なぞって、おえる


未だダメージが抜けきらぬのかぼんやり虚空を見ているコナンくんにハラハラする。
これ記憶なくなってたらどうしよう、歴史変わらない?大丈夫?彼のデータも一応見ているから知ってるけど普通の小学生になってたりしない?
と周囲とズレた心配をしているが、周囲からは子供の怪我を心配する女にしか見えないだろう。
医者の言葉に安心したコナンくんの保護者たちはコナンくんを見ている。
「ここどこ…?園子姉ちゃんの別荘じゃないよね」
「ここはアンタにラケットぶつけた…」
「うちの別荘よ。ごめんね坊や、汗で手がすべちゃって…」
そう言うのは桃園琴音という女性である。
その仲間の梅島真知という女性が追い打ちをかける。
その後続々と仲間が二人、どちらも男だが合流するのだが、まあ…石栗三朗という男はどこか担当に似ている。
担当のほうが彼よりずっとクソだし汚いし肥溜めに突っ込んで100年くらい放置したようなやつだが。
「その衝撃映像を撮ってネットにアップしてたのに。少年を襲う殺人サーブならぬ、殺人ラケット!ってね」
「炎上して特定されて住所や個人情報晒されるパターンだ…」
高梨昇という男が石栗にキレながら注意する中、呟いた私の一言が聞こえていたらしい安室透が隣で苦笑する。
…待って、待って?待って♥
なんで隣にいるのかな?おまえ、さっき私に引いてたよな?なんで隣にいるかな?特殊性癖なのかな?かな?ナタぶん回すぞコラ。素手の安室透に負ける気しかしねーぞコラ。
武器があるイコール勝てるわけではないのが現実である。
現実逃避ついでに一言言わせていただきたい。
この四人、21歳22歳と…私より年下とか嘘だろ……?
そこでチラリと安室透を見る。
ニッコリと笑いかけられ即座に顔を逸らした。今の笑顔で私の中の私が更に何人か死んだ。私が死んでも代わりはいるもの…と言い残して。代わりはいても果てはあるので勘弁しろください。
あれは殺人サーブならぬ殺人ラケットならぬ殺人スマイルだ。
資料(こんのすけ)にこの男が29歳と書いてあったが、私は信じない。絶対にだ。いってて私と同い年くらいだろう。その位、若く見える。
任務の件もあり、どこか間違っている情報ばかりに疑心暗鬼になる。だって救済阻止しろって言われてるけど大体ホモカップルの成立を阻止ばっかりしているし、ベルツリーの一件だって深刻に見えたから気を引き締めて向かったのに肩透かしくらったようなものだ。収穫はあったけれど。
ともかく、私がこうなるのも仕方ないだろう。

そう思っているうちに、石栗からミックスダブルスのお誘いを受けるが周囲は休憩や食事を求めた。別に動いてもいなければ腹も減っているわけでもないが、ここは集団行動が鉄則である。だって、経緯はどうあれ私連れて来てもらった立場だし。
昨夜のアイスケーキの残りを部屋で食べると言い残した糖尿病予備軍は女性陣の心配を他所に去っていった。
可もなく不可もないはずの冷やし中華は久々にまともなものを食べたせいかとても美味しゅうございました。ただ胃が…胃が……。
とダウンした私は桃園さんに1度土下座するべきだ。1室借りて横になっていると様子を見に来たという安室透の姿にげんなりする。蘭ちゃんと園子ちゃんをよこせ、可愛い女の子がいい。
久しぶりに動けない程の胃痛が何故かを考える。単に突然の普通の食事に胃がびっくりしたのか…。

「まともなもの食べたバツか……」
「貴女は普段からどんな食生活してるんですか…」
「一日一食、具なしの握り飯…」
「はぁ!?」

安室透のガラの悪い声にビビる。
「貴女バカですか!?よくそれで生きてますね!?」
「いや、だってビンボーだし…」
というところでだろうか。
唐突に2階から物音が響く。

