カーテン越しにささやく声

 頭が割れるような痛みが私を支配している。もういっそのこと割れてしまった方が楽なんじゃないか。ぐわんぐわんと色んな声が響く。
 痛い、ただ痛い。
 私はよたよたとした足取りで保健室へ向かう。途中で職員室に行かないいけないのが面倒くさい。今はそんなところよりもベッドで寝転びたい。目を瞑りたい。

 「失礼します。保健室に行きたいんですが」
 「多いね、大丈夫なの?」

 大丈夫じゃないから来てるんだよ、と言ってやりたいがそんなことを言う時間すら惜しい。
 私は頭痛になる頻度が高く、耐えようとしても耐えられない頭痛もある。その時にはやむを得ず保健室に行こうとするのだが、何かと職員室の教師に小言を言われることが多い。だいたいが女性教師だ。保健室の先生が少しかっこいいから、行ける私に嫉妬でもしているのだろうか。あの先生は既婚者のはずだけど。

 「薬で抑えようとはしてるんですけど、無理みたいで」
 「行き過ぎたら、進級が関わってくるんだから」
 「すみません」

 なんとか許可をもらった。
 保健室用のスリッパに履き替えて中に入る。
 先生はパソコンのキーボードを叩いていた。

 「こんにちは」
 「頭が痛いです」

 どうぞ、と体温計を渡す。座っている向かいのソファには同い年の彼がいた、去年同じクラスで欠席回数も早退回数も保健室に行く回数もクラスで一番多かった。

 「頭痛?」
 「そう」

 体温計が示した数字は三十七度五分だった。

 「吐き気やめまいはありませんか?」
 「はい、それは大丈夫です……」
 「夜更かししてませんか?」
 「そこまで」
 「痛み止めは?」
 「この痛みの頭痛は効かないので飲んでません」
 「今日体育は?」
 「もう終わりました」
 「一時間休んで様子見ましょうか。それとも帰りますか?」
 「寝させて下さい」
 「奥のベッドをどうぞ」

 カーテンを開けるときにちらりと彼を見るとソファで横になっていた。
 スリッパを脱いで、靴下を脱いで、髪をくくっていたゴムを解く。
 皺一つない布団シーツはひやりと冷たい。薄い毛布を胸までかける。
 横になっても頭痛は止まらない。がんがんがんがんと私の頭を石かなにかで叩かれているように。

 「う、う……、痛い、痛い」
 「大丈夫?」

 ふわふわと現実と夢との境のような感覚で、いつの間にか少しうなされていた。

 「あ、ごめん」
 「頭痛ひどいんだね」
 「今日は特に」
 「そっか」

 先生に聞えたら怒られそうだから、聞えるか聞えないかぐらいの小さな声で話す。
 ごろりごろりと何度も寝返りを打つ。
 ああ、頭が痛い。とにかく痛い。

 「薬効かないんだよね」
 「うん」
 「あ、ごめんね。目覚ましちゃって」
 「いいよ、全然。寝れてたのかわかんない状態だったし」
 「この時間終わったらどうする?」
 「どうしようかな、頭痛治まりそうにないけどでもこれ以上休んだら留年しそうだし」
 「でもそのまま授業受けても何も入らないよ」
 「だよね、あともう一時間休もうかな。そっちは?」
 「次の時間からは受けるよ」
 「じゃあちゃんと寝ておかないと」
 「だね、ごめんね。話しちゃって」
 「ううん」

 彼とはよく保健室で会うことが多かった。私も彼も保健室の常連者で、たまにお互いの体調のことを話した。彼はどちらかというと精神的なしんどさが体にやってくるようだった。先生もそれをわかっている。私はベッドで横になっても彼はソファに座って先生と話していることも多かった。
 何回か彼と先生の話を聞いていて思ったことがある。彼は先生のことが好き。それに気がついたとき布団の中で私は涙を流した。
 少しだけ頭痛が弱まった時に私は少し寝ることができた。
 起きたときには次の授業が始まっていて、隣のベッドには彼はいなかった。 

 「起きましたか?」
 「はい、ありがとうございます。起こさないでもらって」
 「隣の彼と話せて眠れましたか?」
 「気付いてたんですか」
 「そりゃわかりますよ、狭い部屋なんですから」

 先生はくすりと微笑んだ。
 先生、綺麗な白衣着てるな。中のスーツもさりげなくお洒落だし。白衣は皺一つ無い。先生がアイロンをあてているのか奥さんがあてているのか。
 特に聞く気はない。先生はずっと私の保健室の先生でいてほしい。

 「これから行っても途中ですし、このまま寝ていったらどうですか」
 「はい、そうします」


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