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低い地響きのような音が止み、4組の目の前にぽっかりと闇が口を開けた。明かりひとつない通路が細く延々と続いているが、奥の方は真っ黒に塗りつぶされたように何も見えない。
「……どうする?」
相田が呟いたが、このままこの広間にいても、何もしようがないことは全員わかりきっていた。
「とりあえず、進んでみよう。何かあったら、絶対にこの場所へ戻ってくること。何もなくても、1時間が経ったらここへ戻ってくること。それでいいかな?」
「いいと思います。」
橘が同意して、他に反対意見もなかったので、4組はそれぞれ闇の中に足を踏み出した。
しかし次の瞬間、瞬く間に視界から光が失われ、ゴーン…とむなしく低い音が暗闇の中に響いた。全員が通路へ入った瞬間、隠し扉が閉まってしまったのだ。
「おいまじかよ!」
田村が声を上げ、壁を叩いたような音がして、橘は肩を竦めた。何も見えない暗闇の中、平静を失ったよく知りもしない男と二人きりでいるのは、望まない状況だ。その沈黙をまずいと思ったのか、田村の焦ったような声が語りかけてきた。
「ごめん、橘さん、いる?大丈夫だった?」
その声には取り繕ったような優しさがあったが、橘は気付かないふりをした。
「います。大丈夫です。」
その声で安堵したのだろうか。
「よかった、ひとりじゃこえーもんな。」
そう笑い交じりの田村の声がした。しかし、すぐに
「いや、俺が守るから、大丈夫だけどね」
と、くさいセリフをこぼした。
橘はふとポケットの重みに気づいて、探ると、小さな筒状の硬いものを見つけた。探ると、スイッチのようなものがある。押してみると、先端が点灯した。小型の懐中電灯だった。
「うお!よくそんなの持ってたね。」
「いえ……私のじゃありません。いつのまにか、ポケットに入ってて……。」
答えると、衣服の擦れる音がしたのち、パッと田村の顔が照らされた。
「本当だ!俺のポケットにもあった……。」
田村は通路の先を照らし、橘に微笑んだ。
「じゃあ、とりあえず進んでみようか。」
「はい。……あの。私の懐中電灯は、まだ閉まっておきますね。温存しておいた方がいいと思うので。」
「ああ、そうだね。さすが、橘さん。」
世辞を述べる田村に相槌を打って、橘は懐中電灯を切ってポケットに仕舞った。
通路を進む。壁も床もコンクリートで固められていて、延々と灰色の空間が伸びている。進んでいるのか止まっているのかわからなくなってくる。しきりに、田村が「大丈夫?」と聞いてくる。そのたびに橘は「はい」と短く頷く。会話はそれきりで、通路には再び沈黙が下りる。他の人たちはどうしているのだろうか、この先には何があるのだろうか、私たちはどうなるのだろうか。疑問は尽きなかったが、これらを田村に聞いても何もわかるわけがないと、橘は沈黙を貫いていた。
「……いや、でも、俺、橘さんとペアで、ほんと良かったよ。」
急に、田村が切り出した。
「そうですか?」
「うん、最初に見た時から、その、可愛いなって、思ってたんだ。」
「……そうですか。」
そっけなさ過ぎただろうか。でも、こんな状況で期待を持たれても困る。田村の自分に対する好意にはうすうす気づいてはいた。だが、こんな状況で言い寄られるとは思っていなかった。いや、こんな状況だからこそ、かもしれない。非現実的な状況で、田村は判断力が鈍っているのだろう。彼の言葉は半分程度に聞いた方が良い。橘はそう結論付けた。
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