ALICE+
2017/05/07 18:17
クロスオーバーSS
菊流さん宅のレイさん、ユリウスをお借りしています。クロウとユリウスの会話その2。
ーーもしも出会っていなければきっと親族以外の誰かに対して愛情を抱くことも、今の幸福を知ることは無かったのだろう。女子二人が互いに羨む所を語り合い男子二人が変に意気投合していないか心配していた中、そんなことを実感しながらクロウとユリウスはお酒を交して自分達が愛する人への想いを口にしていた。それはきっと彼女達もあまり聞いたことが無いような本音だろう。
「そういえばさっき、他者との幸せを本心では願えないまま命を散らそうとしていた、って言ってたな?」
「……あぁ」
「深く聞くことはしねぇが、アンタは一体何の信念を天秤にかけて、あのレイって子を諦めかけたんだ」
それはクロウの単なる好奇心からの問いではなかった。
愛する人が居るのにも拘らず、その人との幸せな未来を選ばずに信念を優先して死を迎えるなんて経験をする人間なんて世の中にそう居るものではない。だが何の偶然か因果か、クロウもユリウスもその選択をして偶然奇跡的にも今の幸せを掴んだのだ。
とはいえ、両者が辿って来た道も、選択も異なる。だからこそその時の葛藤を、迷いを完全に共感することなど出来はしない。
「……信念、か。君は自分の世界でないと言えども……多くの人々を、或る世界を、愛する人を手にかけて壊したことはあるか?」
「……」
「……いや、何でもない。変なことを言ったな。忘れてくれ」
その手に握られたグラスの中の酒が震えて波紋が出来ているのをクロウは見逃さなかった。
クロウは当然分史世界とそれに関わるクルスニク一族の宿命など知らない。分史世界を壊す手段を唯一身に付け、世界を救う宿命を背負っていながらもその世界を壊す度に自らも時歪の因子になる皮肉な運命ーー限りある命を知りながら弟を守る為に、時歪の因子がルドガーだった時も手に掛けた。その感触は今でも消える訳ではない。
唯一の救いはレイが時歪の因子だったことが一度もなかったことだろうか。しかし、その命が尽きると分かっているのに、レイを深く傷つけると分かっているのに、手放すことが出来ない自分を何度戒めてきただろうか。
「俺は家の宿命を呪いながらも愛すべきものの為に戦った、それだけだ」
けれど弟を守り、その道を示すことこそが彼の生き甲斐でもあり、クロウの言う"信念"に当たるのだろう。
ユリウスは酒を一気に飲み保してテーブルにグラスを置く。カランと氷が音を立てた。それ以上を語らなかったが、クロウは十分だと言わんばかりに瞳を閉じて、そうかと呟き、ユリウスに新しい酒を頼むとぽつりと語り始める。
「……これはとある青年の物語なんだが」
「?」
「その青年は、仲間に背を向けて自分の信念を貫く為に、引き金一発で大国の戦争を引き起こした。たった一人を私情で殺す為だけに手を血で染めて、余りに多過ぎる人間を殺した」
クロウが淡々と語った"物語"にユリウスは彼自身の話なのだろうと察したが、そのことについて問いかける無粋な事はしなかった。
ユリウスとは異なりクロウは生まれながらに背負った家の使命や宿命、そしてそれに関する葛藤なんてものもなく、ただ個人的な感情で復讐したに過ぎなかった。ユリウスやフラン以上に傲慢な信念だからこそ、罪悪感もあるのだ。
「話を聞いて思ってたが、アンタとフランは決断の仕方が多分似てる」
「あの子と……?いや、それはないだろう」
こんなに血に濡れた欠陥のある自分と、目の前の青年が愛する真面目かつ気高い令嬢の彼女と似ている訳が無いとユリウスは否定するが、クロウはフランの本質も知っているからこそ冷静に見ていたのだ。
「例え両親に突き放されようと家の名に誇りを抱いて、手を血で染めることも厭わずに、家の使命を何の疑問も抱かず苦しみながら果たしてた。傷を傷だと思わないことで突き進んできた。それは間違った強さだけどな」
「……何故、あの子は潰れなかったんだ?」
「そこがアンタと同じ……俺と会う前まではフランには兄弟が居たからだ。まぁ、守る立場じゃなくて守られる方だったが。俺には兄弟も居ないからな。そういう所が分かるのは羨ましい」
