ALICE+

2017/05/07 18:18


クロスオーバーSS

菊流さん宅のユリウス(X2)とクロウのお話その3。
少し飲まないかーー珍しくユリウスの方から連絡を受けてクロウは前回の店とはまた違う指定されたバーへと向かった。

今日はフランとレイが食事に行っている事を聞いていたのだ。偶にある女子同士の食事もいいだろうとクロウはフランを見送ったのだが、レイの相手であるユリウスも当然今日は一人だった。
ユリウスに指定されたバーは料理も美味しく、ピザが美味しいと有名らしい。トマトが贅沢に使われたピザを嬉しそうに頬張りながら時々ワイングラスを傾けるユリウスに、クロウはそういえばレイが何時だったかトマトが凄く好きなのだと言っていたのを思い出した。

しかし、クロウとしては料理を堪能する前にどうしても彼に訴えておきたい文句があった。

「……アンタのせい……お陰で、あの日は濃厚な一夜になったぜ」
「それは何よりだ」
「くっそ、やっぱり性格悪いだろ!」

意地悪に笑う余裕のあるユリウスに悔しそうに叫び、あの日酒にスポーツドリンクを混ぜられて完全に酔い潰れ、してやれたのをクロウは僅かに根に持っていた。
彼女との性交に不満がある訳ではないが、攻めるのが好きなクロウにとって何も出来ずに受け身に回って終わるなんてクロウも複雑だった。
機嫌がいいフランに隙が出来るのは嬉しいことだが、男として非常に情けない姿を見せてしまったような気がする。記憶は確かではないけれど。

「それで?察するにアンタはちゃーんと俺の囁きを試したに違いないと思ってんだが」
「……まぁ、こちらもそうだな。新たな一面を見ることが出来たーーとでも言っておこうか」

言葉を濁したがそれが一体何を意味しているのか察したクロウはにやにやと口角を上げて「へぇ?」と興味深そうに相槌を打った。
紳士的で居たいと、彼女を呑み込みかねない欲望で翻弄して壊してはいけないと思う反面、それ以上に理性を持ち合わせながらも獰猛な感情が燻っている。意地悪をして彼女を翻弄し、自分の本能のままに抱かれて蕩ける顔が見たい、自分の名を必死に呼ぶ甘い声が聞きたいーーそんな一面を持ち合わせたユリウスが居て、何かの拍子に実行に移す人間なのだと、クロウは分かっていた。

「な?自分に縋ってくるあの子は堪らないだろ?」
「……はぁ、その欲求を常日頃から隠さない君の言葉を鵜呑みにした訳ではないと言いたいが……そうだな、堪らないのは、確かだ」
「ささやかな幸せを提供するきっかけが作れたなら俺も諭した甲斐があるってもんだ」
「君も堪らない経験が出来ただろう?」

ユリウスの冷ややかな反撃に、クロウは引き攣った表情に変わり、気まずそうに頬を掻いた。確かにあの日はされるがままで終わってしまったが、クロウはそれだけで終わらない人間だ。酒をくっと一飲みして、悪戯に口角を上げる。

「うちはいいんだよ、確かにあの日はされるがままだったけど何の問題もねぇし。一回の優位で上機嫌になってすぐ油断するフランを苛めるのはより一層楽しいしな」
「分かってはいるんだが、やはり何故真面目な彼女が君と一緒に居るのかって時々不思議になるよ」

どうして二人が一緒になったのかはもう十二分に分かっては居る筈なのだが、クロウの発言を聞いているとどうしても不安を覚えるというか、気の毒に思ってしまうのだ。しかし何もそれは自分の話だけではないだろうとクロウは肩を竦めてユリウスをじっと見据える。

「くくっ、そりゃお互い様だろ。狡さは寧ろユリウス、アンタの方が上かもしれないぜ?あの子はちゃんとその狡さを知った上で付き合ってくれてるんだろうが」
「そうだな……レイが俺の狡さに気付けるくらい、甘えきってしまってはいるが」

ユリウスが僅かに見せた憂いの表情に、クロウはからかうような言葉選びを止めて真剣な眼差しへと変わる。思い出すのはあの日、目覚めた後に耳に届いた聞き慣れた子守唄のメロディだ。

「無償の愛情……こちらが何かを与える見返りに貰える優しさや愛が基本になっていた俺にはあまりに新鮮で、怖かった。勿論、レイはきっと自分が愛を与える為に俺が何かを与えなければいけないなんて思っていないだろう」
「見返り、か」
「はは、悪い意味ではなく、傲慢で在れる君が羨ましいよ」
「……そりゃあ勘違いだ」

