ままならぬ


ハゲあがりそうなくらいストレスを感じている今、正直に本音を言おう。前もって言うが、これは罵倒である。


歴史修正主義者の毛根死滅しろ。







ゲートより出陣させた部隊が特に傷もなく帰ってきたことにホッと息をつく。傷付いた特上刀装(通称は金玉)も物が無事なら修復も出来るため、今はそれに霊力を慎重に送り込み直している最中だ。刀装妖精さん、ゆっくり休んでな。

「目撃されずなんとかなったよ。ただ、やはり敵の狙いは君の予想通りだろうね。全く、雅じゃない」
「デスヨネー。いやはや、碌でもない事考えやがる…」
「よしよし」
「ごこちゃんは大天使」

歌仙の報告を聞き、痛みを訴える胃を押さえる。悲しみの極である。ホント解放してくれ…。
綺麗に直った刀装をそのままに身体を倒して、ごこちゃんもとい五虎退の膝に頭を乗せると色白の細い指が私の髪を撫ぜる。五虎退は私に膝枕をしたがるのだが、本音を言えば私が膝枕したい。なのに、されるのは嫌なのか先程連続101回目のお断りを受けた。101回だぞ、祝えよ。

「ボクは面白そうだと思うけどなあ…でも無理矢理はダメだよね」
「後半だけ同意する…頼むから仕事増やさないでよもぉー」

乱藤四郎、通称:乱ちゃんが椅子に座りながらこちらを見て感想を述べる。胃痛が心做しか酷くなった気がして「うう」と唸りを上げた。

今回の出陣は数年前に飛び、護衛対象の拉致監禁の阻止をした。
護衛対象とは言っても、過去を守るべき護衛対象が多すぎである。現時点では二人だが、そこに二人、また一人と追加されるのである。そこから先はまた後ほど情報が開示されるらしいが、わかる時点で五人もいるのだ。辛い。
沖矢昴を名乗っている赤井秀一も協力者兼護衛対象なのだから出陣の指揮にリアルに忙しい。

そしてカンスト勢&極勢を指揮して思ったのは、やはりこの任務は私の所有する二口の刀剣男士では無理があるという事だ。
六口で連携してなんとか人の目を掻い潜ったのに対し、打刀二口では限界がある。
これはやはりさっさと現世にいる歴史修正主義者を捕らえねばならない。
だが、歴史修正主義者が日本に居ることは確定していても何処にいるのかわからないのがとても辛い。日本は小さな島国だが、それは世界的に見れば、の話であって。人間という個体からしてみれば途方も無くでかいのである。
隅々まで探すのは骨が折れるの騒ぎではない。捜し物は得意でも人探しはからっきしだ。

ただ、恐らく米花町か、その周辺にいるかも知れないと私は思う。
何故そう思うかというと、例えるならば放火魔だ。放火して一旦逃げ、後に現場の燃える様を見学しに戻る傾向のようなもの。
私の勘と予想が正しければ恐らくそれに近い。
だから離れていたとしても県境辺りまでの範囲にいる可能性が高い、と私は考えたのだ。

ただ結局のところ…広いのだ、範囲が。

タイミングの問題を含めれば溜息をつきたくなる。
闇雲に探すよりは“少しだけ”効率が上がる“かも”しれない。ただし“時間をかけただけで意味が無い”可能性も十分にあるのだ。
可能性を考え出せばキリがないが端から切り捨てることも出来ない。
だからこそ、沖矢昴との仮初の関係を築けた事は大きいのだけれど。その関係を今使うには現世で起こる予定の事件と、今回の出陣でほぼ確証を得た情報の関係で労力を割く余裕はない。
下手に使えばややこしい事が起こる可能性が高く、まだ二人のみの秘密ということにしておいた方が無難だ。
結局漏れ出た溜息を吐き、身体を起こして五虎退の膝から離れて、今日の出陣は終わりだと告げる。「解散!」と一言言えば思い思いにお茶を入れたりテレビを見たりし出した刀剣男士達を見届けて私室へと篭った。

最初はくだらない内容の任務だと思った。
実際くだらないと思っている。他人の運命なんて興味はないのだから。
仕事だからやる程度の認識でいたそのくだらない内容の任務がとてつもなく面倒なものなんて聞いてない…なんて言うのは言い訳でしかなくて。
「胃が痛いなあ…」
沖矢昴の電話番号を眺めながら、次の一手を考えていた。
こちらの情報を興味本位で探ろうとしているだろう男の姿を思い浮かべ、あんたの為にしてやってるのに、と恩着せがましく罵る。脳内でそんなことをしても、意味は無いのだけれど。

沖矢昴の携帯番号をタップすれば、コール音が数回した後、「はい、沖矢です」とあの声が聞こえた。

「ベルツリー急行、乗りますよね?チケット3人分追加で手配してもらえますか」

持ってる奴に頼もうという一手を思いついた私が最早手段を選んでなかったのは認めよう。金がないのだ。金がないと任務に行けないのだ。なのに金がないのだ。
二振から六振に増え、さらに嵩む生活費も、これで解決するなら汚い大人の代名詞にでもなってやろう。




通話の後、通帳の残高を見て改めて人生はクソだと実感したのは黙っておこう。
来月の請求書が過去を変えられる事よりも怖い。