蒼く短い春

2年になってほどなくして、たまたま教室で傑と二人になったとき、突然言われた言葉に私は固まった。

「君は本当に悟のことが好きなんだね」

その言葉を理解するのに数秒かかり、そして生まれた感情は、友人に恋心を知られた羞恥ではなく、気付かれてしまうほど態度に表れていたのかという絶望だった。台詞だけを見れば冗談とも取れるそれは、傑の声のトーンとその眼差しによって、揶揄いでもなんでもなく、ただ確信を得ただけの言葉として、私の鼓膜を焼いた。

背中に嫌な汗をかきながら絞り出した言葉は、「どうして」というたった4文字だった。

「安心して。悟も硝子も、気付いてないよ」
「っ、ほんと……?」
「ああ。……悪かったよ。そんな顔をさせたかったわけじゃないんだ」

そんな顔、とはどんな顔だろう。きっと酷い表情だったに違いない。わたしのこの気持ちが悟にバレたらきっと、もう友達ではいられない。任務の帰りに買い食いすることも、4人で徹夜でゲームをすることだって、きっとできない。それだけは嫌だった。

「お願い、傑。このこと、悟には、」
「言わないよ。……その代わり、週末を1日くれないか?」
「……週末?」
「ああ。もうすぐ母の誕生日でね。次の帰省のタイミングでプレゼントでも渡したいんだが、検討もつかなくて。女の子の意見が聞きたいから、買い物に付き合ってほしいんだ」
「それは別にいいけど……。私でいいの?」
「硝子が私と買い物に行ってくれると思うかい?」
「ふふっ、じゃあお供しようかな」

傑は私が悟を好きなことだけじゃなく、絶対に悟には気づかせたくないこと、そして悟にはいつも彼女がいて、私が最初から失恋していることも、きっと全て見抜いていたんだろうなと思う。その上で、気晴らしに外へでかけようと誘ってくれた。ここのところ雨続きであまり街へも行けず、正直言って気が滅入ってしまっていたから、少し心が落ち込んでしまっていたかもしれない。

「傑は優しいね」
「……そんなことないよ」

傑は悟と悪ノリするときだってあるけど、基本的にはいつも優しい。一緒にいてとても落ち着くし、無傷で任務から帰れば褒めてくれて、ほんの少しのかすり傷も心配してくれたりする。友達として私を支えてくれる大切な存在だ。 

それでも私はどうしようもなく悟を好きなまま、青春の3年間は過ぎた。

高校生らしいことなんて数え切れるくらいしかなくて、その代わりたくさんの傷を作ったし、正直、任務では何度か本物の死の淵を見た。そんな青い春だった。