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2017/05/07 18:19


クロスオーバーSS

菊流さん宅のユリウス(X2)とクロウのお話その3。お誕生日おめでとうございます!
エレンピオス社のユリウス・ウィル・クルスニクの住むマンション・フレールにクロウとフランが呼ばれたのは秋が深くなってきた、少し肌寒く感じる頃だった。結婚した彼らは元住んでいた三〇二号室の隣に居を移したらしいが、隣の部屋にはルドガーとエルが居るからどうやらあまり別々に住んでいるという感覚は無いようだ。
フラン達が住んでいる帝都では、このような近代的な建物はあまりないから物珍しかった。街並みは比較的、クロスベルに似ているだろう。


「お邪魔します」
「いらっしゃい、フランちゃん、クロウ君」
「何か近代的なマンションって感じだな。うおっ、なんだあのトマトの山」
「……あれはユリウス用のトマトなんだよね」
「おいおい、好きにも程があるだろ」


クロウの目に真っ先に入ったのは、キッチンに置かれているトマトの山だった。そう言えばユリウスは無類のトマト好きとは聞いていたが、これ程常備してあると偏食ではない人間からすると驚く量だ。
既に隣の部屋に住んでいるというエルとルドガーも来ていて、テーブルにはグラスとマットが用意されていた。


「あ、メガネのおじさんの友だちって言ってた人?いらっしゃい!」
「ありがとう、お邪魔します。私はフランっていうの、宜しくね」
「俺はクロウだ。ちっちゃいのにしっかりしてんじゃねーの」
「なんかこの人アルヴィンにちょっとフンイキ似てる……」
「それ褒めてんのか貶してんのかよく分かんねーんだけど」
「……褒めてはないな」


手を伸ばしてくるエルに視線を合わせるように少し屈むと、フランはその手を握って握手を交わした。クロウの言動や雰囲気がアルヴィンの良くない所も含めて似ていると感じ取ったエルが零した言葉にフランとクロウは首を傾げるが、ルドガーの言葉にクロウは得るの頭をわしわしと撫でまわした。
「何するのー!」と抗議するエルだが、一気に距離感を縮める辺り、クロウはやはり小さい子に対しての触れ合い方が上手い。


「今からご飯の準備しようってフランちゃんと話してたんだけど、ルドガー達はどうする?」
「エルもお手伝いするー!ルドガーも!ルドガーのスープは世界で二番目に美味しいんだから!」
「に、二番目?」
「そう、二番目!」


二番目という褒め言葉は果たして褒め言葉なのだろうかとフランは不思議そうに首を傾げるが、誰が一番美味しいスープを作るのか知っているルドガーにとっては、それだけでも十分な褒め言葉だったことを、二人は知らない。
キッチンに四人も向かったから自分は要らないだろうと、クロウはユリウスが既に座っているテーブルに向かい、椅子に腰かけた。


「んじゃ、俺は美味しい飯が出来上がるのを待ちながらつまませてもらおうかね」
「酒を入れ過ぎて粗相をするなよ?」
「……わざと入れて来たアンタが言うなよな」


前にスポーツドリンクを少し混ぜられて酔いやすくされた挙句、その後フランに対して情けない姿を見せてしまったことをやはりクロウは未だに若干根に持っていた。悪戯に笑うユリウスに対して内心どこか優秀なエージェントだ、どこが紳士的で優しいんだと悪態をつきながらも互いのグラスに持参したワインを注ぐ。
そしてグラスを重ね合わせ、二人はテーブルに置いた皿にクラッカーなどを並べて飲み始めた。視線を移すとそれぞれの奥さんが仲睦まじく料理をしている様子は癒される気分になる。


「あんな奥さんが待ってくれてるんだから幸せもんだなー」
「そうだな。……幸せだと思う分、不安も広がる」


ルドガー達と談笑しながら楽しそうに料理をするレイの笑顔を見て、ユリウスはぽつりと零した。グラスに入ったワインの表面が揺れてじわりじわりと波紋を生む。
家族を得るということがどういうことなのか、夫となってからまたその価値観は変わっていった。


「"家族"というものに漠然とした憧れがある分、時々この幸せが怖くなるな。俺がちゃんとレイを幸せにしてやれるのだろうかとな」
「……?アンタ、あの弟が居るんじゃなかったのか?」
「血は繋がっているが色んな経緯があって引き取った、と言った方が正しい。親に恵まれなかった俺が親の真似事をしていたんだ」


ユリウスは親の愛情を受けて来なかったし、憎悪さえ感じている所もあったかもしれない。ルドガーを引き取り、兄として親代わりのようなことをして彼を見守ってきたつもりではいたが、そんな人間が所帯を持つなど、夫として務めを果たせているのか、自信はなかった。
家族というものに憧れていたって、それを形作っていくのは他の誰でも無い自分自身だ。

へぇ、と興味深そうに呟いたクロウだが、ユリウスの恐れは他人事ではなかった。罪を犯してきた人間が、家族を失い故郷も捨ててきた人間が本当に愛した人を幸せに出来るものなのか。良き夫であれるのか。
何度も考えたことではあるし、今も悩み続けてはいる、答えが出るまでは時間のかかる問だった。


