05.夢の跡 君は彼方へ
シンが生み出す重力場の嵐、それは大気圏外にすらも影響を及ぼす。引き寄せられていたものが一気に放出され、その力は陸を、空を、海を、全てのものを抉った。
まるで時が止まったかのような静寂。
そして次の瞬間、傷つけられた大地が悲鳴を上げるように爆発を起こし始める。
大崩壊の余波で皆が吹き飛ばされた。
飛空挺の船体に体が叩きつけられて、短い嗚咽が漏れる。
顔を上げれば、すぐそこにシンは居た。
ティーダはそれを、色んな感情の入り混じった顔で見つめる。
「くそオヤジ……」
『おい! シンの腕ん所、光ったの見えたか? ありゃ絶対なんかあるぜ!』
飛空挺内からのシドの声と共に、再び衝撃が襲った。
安定しない足場でなんとかして体勢を立て直す。
『ヤブミ!』
『ゴフキサァ!』
『シンシリチモヘナエセンガ!』
「シンに引き寄せられてるって!」
『おまえら中に戻れ!』
それに従おうにも、シンはもう目の前まで迫っていた。
逃げられる状況ではない、皆は仕方なく武器を手に取る。
眼前にあるシンの左腕にはシドの言う光の正体があった。
そのコアを標的に絞って、間合いを取りながらひたすら叩く。
『試しに一発かましてやらぁ! おまえら、そこで待機してろ!』
コアの光が弱まったところで、飛空挺はシンとの距離を開いた。
『行くぞ!』
飛空挺の主砲が火を吹き、見事コアに直撃。
左腕は吹き飛ばされ、大量の光を噴出しながら地上へと落ちていく。
「やった!」
「あ、でも、あんなもの落ちたら、地上の人が……」
「だいじょぶだいじょぶ。幻光虫で出来てるから、多分落ちる前に消えてなくなるよ。下は海だしね」
『おっし! この勢いで反対側もやっちまうぞ!』
「勝手に決めるなあ!」
飛空挺は反対側へと回り込み、今度は右腕のコアを破壊。
再び発射された砲撃に、右腕もシンの体を離れて落下していった。
『おっし! 次はどこだ!?』
『……トカニガ』
『ワロスアヘ! ヨエアナギャメネア!』
『ガッセ、キュロフズッヨカエヒヤッサモ!』
『ハンガソ!?』
飛空挺内から聞こえてくる声に、通訳を求めてリュックの方を見ると、彼女は至極残念そうに言った。
「主砲、壊れたってさ……」
『仕方ねえ、おまえら戻れ! 作戦練り直〜し!』
「いーや、行くッス! 勢いがあるときは勢いに乗るッス! これ、ブリッツの鉄則!」
ガッツポーズをして気合十分のティーダは、大胆にも甲板からシンへと飛び移る。
彼を見ていると、何にも負ける気がしない。
こんな状況なのに、その様子を見ていると自然と笑みが零れた。
「行くぞ」
「はい!」
アーロンが差し出してくれた手を掴んで、ユノは彼と一緒に甲板を飛び出す。
無事シンの背中に着地して、そこにある最後のコア目掛けて全力を叩き込んだ。
「よっしゃ!」
「って、おい、このままじゃ落ちるぞ!?」
『トヤネナ ラッラソソヂフユエ!』
「飛び移れって!」
「了解ッス!」
コアを破壊されたシンの巨体が傾き、ゆっくりと落下を始める。
横付けされた飛空挺に仲間が次々と飛び移る中、ユノは自分の脚力で足りるのか不安でもたついていると、アーロンに抱きかかえられた。
「わっ!」
「早く早く!」
アーロンの足がトンとシンの体を蹴って、甲板へと舞い戻る。
シンは欠落した両腕の付け根から光を撒き散らしながら、これまでのゴタゴタで今やほぼ無人となっているベベルへと落ちて行った。
「あ、あああありがとうござい、ます」
「ああ。……ところで、いつまで抱きついているつもりだ?」
笑っている相手の言葉にハッとして、ユノは慌てて両手を離す。
仲間達は動かなくなったシンを見下ろしながら、ブリッジへと戻っていった。
「ご、ごめんなさい!」
「俺は別に構わんがな」
「えっ、え、え?」
「戻るぞ」
これは、完全に弄ばれている。
楽しそうにするアーロンを、赤くなったユノが悔しげに睨む。
前までは何とも無かったことでも、今は違う。
アーロンの言葉や仕草の一つ一つに、心臓が忙しなく音を立てる。
それはとても厄介なことで、けれどとても幸せなことだと思えた。
「リュック! タッサハ!」
「復活……するかな?」
「多分な」
「なんでえ!? そうなのかよ!」
「シンの中に居るヤツを倒さなくちゃならない」
「これだけで倒せたら、討伐隊だって苦労しねえよな」
「でも、シンを弱らせたのは確かじゃない?」
「そうだよそうだよ!」
あくまでもことを前向きに捉える一行に、落胆していたシドも気を取り直して主砲の修理に取り掛かる。
それが終わるまでの間は、それぞれ自由に過ごすことにした。