ALICE+
2017/05/07 18:15
軌跡SS
帝都で新年会。よその子お借りしています。
新年を迎えた帝都ヘイムダルのオスト地区、レーグニッツ邸に集まっていたのは日程が合い集まることの出来たZ組の一部メンバーだった。新年会を行うにあたってマキアスの家になったのは適度な広さと、父であるカールが既に仕事を始めていて家に居なかったからだ。
女子は主に料理の方を担当しており、男子は食器のセッティングとマリネとガイウスが持って来たお酒を酌んでいた。
だが、料理を作っている班が心配になって男子はついつい手を止めてそれぞれキッチンに視線を送ってしまうのは時々不穏な会話が聞こえるからだろう。
「あぁっ、ちょっと待ってマリネ!火は弱火で……」
「え?強火の方が早く焼けない?」
「そう言う問題じゃないの!」
「あ、フラン、焦げちゃう」
料理が苦手なマリネが何かする度にフランが慌ててフォローに入ろうとして、ティナもそれを手伝って何とか軌道修正する会話が聞こえてくるのだが、段々その流れも怪しくなってくる。マリネが「これとこれを合わせたら美味しそう!」と感覚で調味料を混ぜ始めるのを、ティナも「面白そう」と乗り出したのだ。もはやフランも途中から諦めて、せめて食べられる範囲の物を用意しておこうと買って来たトマトを切ってクリームチーズを乗せ始める。
「おい……新年会早々腹壊すの勘弁だぜ。何時もこうなのかよ」
「すまない……最近では腕も上がって来ていると思うんだが。新年会と聞いて少し張り切っているのかもしれないな」
「その少し張り切るで被害に合うのが僕たちっていうのも納得出来ないんだが……」
「いやいや、お前んとこのティナもちょっと乗ってんじゃねぇか」
「ぼ、僕のとこって何ですか!?」
いや確かに付き合っているからそういう意味だとは分かっているのだが。にやにやと口角をあげてからかう口調のクロウに、マキアスは何だか今日も碌でもない事になりそうだという予感を覚えて唸った。しかもこの後にお酒が入るのなら、尚のこと面倒になりそうだ。
どうしようもない状況になったとしても、取り敢えずはガイウスが何とかしてくれるだろう。自分がその役割になる自信がないのはクロウに絡まれなければ、という条件があるからだ。
女子のメンバーは如何せん酒癖にそれぞれ特徴がある。フランは非常に弱いし、マリネは上機嫌になって周りに注いだ後にまた自分も飲んで最終的には寝てしまうし、ティナは強い訳ではないから酔うと普段では聞かないような口説き文句を並べる。
それぞれ自分の彼女或いは妻の酔った状態を思い出したのか、照れ隠しをするように出来上がった料理を運ぶために立ち上がった。
「場所の提供ありがとう、マキアス。私達の家だとちょっとリビングがこの人数でパーティーとなると窮屈だと思ったから」
「いや、それ位なら別に構わないし、お安い御用だ」
「ダメ元で連絡してみたけど、ガイウスとマリネがノルドから来てくれると思わなかったわ」
「流石に元日は無理だけど、フランちゃんから連絡貰って行けないなんて言う訳ないしね」
「帝国にはない丁度いい手土産も持って来られたからな」
「ノルドのお酒って強くない?」
「大丈夫!程ほどに飲めばそこまで酔わないから」
マリネの言葉にティナとフランはそれなら大丈夫かと納得するが、マリネは比較的強い方であって、彼女の基準が二人に当て嵌まるとは限らないと嫌な予感を覚えたクロウとマキアスはちらっと目くばせをする。
そしてクロウの「乾杯!」という掛け声と共に手に持ったグラスを重ねてお酒を飲み、そして食事を始めた。
離れて生活をしているから今皆がどのような生活をしているのか気になるもので、話題に華が咲く。マリネにガイウスとの生活を聞いてはフランは顔を時々赤らめて口元を覆う。
「……二人って、学生の時からそうだったけど、その……スキンシップが多いというか。普段からそんな感じで、色々と持つの?」
「持つ?うーん、これが当たり前みたいな感じだから」
「マリネってやっぱりすごい……」
「フランちゃんもクロウにやってみたら?」
「えっ!?……と、というかそれを実行してとんでもないことになったからマリネの言ってることをそのまま実行すると……」
「とんでもないこと?」
「こっちの話だから気にしないで頂戴!」
本人達は無意識にしているのだから、昔からお互いを知り尽くしているガイウスとマリネの関係が少し羨ましくも思える。勿論、マリネに教わった事をそのままクロウにするととんでもないことになるとは分かっているのだが。
マリネは首を傾げながら、くっとコップに残っていたお酒を飲みほしてまた新たに注いだ。
「で、マキアス。俺のありがたーいアドバイスは有効に使ってんのか?」
「っ!?げほっ、な、なんですかいきなり!」
