白いレースのカーテンから、淡い光がやさしく漏れているのを眺めながら、ルーナはゆっくりと息を吐いた。
医者らしき初老の女性に生理用品の使い方をなんとか教わり、着替えももらって、今は椅子に座ってようやく落ち着いてきたところだった。テッドのあの慌てようは、生理というものを知らない様子だった。うすうす感じてはいたが、ここは自分がいた世界とは違う。医者からもらった服も、下着も、生理用品も、何もかもが違う。なにより、あんなドラゴンが、現実にいるわけがない――。
ドアがノックされて、返事をしようとして、何と返事をすればいいか迷っていると、またドアがノックされた。
『はい』
結局それだけ言うと、ドアはゆっくりと開かれ、隙間から白衣の若い女が顔をのぞかせた。
「あ、もう大丈夫ね。はい、入っていいわよ。」
そう言って招き入れたのは、困惑顔のテッドだった。テッドはルーナを見、すぐに視線をそらして、顔を赤くしていた。
「ふふ。じゃ、ごゆっくり。お茶でも入れてくるわ。」
若い女は意味深に微笑んで出て行ってしまう。残されたテッドは、椅子を持って来て、ルーナのそばに座った。
「……あの…えっと、」
しばらく視線をさまよわせてから、テッドは深く頭を垂れた。
「……ごめん。俺、知らなくて。」
謝っているのだと、ルーナにもわかった。
『謝らないで。私の為に、お医者さんまで探してくれて、嬉しい』
ルーナが首を振ると、テッドもルーナが気にするなと言っているのだとわかった。
「その……大丈夫か?痛みは……」
若い女にこってりと教えられたテッドには、そう言うほかに気遣いがわからなかった。ルーナを指さして心配そうに首をかしげると、ルーナはおなかのあたりに手を置いて頷いた。もう大丈夫らしい。
「そうか、なら、よかった……。」
テッドはそれきり黙りこんだ。何を言っていいかわからなかったし、それに、気がかりもあったのだ。
ルーナが関わると、なぜだか都合よく物事が運ぶ。自分が行き倒れそうになった時にあの森に迷い込み、ルーナに出会ったし、ルーナをおぶさって町を探そうとしたらすぐに森が開けてこの街を見つけた。まったく人の気配もなかった森の中で突然、こんなに栄えた町に行き会ったのだ。不思議を通り越して不気味なほどだ。おそらく、またあの森に戻ろうと思っても、もう戻れない。この病院のどこの窓から外を見ても、森らしきものは全く見えなかった――。
テッドは何気なく、おなかを抑えているルーナの白魚のような手を眺めた。それから視線をゆっくり上にあげて、ルーナの顔を盗み見た。ルーナはぼうっと窓の外を眺めていた。その横顔は、淡い光にすかされて、白く光りの輪郭を浮かび上がらせていた。綺麗だ。こんなふうに人を眺めたのは、本当に久しぶりだった。
不意にルーナが振り向いて、ドキリとしたが、その瞬間白くまるい額がきらりと光り、テッドは目を凝らした。立ち上がって、ルーナに歩み寄り、プラチナブロンドの前髪を退ける。
「テッド……?」
ルーナが小さな声で呼ぶ。テッドはルーナの額を見て、めまぐるしく記憶が蘇ってきていた。あの、ソウルイーターが喰らえなかった白いドラゴン。そのドラゴンの額にあった文様と、おそらく同じもの――。あざのような文様が、ルーナの額にうっすらと浮かんでいた。
「お前、これは……。」
言いかけた時、ドアが開いた。
「あら、あらあら。まあ……。」
若い女が、トレイにティーカップを乗せて立っていた。
「お邪魔しちゃったかしら。うふふ。お茶、ここに置いておきますね〜。」
ごゆっくり、とからかうように笑いながら出ていく女に、テッドは抗議し損ねた。諦めたように溜息をついて、ティーカップを取りに行き、戻ってきてひとつをルーナに差し出した。
「俺はちょっと町の中を見てくるから、お前はしばらくここで休んでろ。」
テッドが手を下に向けてここにいろというジェスチャーをして、お茶を一気に飲み干して踵を返すと、ルーナが慌てて立ち上がった。
「テッド…?」
「あ?大丈夫、戻ってくるからさ。ここにいろよ。」
もう一度ここにいろとジェスチャーをして、足早に扉へ向かう。すると、後ろから足音が追いかけてきた。
「テッド…!」
振り返ると、すぐ後ろにルーナが不安そうな顔をして立っていた。
『どこに行くの…?』
置いて行かれると思ったのだろう。大丈夫だといくら伝えても、きっとルーナには伝わらない。テッドは頭をガシガシと掻き、ため息をついて、扉を開けた。
「……しょーがねえ。わかった、一緒に来い」
顎で示すと、ルーナは安心したように微笑を浮かべた。
FORTUNE