「……ま、深く考え過ぎることじゃねぇんじゃねーの?」
「……」
「あの弟君はそんなアンタの背を見て真っ当に、誇れる男に育ったんだろ?家族に与える愛情に間違いはなかったってことだ」
「……君は、飄々としているように見えて時々真理を突くような事を言うな」
「なーに、エゴだろうが、相手を守ろうと出来た愛情は立派だろうよ」


クロウの言葉に、ユリウスはゆっくりと目を開く。相手を愛する時、過保護にただただ甘やかすように守るばかりでは居られないのは現実だ。時には傷付けてしまうような嘘も、優しさも愛情に反映されてしまう。それが人というものだから。
それでも、守りたいと願い、相手が幸せだと感じてくれるような愛情ならば、それは間違ってはいないだろうとクロウは考えていた。それも、フランに教えられたことではあるが。

レイは、間違ってはいないと言ってくれるだろう。自分は幸せなのだと言ってくれるだろう。でも、ユリウスは、仮にあったかもしれない自分や他の人間のそんな幸せさえも残酷に、残虐に、腹いせのように行き場のない虚脱感や憤りをぶつけるように壊してきたのだ。


「もし、もしもだが……こことは違う、けど住んでいる人たちは同じ"平行世界"のような夢が存在して、そこで自分達が幸せそうに暮らしているのならどうする?その幻想でしかない夢を、終わらせるか?」
「おいおい、また突拍子もない例えだな?」
「……そうだな、突拍子もなさ過ぎる非現実的な例えだ」
「……まぁ、立場にもよるが。夢を壊さなきゃ現実が食われちまう状況なら、俺は迷いなく人殺し……いや世界殺しの大罪者になるだろうよ」


そこに彼女がもう一人の自分と幸せそうに笑っていてもか?というユリウスの問に、クロウは苦い顔をしながらキッチンで楽しそうに笑うフランに視線を移し、思い出される過去の苦味を流すようにくっとワインを飲み干す。
己の願望の為ならば、どんな犠牲も払ってきたからこそ、決して非現実的なことだからと楽観的に考えて口にしたのではなく、重みを含んだ答えだった。


「だが、罪も業も全部背負って……どの世界よりも幸せな二人になっちまえ」
「……君は傲慢だな」
「あぁ、他の奴らよりも多少傲慢に生きて来たのを見栄這って今更謙虚になるなんて出来ねぇって俺はよく知ってるからな。アンタも、そうだろ?」


答えはしなかったが、目を瞑ってユリウスはこれまで自分が行ってきた、使命と名付けた行為を思い返し、納得した。
それは世界の為の正義とも言えるかもしれないが、他の人間よりも罪深く、傲慢だ。
しかし今更その生き方は変えることは出来ないし、『罪も業も全部背負って……どの世界よりも幸せな二人になっちまえ』というのは言い得て妙というか、クロウとユリウスの在り方を示した的確な表現なのかもしれない。


「……俺達はそれでいいのかもしれないな。……どの世界のユリウスよりも、幸せになっても、彼女は許してくれるからな」
「はは、そうじゃなかったら結婚してくれてないだろーよ?レイもそういう覚悟だろ?」


傲慢な男を愛してくれた女性に、返していきたいものはあまりに多い。それこそ、生涯をかけてと言っても間違いではないだろう。
レイが与えてくれる幸福や愛情に素直に身を委ねてしまっても許されるだろうーー他でもないレイに。

話し込んでいると料理も出来上がったのか、キッチンの方からいい匂いが漂ってくる。


「二人とも出来たよ、お待たせ」
「スープはルドガーが作ってくれたトマトスープなんだけど、味見したら美味しくて驚いたわ」
「さーて、今までサボってた分運ぶかねー」
「えっ、ちょっとクロウ、もうこんなにワイン開けたの?ユリウスさんまで……」
「彼にはつまらない話に付き合わせてしまったからな」
「……?」


つまらない話、と言っている割にはどこか晴れ晴れとした顔のユリウスに、フランは疑問符を浮かべる。
既に立ち上がって料理を運ぶ為にキッチンに足を運んでいたクロウはレイに指示を仰ぎ、出来上がった料理を入れた大皿を持つ。


「本当はお客さんのクロウ君に任せるのもどうかと思うんだけどね……」
「気にすんなって。これ、人数分入ってるせいか結構重いしな」
「えっと、ありがとう」


サラダといえども、人数分が入っている皿は女性が持つにはかなり重たいだろう。ふっと笑みを零すレイに、クロウは独り言のように呟いた。


「俺にはアンタらに何があったかまでは知らねぇけど。飽きれたくなっても我儘だと思っても、それでもどの世界のユリウスよりも、愛してやれよ」
「え……」
「クク、いい加減な男のお節介だよ」
「……ふふ、勿論そのつもりだよ。寧ろ、私じゃ聞けない男の人同士だから話せるユリウスの悩みを聞いてくれてありがとう」
「……のんびりしてるように見えて、やっぱ鋭いよな?」


非力に見えるかもしれないけれど、人の不安に寄り添って共感し、時に悩みながらも支えられるだけの芯の強さもある。弟に対して無償の愛を与えるだけで満足していたあのユリウスを、優しく包んで愛し抜けるのは確かにきっとレイしか居なかったのだろう。
レイにはきっとユリウスが零した不安の意味も解っている。幸せをお裾分けしてもらった気分だと笑いながら、クロウはテーブルへと戻った。

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