ユリウスの言葉にクロウは静かな声音で否定をし、首を横に振った。
自身の欲求に素直で、それを相手に臆することもなく伝えて受け入れられて躊躇うことも無い関係は自分達にはない物だし、吹っ切れるのにも幾つかの要因が重なった時にしかなかなかできないユリウスにとっては羨ましかったのだが、勘違いとはどういうことだろうかーークロウは昔を思い返しながら自嘲した。

「俺は、一緒に過ごした間の俺自身を偽りだって言った。確かに"悪い意味"では俺は誰より傲慢だろうよ。けど、ただで貰える愛情や厚意をフランと付き合って暫くするまではそうやって嘘の自分を取り繕って距離を取って誤魔化すしか出来なかったし、その距離感を壊されるのが怖かった」
「……」
「けど、アイツに介入する言い訳が欲しかったから無理矢理手を出す手段を選んだ。傲慢で臆病なんだろうな。本心を見抜かれるのが怖かったし、何せ俺達は敵対してたからな。今ではそんなことねーけど、アンタに羨ましがられる程じゃない」

むしろ己の信念や傲慢さを認められて相手が隣に居てくれたのは俺達には無かったものだとクロウは語った。

ーーあぁ、やはり何度も思った事ではあるが、この男とは似ているのかもしれない。

何のフィルターもなく正直な感情をぶつけ合うことが苦手で無償の愛を畏れる臆病者で、でも外の世界では順応できるように本質ではない偽りの顔をあたかもそれだけであるように振舞ってしまう嘘つきで。

「君は、誤魔化すのをやめたのか」
「あぁ、フランに対してはな。アンタはまだ、迷ってるみたいだな。あの子に自分の欲望をぶつけるべきじゃないって。ただ、そんな事言いながら狡さを隠してやがる」
「……レイを傷付けない為なら、その狡さも情欲も誤魔化し続けるぐらいの覚悟はあるさ」
「ふーん、誤魔化し続ける、ねぇ」

それがユリウス・ウィル・クルスニクと言う人間で、生き方だったのだろう。自分にはとても出来ないような我慢だとぼんやり考えるのと同時に、その思いをレイが知ったらどう思うのかと考えた所で『そのままでは駄目だろう』と思ったクロウは余計なことをあまり言わない方がいいとは分かっていながらもその本質ゆえにか"お節介"をしてしまいたくなったのだ。

「いーや、あの子はそういうのに敏感だろ?俺らが相手にそういう本音を誤魔化されるのが嫌なように、あの子だってあまり気遣われると何かを察して気にするだろーよ。それでも誤魔化し続けるのは酷だぜ、おにいさん」
「酷、か……そんなことを考えたことが無かったが、受け入れたいと言ってくれているレイに……それも失礼なことなんだろうか」

きっと、誤魔化し続けるのはある一種の嘘をつき続けている事と同じなのかもしれない。自分が本音を隠して優しく紳士的に居たとしても、時々心配して不安そうな顔をしているレイが居たことを思い浮かべてーー胸が痛んだ。
自分から積極的に何かお強請りをしたり誘ったりすることなんて苦手な筈なのに、自分の為にしてくれた彼女の決意はどれだけのものだったか。

「『後悔してもきっともう遅い』と思いながら一度だけだと、手を出してしまう……それが俺なんだろうな」
「アンタはきっとそれが合ってるってこった。そうやって後悔しそうになってもあの子が繋ぎ止めて優しく受け入れて、ただのユリウスって男を愛してくれるんだからなー」

あぁ、そうか。その事実を他人に言われて初めて実感した。彼女は狡さも罪悪感も過去も含めて自分と言う男を愛してくれているのだと。知ってはいたが、だから狡い自分も全て見せていいのかもしれないと腑に落ちた気分だった。

「まったく、年下の君にこんな風に諭されるのは悔しいな。そうだな、俺からも一つ言わせてもらうとしたら……君は一度紳士になってみたらどうだ?」
「俺が紳士に?」
「何時も押しているなら引いてみろということだ」
「……なるほど、試してみる価値はありそうじゃねーの」

悪戯に笑ったクロウにユリウスは内心この発言が彼女に迷惑をかけることになるような予感がしていたが、この男に対してのちょっとした反撃をしたかったのを理解してもらいたい限りだ。


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