三週間ほど前、幼馴染である出水くんのお友達の、米屋くんに告白をされた。「ずっと好きだった、俺と付き合って」。その言葉は魔法みたいで、わたしは「はい」となんとなく頷いてしまった。米屋くんは苦く笑って、「それって、俺のカノジョになってくれるって意味で取っていーの?」と更に言った。わたしはそれを聞いて、もう一度「はい」と言った。

米屋くんはさっきまでと打って変わってとても驚いた表情をしてみせたけれど、すぐにふっと頬をゆるめて、「じゃあ、よろしく」と言ってくれたので、きっとそのときに私たちのお付き合いというのは始まったはずだ。




「……まあ、その感じだとそーなるな」
「だよね……?そこは間違ってないよね?」
「あー、間違ってはないけどなんかおまえ……、いやまあ……そもそも相手が槍バカだしな……」
「やり?」
「こっちの話」

出水くんはスマホを弄りながらもわたしの話を聞いてくれている。器用だなあ。昔っからそうだ。なんでもできる。だいぶ前からボーダーのすごい部隊の一員として戦ってるって言うし、なのに学校ではそこそこの成績をキープしている。大してとりえの無いわたしなんかとは大違いだ。

今だって、わたしの「米屋くんはわたしにあんまり興味がないみたいで、わたしは本当に米屋くんと付き合ってるんだろうか」というアホみたいなまとまりのない相談を真面目に聞いてくれている。できた幼馴染だ。

そもそも米屋くんは、どうしてわたしなんだろう。彼もまた、ボーダーのすごい部隊に所属しているときいた。出水くんと仲良しだから、その近くに居たわたしになんとなく良い印象を抱いて、それでなんとなく、告白をしてくれたのかもしれない。

だから、もうすぐ一ヶ月が経とうとしている今までも、一度も一緒に帰ったりだとか手を繋いだりだとか、そういうことをしないのかもしれない。




「殺気しまえっての槍バカ」

出水くんが薄っすらと笑いながらそう言った方向へ顔を向ければ、いつも通りの笑顔にいつもと違う雰囲気を貼り付けた米屋くんがそこに立っていた。

「借りてくわ」「おう」という主語の無いやり取りのすえに「ちょっと来て」と米屋くんに腕を引かれ、されるがままに立ち上がる。すたすたと歩くその無言の背中はすこし近寄りがたいような気もしたけれど、歩調がわたしに無理のない程度になっていて、心臓がほんのり温かくなった。

「出水とさ、何話してた?」

空き教室でふたりきりというよくわからないシチュエーションにどぎまぎしているわたしに、米屋くんは優しく問いかけた。何を話していたか。思い出すのは一瞬だったけれど、それを米屋くんに伝えるのははばかられた。

「まあぶっちゃけ、出水から聞いてんだけどさ」
「えっ……?」
「俺が何もしないから、ほんとに付き合ってんのかなー、みたいな話?」

出水くんがずっとスマホを触っていたのは、もしかしてコレだろうか。米屋くんがわたしに一歩近づいたので、わたしはなんとなく半歩ほど下がってみたけれど、すぐ後ろは壁だった。「俺さ、」という米屋くんの言葉が鼓膜をすっ飛ばして脳に響いたみたいな、そんな距離だった。すこし腰を折ってかがんだ米屋くんの顔が近くにあって、真っ黒な瞳がわたしの動きをやんわりと止める。

「おまえおとなしいし、だから色々ガマンしてたんだよな」
「……が、まん」
「そ。……でもさ」

そのせいでおまえが他の男と喋るってんなら、もうやめにすっかな。

ほっぺたをするすると撫でられて、こないだできたニキビが治っててよかった、なんてのんきなことを考えながら、それとなく身体は強張っていた。それを見てか、「そんなすぐに手出さねーって」なんて言ってくれたことで、すこし緊張がほぐれた。

───けれども、そのあと。

「…と、思うじゃん?」

わたしがずっと視線を逸らせずにいた米屋くんの瞳が一瞬伏せられて、そして次に目が合ったときには、くちびるに一瞬、なにかが触れたような感覚があった。米屋くんの口癖であるそれを聞いたことは今まで何回かあったけれど、こんなにも意地悪な低い声で言われたのははじめてだ。

「これからはフツーにがっつくから、そのつもりでよろしく」

恋愛の順序なんか分からないけど、まだ手も繋いでないのに。じくじくと熱を持つくちびるを浅く噛んでその感覚をやり過ごしながら、わたしは結局なんとなく、「はい」と頷いた。




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