わたしの家族

 
 
 産まれた時から所謂“前世”というものの記憶があった。初めこそその事実におっかなびっくりしていたが、如何せん精神的には元の年齢である25を越えたアラサー女だったわたしは、数日もすると順応し第二の人生を歩む事に楽しみすら覚えていた。
ただ一つ問題点があったとすれば、この世界が前世では超有名且つ、人気だった『名探偵コナン』の物語の中だということ。漫画やアニメが特別好きな訳でもなかったわたしが、唯一友人から借りて読んでいた漫画であり、それなりに話の内容やキャラクターの過去やステータスなどの知識は持っていた。


「(まあ、モブとして生きてりゃホイホイ事件に巻き込まれる事も、キャラと関わる事も無いだろ…)」


 自分には関係ない。赤子ながら達観しすぎだろうと思うかもしれないが、そうでもしなければこの世界で生きていくのは辛いものがあり過ぎる。
そう軽く考えていた矢先、わたしの人生を大きく変える1つ目の事件が起こってしまった。


 両親が信号無視して交差点に突っ込んで来た車に追突され亡くなった。後部座席のチャイルドシートに座り同乗していたわたしは、傷一つ無く助かったが2人は即死。駆け落ちし、身内から縁を切られていた人達だった事もあり貰い手はおらずそのまま施設へと預けられた。
幸せを一瞬で失われたわたしは、幼子ながら泣く事も喚く事もせず抜け殻のような状態で日々を送っていた。周りの大人達は、きっとまだ状況が理解出来ていないのだろうと言っていたが、中身はアラサー目前の大人だ。4年ちょっとの間沢山の愛情をくれた親が目の前で死んで何とも思わない訳が無い。


「たいせ、つなひと、が、いなくなるって、こんな、に、つらいんだ…」


 ポツリと零れた言葉と共に浮かんだのは、親友達が次々と殉職して独りぼっちになってしまった“彼”の姿。
あの人はこんなに辛く重い物を背負って戦っているのか、と考えながら初めて流した涙は気付かれることなく地面に落ちて消えていった。



 それから数年後のある日、「ちょっと来てくれる?」と呼び出されたわたしは施設長と2人である若夫婦と向かい合わせで座っていた。


「雫、こちらは降谷さん。今日から貴方の新しい両親になる方達よ」
「え…?」
「君が雫ちゃんだね?初めまして、私は降谷柊音しおん。今日から雫ちゃんの父親になる者です。彼女はクレア、君の母親になる女性だよ」


 突然の出来事理解できないまま物事はポンポンと進んでいき、わたしは少ない荷物を纏め施設を後にした。



***



「ここが今日から雫ちゃんの家だよ」


 車を走らせること1時間。到着したのはごく一般的な大きさの一軒家。何となく、背の高い高層マンションやバカでかい御屋敷みたいな物を想像していたわたしは、思わず拍子抜けしてしまった。この物語の主人公の本当の家やそのお隣さんの家は言わずもがな大きいし、普通の高校に財閥のお嬢様やホテル暮らしの女子高生が通ったりしてるが主要人物じゃ無い人達の家庭はこれが普通なんだよな、と自分なりに完結させ「どうぞ」と開かれた扉をくぐって玄関へ。


「男の子の、靴…?」
「シオン、そういえばレイの事を伝えてなかったわ!」
「あぁ、そうだった!この家にはね、君と同い年の息子がいるんだ」
「息子?」
「フルヤレイ、アナタの双子の義兄さんになる人よ」
「ふ、降谷、零…!?」


 ニコニコと優しそうな顔で微笑む2人とは反対にサァっと青ざめるわたし。これこそが運命を変える大きな事件の2つ目だったのだ。