「よぉく分かってんだろ?付き合ってもう三年経って遠慮とかも殆ど無くなってきた筈だ。そうなれば、必然的に要求したくもなるだろうが。お前も男だしな!」
「何ですかその理屈は!まんまと策略に嵌ってクロウの言葉に流されたことも無くはなかったが……ま、まさか、フランにも……」
「あー……いや、まぁ、知らなくてもいいことはあるからな。うん。それより、ティナの可愛い所、もっと見て見たいだろ?」
思いっきり誤魔化され、マキアスは自分に語っている内容がクロウにとってはほんのごく一部でしかないことを感じてフランを気の毒に思うのと同時に一体この人はどれだけ欲求を曝け出して受け入れてもらっているんだと疑問にも思う。そしてそんな甘い誘惑に抗おうとするも好奇心はあるもので。言葉に悩んでいると、クロウとマキアスがひそひそと会話していることに気付いた二人が声を上げる。
「ちょっと!?クロウ、何話してるの!?」
「まさか、また色々と吹き込もうと……!」
クロウが赤裸々にマキアスに対して何かを語っていると気付いたフランからの怒声が飛び、ティナの冷たい視線が突き刺さる。クロウは笑みを浮かべて悪い悪いと応えるが、全くと言っていいほどに反省の色は見られないし、マキアスは顔を真っ赤に染めている。
呆れながらも追加の料理を軽く作る為に立ち上がったフランに、手伝うとティナも立ち上がりキッチンへと向かった。
「……ごめんなさい。クロウが色々変なこと言って。まったく、どうしてこうも羞恥心が無いというか欲に忠実と言うか……」
「……クロウとフランって、本当に正反対だけど、お似合いだよね」
「えっ?ど、どうしたのよ、急に……」
「二人には幸せで居てもらいたいなって。私達にとっても、二人が幸せそうにしてるのを見ると、幸せな気分になるの」
「……ありがとう、ティナ。でもね、それは別に私達だけに限った事じゃないわよ」
「え?」
「ティナがマキアスと一緒に居て、幸せそうにしてるのを見ると凄く嬉しいの。だって、ティナが怖がってた頃とか、悩んでた頃を知ってるから。マキアスと一緒に居て、良い意味で変わったティナが少し羨ましい位よ」
「勿体ないなぁ……」
「なにが?」
「ううん、何でもない」
ついついクロウから引き剥がすべきかと考えてしまうが、それでも二人はやはりお似合いのように思えて。相手の幸せを願っているのは自分だけではなかったのだ。偶々元日のドライケルス広場でクロウと居た姿を見かけたことはそっと胸の内に秘めておこうとティナは柔らかく微笑んだ。
簡単なおつまみを手に戻ってくると、料理を待っていましたと顔を輝かせてコップを置いたマリネはそれを受け取る。
「もしかしてちょっと酔いが回って来てる?」
「まだまだ行けるよー!料理もお酒も美味しいし、やっぱり皆で集まると楽しいね」
「ふふっ、お酒を飲んでマリネのそういう幸せそうな所見るとこっちも幸せな気分になるのよね」
「フランちゃんも飲もうよ〜!まだあんまり飲んでないよね!」
「じゃあ、頂こうかしら」
上機嫌に笑っているその顔を見ているだけでもこちらまで楽しくなってくるもので。マリネに注がれた飲みやすいお酒を入れられたフランは遂に本格的に呑み始める。それが飲みやすいとはいえ度数が高いものだとは知らずに。
そしてそこから出来上がるのは本当に早かった。2杯を飲んだ時点で顔を赤く染めてクロウの手を取ったりと甘え始めていた。そんな姿を人前で見せるなんてことは先ずしないし、二人きりの時でもあまりしないのだが、相当酔いが回っているのだろう。
だが、マキアスとガイウスもそんな事を気にしていられる余裕は無かった。マリネは眠たくなっているのか瞼が半分落ちて身体が揺れているし、ティナは顔にこそはあまり変化が見られないが、酔いが回っているティナの言葉でマキアスが照れたように口元を手で覆っている。
「フラン、おーい。大丈夫か?」
「ふふ、クロウの手、あったかい……いっしょに座っていい?」
その誘いに嫌と言う理由も無く、ふらりと立ち上がったフランの手を引いてクロウは膝の上に乗せた。そのまま凭れ掛かって来て、クロウの腕を抱き締めて幸せそうに微笑む。こんなに進んで身体を寄せて来るまでくると正常な思考ではないだろう。あぁ、フランがお酒に弱くて良かったと改めて思い、空いたもう片方の腕で抱き寄せる。
「まったく、……俺を甘やかすって言ってたのにな」
そう言いながらも、クロウは幸せそうに優しく笑っていた。クロウとしてはフランがそう言ってくれるだけでも十分嬉しかったのだ。
しかしやはり元来の性分故か、自分が基本的にはこの意地っ張りで甘え下手なフランを甘やかしたくなるもので、甘えてくれる度に幸福感に満たされるものだった。
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