ピリッとした痛みが走った。ディオにそのままじゅう、じゅうと吸い付かれている。
まるで吸血鬼に血を吸われているような感じだ。ディオの唇が離れていって首元をさすると、やっぱりちょっとだけ痛い。
「このディオは、お前なんかより金持ちの男になってやるぞ◎◎。そして、」
その続きは、聞こえなかった。ディオは何も言わなかった。
だけど私はその日初めて、ディオにキスをした。
それは最後のキスだった。