「…話は後です。少し様子を見てきますね」

そう言って去る安室透の後ろ姿を眺めながら、私は眠りの底へ落ちていった。




石栗、死んだってよ。
どういうことだってばよ。
警察からの事情聴取なんて私はじめてぇ…。
「寝てた」
「え?」
「寝る前だったらそこの彼といた。更にそれ以前だと部屋を借りて休んでた」
「発見前は確かに僕と一緒でしたよ。彼女が2階に上がるのは見てませんね…」
モジャ毛の警察官にアリバイを聞かれるが遺体発見前に話した安室透くらいしかアリバイを立証できるものがいない。
そもそも今日であったばかりの男を殺す理由がどこにある?無差別殺人鬼でもあるまいに。
堂々としていれば、警察もコイツはないだろ…みたいな目で容疑者から外されたようだ。
ところで鍵がどうのと言っているのを聞いて、問いかけてみる。

「部屋のドア壊したんじゃなくて開けたんでしょ?なんで鍵?」
「鍵がしめられていて、密室状態だったんです。でも安室さんが鍵をこじ開けてくれて…」
「……」
「あの…その目やめてくれませんか…?」

蘭ちゃんからの情報に思わず安室透を見る。状況が状況とはいえ鍵開け出来る探偵兼アルバイターってなんだよ、と。ドン引きですわ、おほほほほ。
「それで、鍵がまだ見つからないんです」
「んー…?」

警察の人がこれと同じ鍵、と見せてくれたのを見ながら周囲を探ってみれば簡単に見つかった。見つかったというか押収しているではないか。
これを言うべきか。いやしかしどうやって?とまた思考にのまれぼんやりとしていた。
そこから、毛利小五郎の推理がはじまった。
食事の時は私もいたが、それ以降起こったことすら知らない私はへー、ホーと聞くしかない。
で、結局鍵の在処の話に戻るのだが。

「鍵の在処、わかるけど」

片手を軽くあげて発言すれば、注目の的になる。おいやめろ。コミュ障にそれはいけない。やめろください。

「あなた達が疑っている、ペットボトルの中だよ、なんか変な気配っていうか…うわ、これまさか……」

気配を辿っていけば妙なものまで察知してしまう。
私の反応を訝しげに見つめる面々の中の、園子ちゃんに向かい叫ぶ。
「園子ちゃん!今すぐ水がぶ飲み!!主命だ!!」
「はあ!?」
「うるせえ飲むんだよあくしろよ!!」
「ちょ、ちょっとこのはさん…!」
突然騒ぎ出したとしか見えないだろう私の態度に周りは困惑するが安室透のてによって口を塞がれることで幕引きした。
これは文字通りの意味であり私の生命が失われたとか気絶させられたということではない。
離せ!と言いたいがモゴモゴと言葉として成立しない擬音を立てつつ安室透を睨む。
あ、無理眩しい。
イケメン怖いでござる。

そうこうしていると探偵たちによるペットボトルに鍵を隠すトリックの解明が続けられる。そして、流れるように犯人を突き止めた彼らは彼女から話された動機や、血に落ちた鍵を知れば私が騒いだ理由を理解してくれただろう。


…これ面倒になるやつ?


と思ったが、案外探偵陣からは軽くスルーされたのである。ありがたい事だが、なんか釈然としない。
帰りの小五郎さんの車の中で園子ちゃんと蘭ちゃんと女子トークをする。おい、ひとり女じゃねーぞとか言うな。生物学上は女だわ。
「いきなりあんなこと言い出したからビックリしたわよ…」
「なんでわかったんですか?」
「捜し物だけは得意なんだ。物は純粋だから聞けば応えてくれる。まあ、職業柄の勘とかそんな感じ」
「どんな感じよ…」
呆れたような園子ちゃんに遠慮なくなったな、と言えば遠慮する気もおきないと言われた私の心に大ダメージの戦線崩壊である。とてもつらい。
「このはさんの職業って?」
「一応神職…かなあ?私は捜し物特化だから、それを名乗るのも烏滸がましいってレベルだけど」
そもそも居候だったからもうこれは真っ赤な嘘としか言えない。が、本当の事を言うわけにもいかないため必要な嘘だと自分に言い聞かせる。気をつけておかないと後々グルグルと巡ったあと自分の首に巻かれて締められかねない。


気晴らしのつもりが散々な旅行になったと、ここに記録しよう。
そして現世遠征を命じられた審神者が集められる事になったとこんのすけから伝えられた。
………私の胃がそろそろ爆発しそうである。