心から大切だと思える兄弟を持っている彼らの共通点が羨ましいという本音を吐き出した。幼少期、身近にいたのは亡くなった祖父しか居なかった。フラン達のように躓きかけても、周囲が見えなくなっても、何時も傍に居てくれる家族が居たらどうだったのだろうかと考えずにはいられない。
そこまでフランについての話を聞くと確かに自分と似ている所があるのかもしれないとも思うが、ユリウスは自分との決定的な違いを分かっていた。穢れを、社会の歪や闇を知っていながらもフランは高潔であろうとした。
「……彼女と違って自身の名に誇りよりも戒めを覚えている。だからこそあの気高さは感心するな」
「だが俺達は自分の信念を譲れなかった。だから、正面から命を賭けて戦った。……あれがなければ今の俺達が無いってのは分かってるが、あんな事あるべきことじゃねぇ。それを考えると、アンタのその葛藤だとか影を知っていながら隣で支え続けてくれたあの子の強さもすげぇよな」
「そう、だな……レイ自身は自分を卑下するが、レイだったからこそ俺が救われて、気を緩められる。俺には無い純粋な価値観……ルドガーとも違うそんな彼女の強さに、救われた」
ユリウスがその弟、ルドガーを心から愛しているというのは会話の端々からひしひしと伝わってくる。何せ命を賭けてでも守り抜こうとしていた存在だ。
自分がレイの立場だったら恐らくそんな家族愛に割り込む隙は無いと妬んでしまう位の強い想い。けれど、そんなルドガーとはまた違うベクトルでユリウスはレイを強く愛して、新たな心安らぐ居場所としているのだ。
「それ、ちゃんと本人に言ってやってるか?」
「……気恥ずかしさもあって何時もではないがな。一応言っているつもりだ。伝えなければ彼女は俺達に変な遠慮をして、本音を押し殺してしまうからな」
「あんまり本音を言わないのか。あー……そうだな、イメージでしかねぇけどお淑やかだし遠慮して恥ずかしがりそうだな」
「まぁ、だからこそ伝えてくれた時が嬉しいのもあるし、それも堪らないものだが」
大分良い具合に酒も回って来ているのか、ユリウスがぽろりと零した言葉にクロウは食い付いた。彼もまた愛情を伝える機会が多いとは言えないが時々、気恥ずかしそうにしながらも心から想っている言葉を伝えてくれるのが堪らなく嬉しいと感じていたのだ。
「今傍に居てくれる幸せの余り、つい歯止めが利かなくなって彼女を困らせてしまっているかもしれないな」
「へぇ、こーんな真面目そうなエージェントサマも欲求には逆らえない訳だ」
「……俺も男だからな」
口角を上げて笑ったユリウスに、クロウは悪戯っぽい笑みを浮かべて納得する。真面目で紳士的に見えながらも彼は確実にこういう面でも自分と同じ性質を持っているのだと。
「あの子ならアンタがどんな要求をしても、全部受け止めて甘やかしてくれそうだな〜。しかもこう、肝心な時に無意識に煽りそうなタイプだ」
「……っ、間違っては無いが。そんなレイに耐える程俺の理性も強くない。ところで、君の場合はどうなんだ?」
「俺か?こっちは何せフランが素直じゃないわ変な要求しようとすると冷たい反応して反発してくるけどな。けど、本当は満更でもねぇのか最終的に甘えてくるのが堪らなくてつい、な」
「……どうやら君にかなり振り回されているようだな」
「おいおい、そっちも同じだろ」
彼女を振り回しているのはお互い様だと笑ってそれぞれ想い人との夜を頭に浮かべる。スイッチが入って強引になる頻度の多い彼らを、受け入れて更に煽ってタガを外させる彼女達にむしろ振り回されてるのかもしれないと笑う。
「しかし、離別して対立した位なのに、よく君に受け入れられているな?」
「なんつーか、なし崩しって言うか力ずくって言うか……無知だった相手の基準をちょーっと壊してそのまま教え込んで行っただけだよ」
「あぁ、それに関しては同感だ。相手が知らなければ知らないほど、都合はいい」
「やっぱり紳士の皮被ってるよなぁ」
お酒の勢いもあってそんな会話がされているとは知らず、この会話が今後それぞれの家でどんな影響をもたらすか知らず、女子は会話を弾ませながらも不安を隠せないのだった。
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