01.わだつみに別たれ

「もう勝手に行ったりすんなよ! 絶対だぞ!」

ティーダに釘を刺され、皆の中央に引っ張り出されたユノは、前後左右を仲間に囲まれて移動していた。
その隣にはユウナが居て、たまに目が合うと穏やかに微笑みかけてくれる。

なんというか、本当に、甘やかされている気がする。
嫌ではないけれど……ここまでされてしまうと、どうにもいたたまれない気分だ。

そんなユノの葛藤は知らず、先々進んでいたティーダが倒れ込む少女と話しているのを見て、ワッカが手を振って呼びかける。
少女は全身水浸しで、少し疲れた顔をしていた。

「知り合いか?」

「えっと、まあ……そんな感じ」

「どーも! リュックでーす!」

「ほら、ユウナとルールーにはルカで話したよな。オレが世話になった……」

何故かその先の言葉を濁すティーダに、ユウナとルールーは顔を見合わせて同じく顔を曇らせる。
ティーダが世話になった相手ならそんな顔をする必要はないと思うのだが、何かあるのだろうか。

「そりゃおまえの恩人だろ、会えてよかったよなぁ。まったくエボンの賜物だ。で、リュック? 倒れてたみたいだけど、ケガないか?」

「ワッカ、ちょっと待って」

「ん? 何だよ」

「ちょっと……話したいんだけど」

「おお、話せよ」

「女子だけで話し合いで〜す! 男子は待っててください!」

リュックが高らかに宣言して、ルールーとユウナと共に離れた場所へ移動する。
初対面の筈なのだが、なんともまぁ息の合った。

「なんだありゃ?」

「まあいいじゃん! ところでさ、ユノ、そのフードもう駄目じゃないか?」

包帯の巻かれた背中部分にある布は、魔物の攻撃のせいで引き裂かれていた。
そのまま着ていたのだが、こういうデザインですというのは少し無理があるらしい。

「直せない……かな」

「うーん、ここまでザックリいってるとなぁ……」

「新しいの買えばいいじゃん」

ティーダの提案に、ボロボロになったそれを抱えるユノは頭を横に振る。

高価なものでも希少なものでもないが、かつての仲間に貰った大事なものだ。
今となっては唯一残った思い出の品。そう易々と手放したくは無い。

「つーかお前、フードの下そんなんだったのか。なんつーか……アレだな」

「寒そう?」

「いや、それもあるけどよ……」

ティーダの言うとおり寒くて、結局またそのフードを被ると、何故かワッカが微妙に残念そうな顔をした。

そうこうしている内に話し終えた女性陣が戻ってきて、ユウナがリュックと共にアーロンのところにやって来る。

「アーロンさん、リュックをわたしのガードにしたいんですけど……」

「……顔を上げろ」

「え?」

「顔を見せろ」

「あ、いいよ」

「目を開けろ」

リュックがゆっくりと片方の目蓋を上げて、見ていたアーロンが「やはりな」と溜息をつく。
周囲の人間にそのやり取りの意味は分からない。

「ダ……ダメ?」

「覚悟はいいのか」

「ったりまえです! というわけで、いいんだよね?」

リュックが皆に向き直って、かわいらしく小首を傾げた。
皆何も言わず態度で了承の意を示すが、ワッカは突然の話に納得できないのか渋る。

「リュックは、いい子だよ。オレも世話になったし」

「……そうだな、ニギヤカになっていいかもな!」

「そうそう。じゃ、あたしはニギヤカ担当ってことで!」

皆にOKを貰って、リュックは飛び跳ねるように皆の前に出る。
よろしくお願いしまーす!と元気良く挨拶した少女は、ユノの手を握ってぶんぶんと振る。

「キミも召喚士? だよね? 召喚士同士で一緒に旅してるの?」

「……うん」

「なんで?」

「俺が、一緒に居させて貰ってる」

「ガードは?」

「…………いな」

「俺だ」

いないと答えようとしたユノの声を遮るように、アーロンの声が重なった。
ああ、そういえば、そういうことになったのか。

「おっさんはユウナのガードじゃないの?」

「ユウナのガードで、こいつのガードだ」

「かけもちかぁ〜。そういやキミの名前は?」

「ユノ」

「オッケー、覚えた覚えた。あたしの名前は?」

「……リュック?」

「せいかーい!」

はしゃぐリュックに元気だなぁと思いつつ、ユノはその元気さがとても心地いいと感じた。

いや、気が楽、と言ったほうが正しいのかもしれない。
それはきっと、このメンバーの中で、後から入ってきたという点が自分と同じだったから。

でもきっと、彼女はすぐに馴染んでしまうだろう。
視線の先の少女は、今度はティーダに絡みに行っている。

「召喚士が増えたりガードが増えたり、ユウナの旅は騒がしいな」

やっぱり負担は負担かと、離脱はせずとも距離を取って歩こうとするユノの数歩先で、アーロンが立ち止まる。
振り返って、護衛対象が前に出るのを待ちながら言う。

「もう少し早く歩け」

「……ご、ごめん、なさい」

「謝らなくていい」

いつもどおりのすまし顔で歩く相手の言葉はどこか温かくて、ユノは下がっていた眉尻を戻して頬を緩めた。
そして小走りで少し前を行く。

「…………がんばります」

相手は何も言わず、しかし襟から覗いた口元は心なしか笑んでいた。
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