渡る世間は変態ばかり


拝啓
弟よ、元気ですか?私は胃痛が酷いです、病院に行く金もありませんが別に大した問題じゃありません。亀甲と村正は元気です。縛られたがりと脱ぎたがりも健在です。あと亀甲のご主人様発言で社会的に1度死にました。
そんな我らですが、新たな任務に伴い、本丸カッコカリにゲートが出来ました。
給料アップ目指して頑張りたいという建前と首を吊りたい本音がせめぎあっていますが、まだ消滅したくないので取り敢えず逝ってこようと思います。弟も身体には気をつけるんだぞ。
敬具

追伸
やっぱり相手によると思うけど乱ちゃんは基本攻めだと思う。





政府の息のかかった郵便ポストに手紙を入れて、私は1人住宅街を歩く。
この時間軸には意外にも時の政府のパトロンが何人かおり、今回はその内の1件のお宅に挨拶及び協力願いを出しに行くのだ。
地図を確認しつつ……ここどこだ。
多分、いや、さっきの十字路が地図上ではここ…?え、この店見てないけどこっちから来たんだっけ?
地図をグルグルと回しながら脳裏は焦りで一杯だ。
まさかこの歳で迷子?というか約束の時間も迫ってるし急がなきゃ、だけどここどこだ、どうしようこんな事なら向こうの携帯などの機器持ち込み禁止を破ってでも携帯ナビを使えばよかった…いや、もうこんのすけ連れてくればよかった。動かなければやや大きなぬいぐるみとして誤魔化せたかもしれない。
どうしようどうしようと、意味の無い行為であると分かっていてもただ立っている事すら不安で足はあっちこっちと移動しては戻る。

「あの…どうかしました?」
みーつけた。


こちら豪邸のお隣の豪邸、工藤家にお邪魔した大河このはですオーヴァー。
質のいいフカフカのソファーに出来るだけお行儀よく座り、目の前の男を見る。イケメンだがなんか胡散臭さを感じるせいか何時ぞやの喫茶店のイケメンのような恐怖は少ない。が、自称大学院生のただ珈琲を入れるだけでも油断ならない相手であると感じる。

「本当にお茶もお出しせずでいいんですか?」
「お構いなく」

珈琲は苦くて飲めないのです。あと香りが強くて酔ってしまう。
珈琲を片手に向かいのソファーに腰掛けた眼鏡で糸目の男性はとても体格がいい。これは何かしらやっているな。強そうだ。
というか前は見えているのか?目を瞑っているようにしか見えないのだが。まあ、それは良い。

「家主の方からお話は聞いています」
「はい、ご協力いただきたく参りました。先程はお恥ずかしい姿を晒してしまいましたが…」
「この辺は入り組んでますからね、初めて来たなら仕方ありませんよ」
「恐縮です…」

迷子から救ってくれた目的地に住む彼に縮こまりながら頭を下げる。家主から話を聞いていると言ってもどこまでなのだろうか…追求するにはリスクが高いが、追求せずにいたらコチラのボロが出そうである。
かくいう彼のデータはこんのすけにインプットされていた為、多少なりとも知ってはいるが多いとも言えない。さて、どうしたものか。

「申し遅れました、私はこちらに派遣されました大河このはと申します。沖矢昴様…で宜しかったでしょうか?」
「はい、沖矢昴です。ですがこのはさん、様付けはちょっと…」
「(名前呼びかよ)失礼致しました、ご協力頂く場合にあたり、その対価のお話になりますが」
「…そうですね。協力させて頂きます。ですが対価は」



「俺が望むものを頂こうか」


人の顔の皮が剥けるところ、はじめてみたー(棒読み)





ウサミミ仮面声の眼鏡で糸目なイケメンは雄臭いイケメンでした。声は赤い彗星だが本名そう言えば赤井秀一だったな。資料で彼女多かったらしいのは見たし同僚と潜入組織での美人元カノ達を見たけど、こりゃあ納得ですわ、雄だもん。目元のクマが微妙にホラー感出してるけど。

「目的はなんだ」
「お話は聞いているのでは?」
「歴史を守るためとは聞いている」
「その通りです」
「が、君の目的は聞いていない」
「先程の通りですが」
「君になんのメリットが?」
「ありませんよ。ああ、ただ給料アップは狙ってます。生活苦ですので」
「…潔いいな」
「給料8万とかトンデモ計算して口座に叩き込みやがった上司のせいですね」

どこまで知っているのか。何故そんなことを聞くのか理解に苦しむがこれが交渉なら対等になるよう事実を述べる。

「…君たちにとっての過去であるココを、守るメリットは?」
「テロなど起こされると未来は大きく変わります。どの程度変わるのかは私に情報は開示されていませんが」
「敢えて家人ではなく俺に接触する理由は?」
「死期が変わる恐れがあります。遅くなるだけならまだしも、早まる危険の方が大きいです。貴方が、どんなに凄腕の実力者であろうとも」

