どいつもこいつも自由人


身を隠している立場にありながら動きすぎではあるまいか、沖矢昴。


乱ちゃんも歌仙も私も有事には駆けつけられる範囲にはいるのだけれど、あっちこっちと移動しては部屋に入ったりなどの行動をとっているらしい沖矢昴の携帯の動きに遠い目をしながら、八号車に向かうべく足を進めていた。なにか妙に気になるのだ。もしかしたら物を動かそうと奴らが動こうとしているのかもしれない。勘でしかないが勘もバカにはできない。一応の保険である。
歌仙とも途中で別れ、灰原哀の周辺護衛にあたっているが乱ちゃんと歌仙を呼び戻そうか悩んでいた時だ。
インカムから乱ちゃんの声が聞こえる。
「主のお姉さん、こっちに来てる?」
「うん」
「打刀が一振、貨物庫に近づいてるよ」
「…それはまた少ないな。歌仙、そっちは?」
「敵影はないね」
恐らく聞こえているだろう歌仙に話しかければイヤホンから歌仙の声が聞こえる。
少し立ち止まり考えた。打刀一振だけ?妙ではないか?政府からの命令としてこの任務が来たということはそれなりに敵も力を入れて来ているのではと思ったのに。敵は何を考えている?
他の審神者も乗車しているかもしれないから、そちらが対象している可能性も無きにしも非ず。だが、そんな動きは察知できていない。派閥が違い尚且つ仲が悪いとこうなるのか…他の審神者と連絡や連携が取れないことが悔やまれる。何にしても目の前の敵を屠るのが最優先である。使役している歴史修正主義者が近くにいれば捕まえねばならない。
「わかった。敵のところへ行こう。ここなら短刀の方が有利だし、さっさと片付けて戻ろうか」
「はあい」
小声でやりとりをして、視線を前に向ける。
少し歩くと乗務員が座っているはずの椅子に、背広の男と通路の影にいる妙に見覚えのある少年の姿を見た。

「江戸川…乱歩くんだっけ?」
「げっ…あ、あー!このはお姉さんだー!あとぼくコナンだよー」
急な猫かぶりに逆にこちらが動揺する。
声をかけておいてなんだが、更に名前を間違えていたことに謝罪でもしようとしたのだが、なんだか妙な空気を感じる。
なんだ?と覗き込んでみると…なんだこのメンバー。
「今ね、小五郎のおじさんが推理してるんだ!」
「おっさん寝てない?」
「眠りの小五郎と呼ばれているんですよ、先生は」
「夢遊病の亜種かな…ぎゃー!イケメン!!」
さらっと入ってきた事に一瞬反応が遅れた。
バーボン、安室透、降谷零…どれで呼ぶべきか迷うが多分今は安室透だろう。唐突に現れイケメンと騒いで影に隠れる変な女が完成したが、私は悪くない。こんなところで推理ショーなるものをしてる方が悪い。イケメンがいるのが悪い。
理不尽な責任転嫁を脳内で済ませ、「そういやこんなこともあるって書いてありましたね」「どうします」「任務続行」「異議なし」と脳内会議も終わらせた。
「このはお姉さんはどうしてここに?」
「なぜ乗ってるかって意味で?どうしてこの八号車にって意味で?」
「後者かな」
「探検&隠れんぼ」
「…はは」
見るからに呆れた、という顔で口端を引き攣らせたコナンくんは失礼である。大人になっても探検は心躍るものだ。任務のためなので真っ赤な嘘なんだけども。

「お姉さんみーつけたっ」
「おっふ、見つかっちゃった」

背中に軽い衝撃を受け、乱ちゃんがこちらを見上げた。

「次はお姉さんの番だよ!」
「よーし、おねーちゃんがおいかけちゃう…速っ!?」

流石の極短刀、機動が凄まじく早く既に通路を塞いでいた人々をすり抜けていた。
慌ててそれを追いかけようとするが…。

「すんまっせん!!」

イケメンにぶつかったのである。
やばい浄化される、逃げろと相手が何かをいう前に大声で謝り乱ちゃんを追う。
ひー!エライ目あった!!



無事「ボクといっしょに乱れよ」とハートマークがつきそうなセリフと共に敵打刀を屠った乱ちゃんに「お乱れパイセンお乱れ発言禁止ィ!」と騒いだが一応殲滅(?)は終わったのだ。道を戻るとちょうど推理ショーが終わったらしい。煙がたちはじめた私たちのすぐ横の部屋にイケメンが駆け寄り私たちを探偵達の所へ押しやる。
さて、ここまできたら本当にやることがない。
人の流れに沿って、爆発を見届け、途中停車した駅で降りた。


歌仙とも合流し、沖矢昴とも合流する。
「お疲れ様でした、昴さん」
「今の今までどこへ?」
「貴方の動きは確認していましたが、まあ…諸々」
「発信機でも?」
「まさか。ただ、捜し物は得意なもので」
「調子が悪いと春画発見機になるよね」
「パイセン、背後から撃つのよくない」
サラッと乱ちゃんに黒歴史になりつつある過去数回ほどあったことを暴露され心に重傷を負う。
歌仙はフォローもせず苦笑しているだけだ。ちくしょう。
これから取り調べらしいがトンズラこく予定らしい沖矢昴に便乗してトンズラする予定を立てる。
二人が刀の姿に戻れば工藤夫人の車の定員もなんとかなる。

そんなとき、視線を感じたのだ。

「昴さん、失礼しますね」
小声で声をかけ、沖矢昴の腕に抱きついた。
「昴さん怖かったよぉ」
そう言って渾身の涙目…いや涙は結局浮かびはしなかったが多分怯えた表情はできた。
突然のぶりっ子に沖矢昴が柄にもなくビクついた事にそこまで気持ち悪かったのかと内心落ち込みつつ、その反面、反応にイラッとくる。
「大丈夫ですよ、このは。さあ、行きましょうか」
それでも合わせてくれている事は流石なのかコイツが化け物なのかは兎も角として、するりと腕を抜き取り私の肩を抱いて歩き出す。
鋭くなる視線に私は安心した。


ほぼ何もすることも無く、打刀を屠ったくらいの収穫しかなかったかと思われていたがそんな事はなかったらしい。

人混みでは正確な人物は見つけられなかったが、これは利用するしかない。

地面に埋まった種を、ちょっと刺激してやった。
さあ、どう動くのかな?歴史修正主義者さん。