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テッドが狩ってきた鳥をさばいて串に刺して焼いたものを食べ始めたとき、視界の端っこに横たわっていた白い少女の体がわずかに身じろいだ。テッドがかけてやった深緑色のマントの端を持ち、少女は起き上がると、当たりの景色を見て、ぱっとテッドの方を向き、不安そうな顔をしてかたまった。テッドは少女を警戒させないように武器をそこに置いて立ち上がり、ゆっくりと少女に歩み寄った。少女は不安げだったが、逃げ出すそぶりはなかった。
「……気分はどうだ?」
久しぶりに誰かに対して出した声は掠れていた。その声が思いのほか優しかったからか、少女は不安の色をわずかにひそめた。しかし少女の返事はなく、薄暗い森には木立が囁きあう音が響いた。
少女はあまりにも無防備だった。両手を力なく足の上に重ねておいたままぽかんとテッドを見上げる姿は、危険を知らない危うさがあった。たとえばひとりで町に放り出したらすぐにも追いはぎや人さらいに連れ去られてしまうような――そんな想像を容易にさせた。
今テッドを見上げる大きな瞳も、ついてこいと言えば何の疑いもなくどこまでもついてきそうなあどけなさがあった。
どんなに平和な町にもならず者はいる。普通に暮らしていればこんな無防備な人間はいない。だとすれば考えられるのはよっぽど地位の高い貴族の生まれでずっと守られて生きてきたか、そうでなかったら――。
テッドはそばに佇んでいる開け放たれた石像にめをやった。石像の中はボロボロにひび割れていて、経年劣化がひどい有様だ。そんな中にいたのに、この少女はそれを全く感じさせないほど、頬はふっくらとし、爪も桜色に色づいている。普通、人は3日も日に当たらず何も食さなければ、多少やつれるはずなのに。
この少女には何らかの魔法の力が関わっている。テッドはそう予想していた。
「いいか、よく聞け。」
テッドが口を開くと、少女はじっと視線をテッドに向けた。
「お前がどんな理由であの石像の中にいたのか知らないが、俺はお前を助けてやれない。そこの川を下っていけば人が住んでいる場所があると思うから、そこを目指せ。服と数日分の食料は分けてやる。俺ができるのはそこまでだ。いいな?」
テッドがそう告げると、少女はしばらく黙ってテッドを見上げた後、ようやくその口を開いた。
『…ごめんなさい。あなたの言っている言葉がわからない。』
テッドはその言葉を知らなかったが、少女と同じことを思った。
聞いたこともない言葉だ――。
『あの…助けて、くれたの?』
少女はまた何かを言いながら、足の上に落ちた布を拾い上げた。テッドはその動作で少女の言おうとしていることが分かった。
「あ…ああ、それは俺が…。」
頷くと、少女もテッドの返答がわかったようで、小さく頭を下げた。
『ありがとう…。』
ここはどこなのか、なぜ自分はここにいるのか。少女は知りたいことがたくさんあったが、それを問うすべはなく、少しの間黙りこんだ。
どうしたものかとテッドは頭をかいた。夜が明けたら少女に別れを告げるつもりだったが、言葉が通じないならどうしようもない。
少女は辺りを見渡して、フクロウの鳴き声に耳を澄ませたり、はぜる焚火の火の粉を眺めたりしている。隙だらけで、ふと目を離したすきに攫われてしまいそうなほどだ。
テッドはため息をついた。
「…しょうがねえ。どこかの町に着くまでだ。それまでは面倒を見てやるが、俺にあまり関わるんじゃないぞ。」
テッドが低い声で言うと、少女は目を瞬いて、首をかしげた。そうだった。言葉が通じないのだった。
テッドは自分の顔を指さして、少女に言った。
「テッド。」
それはすぐに通じた。少女はわずかに微笑みを浮かべて、テッド、と繰り返して言って見せた。焚火が白い頬を橙に照らし、ぽこんと小さくえくぼが青い影を作っている。
「お前は?」
テッドが少女を指さすと、少女は答えた。
「ルーナ。」
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