沖矢昴…赤井秀一の緑色の瞳が細められる。

「嘘だな」

バレテーラ。脳内でちょっとだけ舌を出す。

「……その通りですが、結果的にはその可能性も」
「嘘だと認めるのか」
「はい。ですが、この先はお話しかねます」
「…そうか。君は正直者だな」
「…初めて言われました。馬鹿だの人間じゃないだのとは言われていましたが」
「…」

ちょっと引かれました、泣きそう。でも人間じゃない発言した奴に思わず惚れかけた事を言ったら更に引かれそうだから口を噤む。

「対価ですが、これで良いのですか?」
「また聞くかもしれないな」
「任務のためと銘打っておきます」
「有難い。そして、今度はこちらの番だ。何をすればいい?」
「顔見知り、または友人を演じていただけると嬉しく思います。私は大学には進んでおりませんので高校時代の後輩などとか」
「それだけで良いのか?」
「恋人のフリが一番ですが、それは畏れ多いので」
「…ふむ」

「やはり俺の死が問題になるわけでは無さそうだな」

「…」
「俺も沖矢昴も君の好みの男ではなさそうだ。あえて恋人関係を演じるメリットもない」
「…言葉の綾です」
「ホォー?」
「情報開示は許されておりません」
「なら仕事の話ではなく”恋人同士の話”をしよう」
「こちらの失言とはいえ、あえてそれを選ぶあたり趣味が悪いですね。特殊性癖持ちですか」

赤井秀一は脚を組み、ソファの背もたれに背を預ける。折りたたみ式であれば『運悪く』背もたれが倒れてしまえと呪うのだがこの豪邸を見ればそれはなさそうだ。クソが。

「何を護ろうとしている?」
「歴史」
「そうじゃない」
「私自身の命」
「それは半分嘘だな」
「なんでわかるの、この雄怖い」
「オス………」
「まあ…正直に言います。護りたいものが、貴方だと言ったら?」
「可愛い殺し文句だな」

赤井秀一は私の言葉に目を細め、口元は弧を描く。嫌な予感がする、逃げた方が良さそうだが逃げるのコマンドが選択できない。

「だが、それも半分嘘だ」
「ただ一つとは言ってませんから嘘ではないです」
「俺の他に護衛対象は?」
「禁則事項です。処罰されたらどうしてくれるんです?」
「君1人くらいならどうとでもなるさ」
「…命の危機かな?」
「保護という意味だ」

主語がないせいで恐ろしかったわ。私も敢えて主語使わなかったり忘れてたりするけどさ!あとうちに二振いるんですが。本体だったら持ち運べるか。検査されなければ。

「それも困るというか私の胃が崩壊するのでやめてください」

胃が痛いと腹を押さえアピールする。もうダメだわ協力関係築けないと思う、何やってもボロしか出ない。
それを見て仏心を出したのか、何時でも引き出せる自信を持っているからか。私を解放する気になったらしい。
目の前でベリっと剥がしていた皮の下地をつけ化粧をはじめた赤井秀一はあっという間に沖矢昴へと変身する。喉元で何かを操作する動きを見せ、イケメンで声はウサミミ仮面の再登場だ。イケメンビームの威力凄そう。

「では、よろしくお願いしますね、このは」
「なんで名前呼びなんですか沖矢さん」
「恋人なんですから当たり前でしょう?」
「ソレ、まだ引き摺るんですか!?」
「ほら、このはも。昴って」
「話を聞け!名前呼びなぞ無理に決まってんだろ!!」
「そっちが素か」
「うるせぇ!あんたも人のこと言えないだろ!」

イケメンはぐいぐいとにじり寄る。敢えてゆっくりと来ているからこそ、この男は私で遊んでいるのがわかるのだ。
三次元はノーセンキューだっつってるだろハゲ!!てないけど、えーと、糸目!!イケメン!!ああ、ダメだろくな罵倒も出てこない。
沖矢昴の顔が、私の視界いっぱいに映る。
やめてくれ、イケメンは怖いんだ。こんな経験初めてなんだ、どう反応すればいいのかわからない。これが数多くの女を虜にした男の実力か。初期装備縛りどころか、装備を全て外した全裸縛りで魔王に挑むが如し。勝ち目はない。

「ほら…ね?」
「す……すばる、さん…」

そこからの記憶は殆ど飛んでいて、気付いたら家に着いていた。
いつ仕込まれたかわからない、恐らくGPSか盗聴器の類だろう物が襟についていて、ブチ切れながらそれを処分した事を報告したい。
住所バレした可能性に震え、何をトチ狂ったか恋人ごっこを選んだ沖矢昴もとい赤井秀一は変態なんだと認識する。

もー!身の回り変態ばっかりじゃないですかヤダー!!!