他愛のないこと

悟のことが好きだった。高校1年の夏か、冬か、終わり頃か。いつ恋に落ちたのかなんて覚えていない。それぐらい、いつの間にか生まれていた気持ちだった。そして自分の気持ちに気付いたその瞬間に、あっけなく失恋の痛みがやってくるような、苦い初恋だった。

悟にはいつも彼女がいた。彼女というよりも、遊び相手に近いものなのかもしれない。そこに愛があるかはさて置き、連絡を取り合い、デートをする、そんな関係の女の人が常にいて、任務終わりに会いに行くことがしばしばあった。一人の女の子とはあまり長くは続かないようで、よく傑や硝子はそんな話を聞いてはやんわりと、時にはクズだという硝子の罵倒とともに、悟を咎めていた。

そんなある日、その会話を聞いてしまったのは、本当に偶然だった。

「──まあ、たしかに悟の勝手だが、……あの子には、他の女と同じように手を出すなよ」
「あ? クラスメイトにわざわざ手なんか出さねーよ」

私の話題であることはすぐに分かって、だけど離れるタイミングを見失ってしまって。聞いちゃいけない話だと分かっているのに、足が動かない。

「それにアイツ、彼氏いたって聞いたことねーし、どうせ処女だろ? ……処女とか、めんどくせぇし」

頭を鈍器で殴られたような衝撃、っていうのはこういうことなんだなあと、回らない頭でぼんやりと思った。悟にとって恋愛経験のない女の子は面倒でしかなくて、私が悟だけを好きでいる限り、絶対に振り向いてくれることはない。

だけど私は、好きでもない人と付き合うのも、身体を重ねるのも考えられなくて、悟のことは諦めることに決めた。そもそも、私みたいに体術や組み手をして鍛えていて、任務で生傷が絶えない女を、どうこうしたい男の人なんていない。かわいくて、髪がサラサラでお肌がすべすべで、ほどよく柔らかい女の子の方が良いに決まってる。

その日からより一層、悟の女の子の話題を聞くのが嫌で、あまり真剣に耳を傾けていなかったので、私はその子たちの名前や容姿はほとんど知らない。ただ、悟の隣に並ぶ人ならきっと綺麗な人なんだろうなと漠然と思っては、勝手に傷ついていた。