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翌朝、陽が昇るころには、嵐は嘘のように去っていた。静まり返る外に出ると、波音がやさしく潮風を運んできた。陽の下に出ると、お互いの顔がやっとわかった。カイは少し日焼けしたまだ少年の面影が残る青年で、瞳の色が青く、どう見ても異国の人だった。カイも、私の容姿が珍しいのだろう。私の黒い髪と茶色い瞳をじっと見つめたが、すぐに我に返ったようで、ばつが悪そうに目を逸らした。
辺りを見渡すと、白い砂浜が広がっている。左手の方には何もない海原が広がっている。遠くの方に岩場が見え、その向こうに切り立った崖が見える。右手の方は草木が群生した森が広がり、その向こうは見えない。ここが孤島か、大陸の一部なのかはわからなかった。
「とりあえず、飲める水があるか探そう」
慣れた様子でカイが言った。遭難経験のないカレンは、おとなしく従いカイについていくことにした。
森に入ったカイは、ときどき立ち止まって草木を注意深く見たり、地面に伏せてじっと耳をあてたりした。
「……何してるんですか?」
カレンが聞くと、立ち上がったカイはきょとんとカレンを見た。
「水を探してる」
そう言って、また草をかき分けて歩いて行った。
途中で何だかわからない草や木の実をプチプチと採って、カレンに手渡した。
「これは?」
「食べられる野草と木の実。持ってて」
カイがそう言うので、カレンはポケットからハンカチを出し、丁寧にくるんで仕舞った。
カイは、カレンが話しかけない限りほとんど口を開かない青年だった。ただ黙々と作業を行っている。カレンもそのうち話しかけるのに気が咎めて、カイの後を歩きながら草木や花を眺めた。まだ空腹でもなく、疲れもなく、こんな人の手の入っていない美しい深緑の森を歩いたことがなかったカレンにとって、今の状況はファンタジーの世界に迷い込んだような、楽しい気持ちが強かった。カイも寡黙で冷静な青年で、深刻に焦ってなどいなかったから、しっかりした住居も衣服も食料もなく、ここがどこだかわからず、人がいるのかどうか、自分の家に帰れるのかどうかもわからないこの状況に、恐怖など感じなかったのだ。
ふと、カイが足を止めた。辺りを注意深く見ながら、耳を澄ましているようだったので、カレンも足を止めて物音をたてないよう息をひそめた。するとカイは、また歩き出した。その歩みはそれまでの選ぶような足取りではなく、一直線にどこかを目指した足取りだった。ほどなくして、開けた場所に出た。周りを木々に覆われた湖だった。湖は直径10メートルほどで、崖に面したところから湧いた細い滝が流れ、岩場の当たりから細い川になってどこかへ流れ出ていた。カイはそばへ行ってしゃがみこみ、水をすくってひとなめした。
「真水だ。運がいい」
その言葉を聞いて、カレンも安堵した。
カイはおもむろにシャツを脱いで、湖でざぶざぶ洗うと、しぼって、そのシャツで体をサッと拭い、洗ったシャツを硬く絞って肩にかけると、立ち上がった。一連の動作があまりに慣れて素早かったので、ぼうっと見ていたカレンに、カイは言った。
「この近くを調べてくる。10分くらいで戻る。」
「え?私……」
「ここで待ってて。」
遮るように言って、カイは素っ気なく歩いて行ってしまった。その姿が見えなくなって、カレンは思い当たった。カイは気を利かせて去ってくれたのではないかと。
カレンはカイの思慮深さに驚き感謝しながら服を脱ぎ、水浴びをした。さっぱりしたところでまた服を着て、カイが戻ってくるのを待った。
カイはすぐに戻ってきた。まだ全然わからないことだらけなのに、彼の顔を見たらカレンは安堵した。
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